作者の一日・その庭の絶望
僕の家には庭がある。
といっても車一台がぎりぎり収納できる程度の小さな庭だ。
家の横手にあるそこを、植物を育てるのに使っている。
仮に、家側を北としておこう。
駐車スペースとしては東から西に車庫入れできる程度のスペースだ。
つまり横に幅広くなっている長方形。
で、北側には花壇として一直線に土を盛り、家の窓を緑のカーテンで遮れるようにと中央付近に緑色で格子状の縄を設置してある。
その根元にはスイカを植えた。
一応、トウガラシ系と一緒に植えると病気に掛かりにくいと聞いたのでスイカの左側にはアマナガを植えてみた。
右側には近くの河というか溝というか、まぁそこに流れて溜まった河砂を敷いてある。
そこから謎の植物が幾つか生えた。
一つは細長い葉っぱで黒い斑点のついた怪しげな葉っぱの植物。三本程生えたけど親が雑草だと引き抜いたので今はない。
その横から生えたのは楓の葉っぱに似た蔦植物。
メロンか何かかな? と育てて見たけど未だに花すらつけようとしない。
蔦の部分がやすり状なので衣類とかにくっついたり肌に擦れていたかったりとあまり良い蔦植物ではないらしい。
抜くかどうか未だに迷って放置しており、実を付けたスイカと混ざり合って緑のカーテンを形作っている。
スイカは三つ成った。
全て縄に絡まった蔦から生えているので空中にぶら下がっている状態だ。
一つが中くらいの大きさで他が小ぶり。
おそらく一番大きなのが980円くらいで売られてるスイカと同じくらいだろう。
これに網を真下に敷いて自重で落下しないようにしている。
ただ、小ぶりの一つがかなり上の方に成っているのでその重量で取りつけた縄を支える棒が曲がっているが、こればっかりはどうしようもない。
さて、謎の楓みたいな蔦の右側には、去年育てていた黄色のトマトが勝手に生えた。数年前に育てた青紫蘇も元気に生えている。
さらには朝顔も芽吹いた。
いくら採ってもどこからともなく生えて来る白い朝顔。他の色もあったはずなのに白だけ繁殖力はピカイチだ。
そんな植物達に混じって細々生きながらえているのはアスパラガス。
未だに店頭で売られている様な立派な姿はなく、細い枝のような存在で、一度生えて来た時は謎の虫に集られ枯れた。今はその枯れた部分からにょっきと出て来た青い葉が成長を続けている。
もう、三年目だから出て来ても良いはずなのに、何故だ? 何故太めのアスパラガスが出て来ない?
そんな植物達の最右におわすは大体三年目になるだろうアシタバだ。
初めは鉢に植えていたのだが、元気に成長したので土壌に埋めて見た。
すると更なる急成長。今はどこの木ですか? と思えるほどの太い茎となり、太陽に向けて斜め南に生えている。
最近ようやく花が咲いた。アシタバって花咲くんだと驚いたよ。高山植物でなんか栄養が高い程度の認識でした。
自重でさらに傾いて倒れそうなのがまた何とも言えない。
一応つっかえ棒を三つして倒れるのだけは防いでいる。
そんな北の花壇の前、西側から三つの畝が北から南へと伸びている。
西から一つ目の畝はイチゴ畑だ。少し前は北側にジャガイモの腐り掛けを埋めていたが、見事に巨大な芋が幾つも成っていたので全部引き抜いた。
今は夏場なのでイチゴは成らないが、春はそれなりに出来ていた。
去年まではホワイトベリーが席巻していたが、どうやら圧し負けたらしい。今はもう、その存在を見ることは叶わない。
二つ目の畝にはヤグラネギ。
普通のネギと違ってネギボウズの代わりにネギの根っこが生えるという謎のネギである。
少し前まではエンドウ豆が席巻していてヤグラネギは南の隅で細々直射日光に当っていたのだが、今はエンドウ豆が真っ白になって枯れて来たので全て引っこ抜いた。
なので何も無い畝にぽつんとネギが一本生えている。
本当は二本あったんだ。エンドウ豆抜く時に一緒に抜けたけどね。はは、やるせねぇ。
三つ目の畝には茄子が植えられている。茄子といっても通常の茄子ではなく丸っこい茄子だ。本当の卵型というべきか、ナガナスではなく球体茄子である。
本当はこれの南にアイスプラントがあり、北にはレッドオクラという赤いオクラを植えていた。
アイスプラントが夏場に入り葉が小さくなっていたので、プランターに植え替え日陰持っていた。
そして枯れた。
オクラは植えてしばらく、根元から腐って枯れた。
全く成長なく散った。あの衝撃は忘れない。
多分植えて十日と経ってなかったと思う。
南東にはブラックミニトマトだ。
植えたのはいいが赤く色付き黒く変色する手前で弾けている。
未だに黒く染まったトマトを見たことはない。どういうこと!?
