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平凡勇者の世直し漫遊記  作者: ワタリガニのように
第1章 平凡な〇歳児の冒険者
13/55

第8話 コメントのしようがないんですが……。

※10/8 15時 次回更新日を変更しました。


いよいよストックが無くなってきた。


地獄の始まりだ……。エターナル――グペッ!

第8話 コメントのしようがないんですが……。







――チュン、チュン。


 ――スズメの鳴き声……? 朝か……。目は開かないが、瞼の裏は薄っすらと明るい……。


 寝返りをうつ。おや? 動けない……。まあいいや。このまま、至福の時間を堪能しよう……。


――チュン、チュン。チュチュン、チュン。


 ――――? 煩いなぁ。でもなんか、このスズメ、妙に声が涼やかだなー……。


「ちゅんちゅん。ちゅんちゅん。」


 ――って、まさか? 


 一気に思考が覚醒する。目を開けるとそこには無表情の桜さん……。


「これが本当の朝チュンね……。おはよう、巧クン。素敵な夜をありがとう……。」


 『朝チュン』ってなんだろう? 桜さんの能面のような表情を見る限り、言葉通りではない事は分かるんだけど……。昨日の夜、僕は桜さんにどんな失礼な事をしたんだろう?


 確か、【意訳】の能力を調べると称して、揶揄われて――じゃなくて、そうだ、あのおふざけだと思った行動が実は本当に調べていただけだったんだ……。悪ふざけだと思って失礼な真似をしたから、桜さんに謝って……、それから――


 覚えてない……。多分、寝落ちしたんだろう、赤ちゃんだしね。そして、朝までグッスリ……。


『あの……、桜さん。その、昨日の夜はごめんなさい。』


「…………。」


 僕の謝罪にも無言の桜さん。そりゃ、怒るよね……。真面目に調べていたのに、ふざけていると思われ、更に、そのまま先に寝られたら、僕でも嫌な気分になる。さっきの言葉も嫌味だったんだろうな……。


『その、せっかく桜さんが調べてくれてたのに、先に寝ちゃって……。』


「……巧クン、憶えてないの?」


『はい。すみません。』


 桜さん、声のトーンを下げるとコワイです……。


「……そう。それなら仕方がないわね……。昨夜はあんなに、激しかったのに……。」


『――えっ? 僕、そんなにイビキが酷かったですか? すみません。昨日は寝られなかったんですね……。』


 なんて事だ、僕がイビキをかいていたなんて……赤ちゃんなのに……ちょっとショックだ。


「いいえ、そうじゃなくて……。」


『――えっ! じゃあ、激しく寝返りを繰り返していたんですか? もしかして、蹴りとか、頭突きとかしちゃいましたか。』


「そうじゃなくて……。もう、いいわ。今の事は忘れて頂戴……。」


 何故か、疲れた声で許してくれる桜さん。睡眠不足なんだろうか? 悪い事したなぁ。


「それよりも、ちゅんちゅん。おはよう、巧クン。」


 朝の挨拶の間にスズメの鳴き声を真似る桜さん。最初に聞こえてきた鳴き声は、やっぱり桜さんだったのか。この世界ではスズメに似た鳴き声の鳥はいないのだろうか? まあ、スズメの鳴き声に似た大型の魔物がいるとか聞きたくないので、質問はしないが……。――いないよな?


『おはようございます、桜さん。ところで、『朝チュン』ってなんですか?』


 ――って、なんで僕の質問に、絶望したような顔で見るんですか? ちょっと聞いてみただけなのに……。僕が知らないとそんなにショックですか? えっ、もしかして常識問題?


「……そうよね。元は中学生だった巧クンに、何を言っているのかしらね……。」


 ……どうしよう? 何故だか分からないが、桜さんが落ち込んでいる。どう励ませばいいのか分からないし……。本当にどうしよう?


