第12話 これ程まで僕は冒険者に憧れていたのか……。
ツバキ「良い子のーみんなはー、元気にーしてたかなー?」
ザクラ(アンタもシツコイわよ!)
ツバキ「お姉ーさんもー、元気だよー」
貧女神(待ってください、まだ話は終わってませんよ)
ツバキ「今回はースペシャルげすとをーお招きしましたー」
※※※「…………。」
ツバキ「初めましてー、ようこそー。」
※※※「……あの、わたくし、まだ本編に登場してませんわ。」
ツバキ「いーんです。どうせー、途中でーエタるしー。」
※※※「……はぁ。お兄様がお聞きになられたら、発狂しそうですわ……。」
ツバキ「ではー、本編をーどーぞ。」
第12話 これ程まで僕は冒険者に憧れていたのか……。
「おう、嬢ちゃんたち、来る所間違ってるぜ。」
「ひっひっひ。何なら俺が、ちゃんと案内してやるよ。」
「……………。」
それはテンプレで――、
いきなりの洗礼だった。
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時間は少し遡る。
あの後、何事もなく領都に着き、門番に多少顔を引きつらせつつも、さして詰問もされず門を潜ると、そこは、人種の坩堝だった。
領都の門前は、サッカーグランドの半分ほどの広さで半円形の広場があり、中央に水場と噴水、そこから三方に分かれている街路樹が薄紅色の葉を生い茂らせて並んでいる。黄色い石畳の通路が街路樹に沿って、正面と左右に伸びていた。
建物は木造、石造りとあり、2階建てや3階建てばかりで、平屋は見当たらなかった。
そして、人、人、人。
噴水の近くで寛ぐ、赤髪と青髪の人族。軽装なので都民なのかもしれない。
街路樹に背を預け瞑想している獣耳の戦士風の女性。両腰に二つの剣を下げている。
門から入ってきた皮鎧を身に着け細身の剣を下げた剣士風の男。金色の長髪から覗く先のとがった耳はかの有名なエルフなのか?
そうだ! 僕はこれを待っていたんだ! ビバ、ファンタジー!
「ハイハイ、良かったわね。それじゃあ、行くわよ。」
ハイテンションの僕の手を取り、呆れた顔で引っ張ってくる桜さん。ははは、引っ張らなくても、ちゃんと付いて行くよ。何故かモーゼが海を割るが如く、人波が分かれ、目の前に道が出来たけど。
あちこちに視線を向けていると、斜め先にいる二人組の若い冒険者風の男たちが、首を妙な方向へ曲げて会話しているのが見えた。こちらからは、表情を窺う事は出来なかったが、首が痛くならないんだろうか?
「――あっ!」
小さな声が足元から聞こえたので、そちらを見ると、小さな少年がコケていた。その少年は呆然と地面を見ている。そこには肉串らしきものが落ちていた。ふと、足を見るとタレらしきものがベッタリついている。あれ? もしかしてこの子とぶつかった? あっぶねー、神経が無いから気が付かなかった。
「――すみません、すみません! 兄はまだ小さいのです。お許しを!!」
助け起こそうと手を伸ばしたら、横合いから小さな男の子が倒れた少年の前に回り込むと、その子に覆いかぶさるように土下座をした。…………うん。分かっていたさ。自分がどう見られているかなんて……。
「ゴメンねー、大丈夫ー?」
手を伸ばした格好で固まっていた僕を見かねて、椿姫さんがかわりに謝罪してくれた。
「こっちのお兄ちゃんのー足がー、君のー肉串をー食べちゃったねー。」
土下座をする兄弟の前にしゃがみ込む椿姫さん。そして懐から取り出した銀貨を――。
「これでー、新しいー肉串をー買えばいーよ。今度はー『そこまでよ、椿姫。ソレ以上は、異世界でもアウトよ。』はーい。」
しきりに頭を下げお礼を言う男の子と、椿姫さんから受け取った銀貨を持って喜んでいる少年から、逃げ出すように離れる。僕は海兵じゃないんだ。そして、優れた弟を妬む兄でもない。只の――0歳児だ。
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主要な通路から少し外れた所にソレはあった。
――冒険者ギルド領都ラインハルト支部。
石造りの無骨な外観は、まさに荒くれ者の砦といった趣だ。3階建て相当の高さのある建物の半分まで届く高さのある両開きの扉は重厚で、刃物などで出来た疵や擦り切れた窪みなどが、このギルドの歴史を感じさせた。――時は丁度昼時……。扉は大きく開かれていた。
「まずは、最初の目的地に着いたわ。ここでコウは、冒険者デビューを果たすのよ。」
「目指せー、テンプレ王ー。」
自分がどのように見られていたか、再確認させられ軽く落ち込んでいたが、冒険者ギルドの建物を見て、再びテンションが上がってきた。椿姫さんの言う通り、ワクワクのテンプレが待っているに違いない。
どうしよう? やはり、『ここは、女子供の来る所じゃないぜ』とか『子供は帰って、ママのオッパイでも吸ってな』とか言われたり、『俺様が、冒険者の厳しさを教えてやるぜ』と言って、決闘する事になるのだろか?