地面にはちょっと黒っぽくなった赤い色の悪いトマトが散乱している。
他にも赤紫蘇やらミントやらいろいろと植えてあるのだけれど、それはまぁいい。雑草みたいに乱立しているのでいちいち把握しては居ない。
本題はだ、ある日、いつものように庭の手入れと、ついでに実った一番大きなスイカを回収しようとした時のことである。
庭を見た僕は呆然とした。
一番最初に目に入るのは、当然ながらアシタバだ。
ソレを見た僕はあまりの衝撃に手にしていたジョウロを取り落とした。
動いていた。
アシタバの花や葉が動いていた。
うぞうぞっと蠢いているのは……青虫です。
二十匹くらいの青虫が一心不乱にアシタバを喰らっています。
え? 青虫ってアシタバ食うの!?
花部分も葉っぱ部分も美味しく頂かれていました。
目の前では必死に口を動かし削り取る様に葉を食べる青虫。
見る間に紅葉の様な葉っぱは先端を残して食われ、ぽとり、先端部分が落下して行った。
それを食べていた青虫のお尻からむにゅむにゅむにゅ、ぽとり。
食べかすが落下して行った……
そして蛹になって行く巨大青虫共。美味かったか? そんなに大きくなれるほどアシタバは美味かったか?
あ・お・む・しェ――――――――ッ。
だがアゲハ蝶と思われる青虫たちは既に最終段階に入っていた。後は蛹に成る、そんな段階、殺すにしのびない。
僕は静かにその場でOTZ。
見なかったことにして他の植物を見ることにした。
さぁ、どれだけ成長したかなヤグラネギ……ん?
ヤグラネギ……どこだ?
ヤグラネギがひっそりと存在していた場所、そこにはただ盛り上がった土が存在するだけでした。
あれ? どこいったヤグラネギ? おーいヤグラネギ?
ちょいと土を掘り返す。もしかしたら土の中に隠れちゃったのかな? この恥ずかしが……!!?
そこには根っこがあった。
ヤグラネギだろう根っこと白い茎部分。そしてちぎり取られたような跡。
……だぁれぇだぁぁぁッ!!
怒りに燃え、叫びそうになった僕、しかし何故ヤグラネギが死んだのか、理由が分からない。
誰かが千切り取ったのか、草むしりで雑草と間違え取ったのか、虫か何かに食われたのか。
ただ、わかる事は、もう、彼は死んだ。それだけだ。
運良く復活してくれる事を願いそっと土をかぶせた。OTZ
気を取り直してスイカ回収に向う。
うん、程良く実っている。
蔦部分を切って切り離す。
網目状の縄部分に手を突っ込み回収。
網目が小さくこちらに持ってこれない。
むぅ。仕方ない。落下防止の網に一反置いて横から引き抜こう。
僕は網のよこから手を入れようとした。
しかし右側には楓に似た謎の蔦。蔦部分がヤスリ状なので触れるとちょっと痛い。
ええい、邪魔をするなッ! 断ちバサミが火を噴いた。
邪魔な蔦が切断されていく、その刹那。
網の上に置かれていたスイカ様が……ぽろっ、グシャ、ぱかっ。
うわぁお真っ赤に熟してるw
落下の衝撃で見事二つに裂けました。
中央部に枯葉が一枚迷い込む。
僕は静かに地面に伏した。OTZ