『――笑えばー、いいとー思うよー。』


 ……いやいや、椿姫さん。落ち込んだ相手を笑うなんて、どんだけ鬼畜なんですか……。と、いうか、起きてたんですね、椿姫さん。『オハヨー』ってクスクス笑ってないで、桜さんを何とかして下さいよ。


「いいのよ、巧クン。あたしは過去を振り返らないの。」


「だからー、銀ちゃんはー、行き当たりばったりでー、追い詰められるんーだよー」


 だから桜さん、その言葉は使っちゃいけない場面ですって。早速、椿姫さんにやり込められているし……。


「さて、おはよう、巧クン。早速、昨日の続きをしましょう。」


 本当に反省しないんですね、桜さん。あなたはどこぞの世紀末覇者ですか……。


「そーだねー。【ギフト】の事はー気になるしー、それにーお腹すいたー」


 椿姫さんが追撃しないから変だと思ったら、腹ペコのせいだったのか……。なんて、気分屋なんだ……。


 桜さんたちは、ベットから這い出ると、各々昨夜と同じ服装に着替え、(僕は何も見ていないぞ)その後、ベットに残されていた僕を、ベビーベットに戻した。


 そのまま二人は、部屋を出ていく……。確かに僕は敵の組織に狙われてないらしいけど、一応、僕の護衛だよね? 僕を一人にしていいの?


 閉じられた扉の向こうの、足音が小さくなっていく。廊下は石敷きなのか、桜さんたちの足音が響いていたな。






          #####






 桜さんたちが出て行って、暫く時間が経つ。――まさか、僕を放置して、自分たちだけ朝食を済ませるつもりか? 僕もお腹が空いているんだけど……。


 帰って来るまで、待つしかないのか……。


 穏やかな日の光が、窓のカーテンを透かし、突き当りの壁面にカーテン模様の影をボンヤリと映している。どこか窓が開いているのか、時折揺れるカーテンが、風の存在を教えてくれる。


――確か、地竜の月(7月)だったっけ。朝とはいえ、日差しも強くないし、過し易い気温だな。


 異世界だし、この地域には夏が存在しない(・・・・・)のかも知れない。前の異世界では灼熱の蜃気楼から数メートル離れえただけで、極寒の銀世界に変わる土地も存在した。それだけじゃない。日本の、いや、地球の物理の常識が通用しない世界がここには存在するのだ。


 耳を澄ませてみるが、桜さんが出て行った後は、足音一つしない。まったくの無音ではないが、人々の生活する雑多な音は、僕の耳に届かなかった。


――静かだなー。最近はドタバタしてたから、この状況は、落ち着くなー。


 心を落ち着け、改めて考えてみると、腑に落ちないことが、何点か思い浮かんでくる。いや、腑に落ちないというより、違和感? かな……。


 僕と彼女たちの間にあるナニかが、ボタンを掛け違えているような微妙な違和感を……。





          #####





「さて、待たせたわね、巧クン。早速、ママがオッパイを上げましょう。』


 胸元のボタンを外しながら、涼やかな声で僕を揶揄う、桜さん。僕もう、離乳食に移行しているんですけど……。それに、椿姫さんが押している台車に乗せてあるものは、僕の朝食ですよね。


「……冗談はこれくらいにして、はい、あーんして、あ・な・た♪」


「…………。」


「あら、あたしが給餌するのは、ご不満? なら、口移ししかないわね。」


 匙で掬い取った離乳食をパクッと咥える。桜さん、ごっご遊びはもういいので、普通に食べさせて下さい。待たされ続けて、お腹ペコペコです……。


「――あら、しっかりと味が付いていて、おいしいわ……。」


 コクリと喉を鳴らし、意外そうに呟く桜さん。――て、食べるんかい!!


「えー、銀ちゃんー、ほんとー?」


 桜さんの言葉に魅かれ、僕の離乳食をパクつく椿姫さん。『あー、ホントだー。』じゃ、なくて! 僕のゴハン……。


「――そろそろ、限界のようね。食べ物の恨みは恐ろしいと言うし、椿姫?」


「はーい。ゴローちゃん、ゴハンですよー。」


 僕のお腹の鳴る音を聞いた桜さんが、食器と匙を椿姫さんに渡す。


 椿姫さんに抱えられ、少しづつ離乳食を食べる僕。桜さんは食べ物の恨みは恐ろしいと言ったが、僕自身、食べ物に執着した事は無いんだけどね。お腹が空いたら食べはするが、一度たりとも、おいしいと感じた事が無かった。逆に、不味いと思ったことも……。