「行くわよ、コウ。」
ギルドの入口で、呆れたように声をかける桜さん。トリップしているうちに、置いて行かれる所だった。後ろにいた椿姫さんを見上げると、『先に行ってーいーよ。』とにこやかに言われた。では、遠慮なく。僕はギルドに入っていった桜さんの後を追った。
冒険者ギルドの建物に入ってすぐに見えたのはテーブルとイス。それに飲み食いする冒険者たち、だった。右を向くと奥にカウンターらしきものが見える。冒険者ギルドのお約束の一つ、併設された酒場だ。
今度は反対側を見ると、壁面までテーブルとイスが置かれていた。コーナーには一段高く段差がつけられ、アップライト型のピアノっぽいモノが置かれている。
壁には幅5メートル高さ2メートルくらいの大きさで領都近辺の地図が描かれていた。所々に赤色で×が書かれアルファベットが添えられているのが入口からでも見えた。
酒場のある入口付近は吹き抜けになっていて、天井付近の壁に、採光用の大きな窓が付いていた。
酒場の区画から奥は2階部分があり、一部踊り場のように通路がむき出しになっているのが見える。
「コウ君ー、サクラが待ってるよー?」
初めて見る冒険者ギルドに、心奪われた僕を、椿姫さんが小声で呼び戻してくれた。イカンイカン。前世では、遂に行けず仕舞いだった冒険者ギルド。これ程まで僕は冒険者に憧れていたのか……。
「…………。」
もう一度、優しく肩を叩かれて、先を促す椿姫さん。いや、もう少し堪能させて下さいよ。
椿姫さんに促され、僕は渋々歩き出した。
入口正面は、人が二人並んでも余裕で奥に通れるだけのスペースが開いている。そこを、椿姫さんと共に通り抜ける。テーブルでは酒を片手にカードゲームを興じる獣人がちらりとこちらを見たり、組んだ足をテーブルの上に投げ出したシーフのような年齢不詳の男が、椿姫さんを見て口笛を吹いたり、僕を見て、投げキッスをする豪快な女戦士がいた。――それにしても初めて見たよ、ビキニアーマー……。
酒場のエリアを抜けると薄暗くなった。冒険者ギルドの1階部分には窓がなく。壁やカウンターの上などに魔法の灯りが疎らにあるだけだ。左側の壁面には依頼票が疎らにピン止めされていた。正面はL字型のカウンターがあり、その奥は職員の机が規則正しく並べられていた。何だか、日本で見た役所のイメージに近い。
そして、メインのカウンターに座る受付嬢たち。髪の色が左から青、金、赤と信号機みたいだ。ボブカットの青髪の二十歳くらいのお姉さん。右目の泣き黒子が色っぽい。金髪ドリルのお姉さんは場違いにゴージャスなオーラを放っている。そして……、赤い長髪を炎のように逆立てている美少女。
年齢は椿姫さんと同じぐらいか? 目の前の大男を小突いている。なんか凄く機嫌が悪そうだ。大きな戦斧を背負った体格のいい糸目の大男は小突かれながらもペコペコ頭を下げている。
周りも、ギルドの職員を含め無視している。うん。僕も無視しよう。
赤髪の受付嬢から離れるように、青髪の受付嬢の前の列に並ぶ僕たち。
それを待っていたかのように、列に並んでいた二人の男が振り向いた。
かくして、最初の場面に戻るのだった。
※※※「……はぁ。まさか、コウ様がこの様な酷い仕打ちを受けていたなんて……。」
サクラ「――第3夫人としては、気になるのかしら?」
※※※「――え? 何の事ですの?」
ツバキ「銀ちゃんー、それー、言っちゃうー?」
サクラ「……自分で言うのもなんだけど、普通、欄外でネタバレしないわよね?」
ツバキ「新しくてー、いーと思うよー。」
サクラ「――とにかく、次回の投稿は10月18日12時よ」
※※※「胡麻化さないで下さい。第3夫人とは、何の事ですか。」