 味覚障害なのか、それとも他の病気なのか、心配されたくなかった僕は、他の人にこの事を打ち明けた事は無い。僕自身は、別に困る事も無かったので今でも放置している。


 だから、飢えない程度には、食べさせて下さい。頼みます桜さん。


「……さて、食事も済んだ事だし、あたしの話を聞いて頂戴。」


 僕の朝食が済んだのを見計らって、桜さんが口を開く。――やっと、本題に戻るのか。


「巧クンは、昨日【魔法のオシメ】の有用性を認識したと思うのだけど、実はこれ、あたしが用意した特別製だった事は知らないわよね?」


「…………。」


 あのー桜さん? 何を言ってるんですか? それ、本題じゃないと思うんですが……。


 確かに、【魔法のオシメ】は今の僕にとってはマストバイのアイテムではあるけれど、それと、本題とは関係ないような気がするんですが……。


 今更ながらの説明として、【魔法のオシメ】とは、赤ちゃんの排泄物を自動処理し、常に身体を清潔に保つ魔法が付与されたオシメで、主に上級貴族や豪商の間でしか流通していない希少アイテムだ。(食事中の方、ごめんなさい)


 そのお陰で、僕は粗相の後始末を、他人にして貰うという、罰ゲームを受けなくて済んでいた。もし、平民に転生していたら、羞恥で悶死していたに違いない。貴族の元に転生してよかった……。


「普通の【魔法のオシメ】は、とある理由で、ある機能が付いているのよ。」


 つまり、桜さんの用意した特別な【魔法のオシメ】は、その機能がカットされているのか。


「その理由は、健康管理よ。通常、排泄物の頻度やその状態によって、体調を知るのだけれど、自動処理だとそれが分からなくなるために、追加された機能なのよ。」


 ……なんか、嫌な予感しかしません。桜さん、まさか……


「――それはね、排泄物を感知したら、音が鳴り、症状に応じて色分けされて発光するの……。」


 もはや、何が発光するとか、言いません。確かに赤ちゃんには必要なものだとは思うけど、僕にとっては余計な機能だ。


「因みに、音というよりは曲ね。確か、グリーグの朝とソックリな曲だったわ……。」


 ……何故にクラシック? その場面を想像して、僕は戦慄した……。


「巧クンが身に着けている特別製は、上級冒険者御用達の【魔法のパンツ】と同じ、健康管理機能を省いたモノよ。」


 有難う御座います、桜さん。このご恩は一生忘れません。もし、その機能が発揮されていたら、立ち直れなかったかもしれない。


「そう言えば、こんな逸話もあったわね。」


 そう言って桜さんが語るのは、ある中級冒険者の話だった。


 【魔法のパンツ】を格安で手に入れたその冒険者は、仲間とともにダンジョンへと赴いた。


 比較的浅い階層では、時間短縮のため、倒しても旨味のないスケルトン系は回避して進んでいたが、悲劇はその時、起きた。


 岩場の影に潜み、魔物が去るのを息を潜めて待っていた冒険者たちの近くから、突然曲が流れ始める。驚いて仲間が目を見開くその先には、ズボンを透かせるほどの眩い青色の光を放つ一人の冒険者の姿が……。


 彼が手に入れたのは【魔法のパンツ】ではなく【魔法のオシメ】を流用した偽物だった……。


 因みに青色の光は腸の調子が悪い時の色らしい。


 幸いにも彼らにとっては脅威を感じる程の魔物ではなかったため、事なきを得たが、その後、彼と仲間の間はギクシャクしたとか……。


 桜さん、そんな話をされても、コメントのしようがないんですが……。


「だから、あたしに感謝しなさい。」


 薄い胸を張り、どうだとばかりに、説明を終える桜さん。――確かに感謝しますけど……。


 僕の【ギフト】の件はいつ教えてくれるんだろう……。



お読みいただき、ありがとうございます。


すみませんが、作者の努力不足で、更新間隔が長くなります。


次回の投稿は10/10 12時の予定です。

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