『堕ちた男』 RICE
ある男がいた。
彼の名前は海藤誠二といった。
彼は普通の人だった。
幼稚園に通い、皆と遊び、笑いあった。
公立小学校にいき、親友と呼べる者と出会い、さまざまなことを学んだ。
中学では部活に励み、友達と汗を流し、新しいことに挑戦した。
勉強し、高校に入学した。
そこで、彼女を作ったり、バイトを始めたり、中学とはまた違う、大人になるための様々な経験をした。
そして大学へ入学した。
ここまでは多くの人が体験するありふれた出来事である。
普通ならこのまま大学を卒業し、社会人になったであろう。
しかし大学に入学し、サークルに加盟し、一年たった時、誠二の人生は変わってしまう。
誠二が入ったサークルは飲みサーといわれるサークルであった。
誠二は酒に強かったため、そのサークルで楽しい大学生活を送っていた。
ある日、誠二が部室に行くと先輩が三人いた。
「誠二いい所にきた。これから麻雀するつもりなんだ。面子足りないからお前も入れ」
「一応できますけど、詳しくないですよ」
「それでもいい。面子そろったから始めるぞ。レートはどうする」
「先輩。レートってなんです?」
「点数につきいくら払うかだ。初めての誠二がいるから今日はテンイチで打とう」
「それいくらくらいですか」
「一戦で五百~六百円くらいだな。いつもは二千~三千円くらいでやってるぞ」
「それくらいなら」
そんな話を彼らは麻雀を撃ち始めた。
誠二は点数計算などちょくちょく教わりながら打っていた。
結果、誠二は二千円勝った。
「誠二、お前やるな。このレートで二千円はなかなかないぞ」
そういって、先輩は誠二のことをほめた。
「また誘ってください。今度は先輩たちがいつもやっているレートで勝ちますから」
などと言って上機嫌で自宅へと帰って行った。
それから誠二は先輩たちと二,三日に一回の頻度で打つようになった。
それから、一年たち今まで麻雀を打っていた先輩たちは卒業したり、就活を始めて打つことが少なくなってしまった。
誠二は麻雀にかなりはまっており、腕も上達して麻雀で手に入るお金に対して真剣に対応していた。
そこで、誠二は地元の雀荘に行くことにした。
雀荘には誠二と同じ大学生、サラリーマン、柄の悪い中年、お年寄りなどいろいろな人がいた。
大学の中では強かった誠二も雀荘ではどちらかと弱いほうに分類された。
レートは大学内よりも高く、勝つこともあるが、負けるほうが多かった。
誠二はその時にはギャンブルの楽しさにはまっていてやめることは考えていなかった。
何回も通っていると自然に仲良くなり、プライベートについても話すようになった。
午前中に誠二が雀荘に行って、打っていた。
「海藤君は麻雀以外にも何かしてるの」
「何かって趣味ですか」
「そんな感じ。パチンコとか競馬とか」
「やったことないですね。麻雀ばっかしてますから」
「なら、今度パチンコでも一緒に行かないか」
「わかりました。いいですよ」
今売っているのは常連の客で全員顔なじみだった。
いろいろなことを常連と話しながら打っていた。
それから数戦やって、二人が用事で抜けて行ってしまった。
他に打っていない人はいない。
「今日はもう終わりにしようかな」
打てる人がいなく、暇になった誠二はそうつぶやいた。
「海藤君、暇ならパチンコ行ってみないか」
先ほどまで打っていて、誠二をパチンコに誘った常連客がそういってきた。
「まだ時間ありますし行きます」
そうして二人は近くのパチンコ店に行った。
それから三時間後、彼らは二人とも約三万円得ることができた。
「意外と面白いですね。またやってみたくなりました」
「そうだな。勝ててよかったよ。でも負けることも多いからやりすぎんなよ」
「わかっていますよ。それに麻雀のほうが好きですから」
一週間後、パチンコに誘ってくれた人とは違う常連客が競艇に誠二を誘ってきた。
競艇場の熱気、真剣な選手それらに誠二は驚いた。
「これが競艇。すごいですね」
「見るだけでも楽しいぞ」
誠二は賭けないで見ていた。
全て終わり帰るときには競艇に夢中になっていた。
「海藤君、どうだった」
「すごかったです。また来ようと思います」
誠二はそれからギャンブルにどっぷりはまった。
「パチンコ屋で二万ずつ、三日で六万、競艇では前回は六万勝つことができたけど今日は四万負けちまった。明日は授業とサークルか。授業はいいけどサークルは面倒だな。金も不安だし、バイト増やすかな。そうなるとやっぱサークルやめるか」
それから数日後、誠二はサークルをやめた。
ギャンブルに必要な金を用意するためにはサークルに使う時間はなかった。
大学には通っていたがギャンブルを優先したため友達と話さなくなった。
誠二は麻雀、競馬、競艇、競輪、パチンコ、スロット、ギャンブルなら何でもやるようになっていた。
ギャンブルは胴元が勝つようになっている。
給料でもらった金よりギャンブルで払う金額のほうが多く、貯金を崩してギャンブルをしていた。
誠二は大学を卒業した。
しかし、バイトとギャンブルを優先したため、説明会に行く交通費などもあまりなく就活を満足にできなく就職できなかった。
親からは失望された。
「深夜のバイトをしながら仕事を探している」
誠二はそう親に言いながらもバイトで得た金はギャンブルで消えていった。
ギャンブル中心の生活を続けて入れば柄の悪い人とも関係ができるようになった。
ギャンブルするために借金するようになった。
民間の金融会社から借りた。
そのお金を返すために、知り合った柄の悪い連中に紹介してもらったところから金を借りた。
借金を給料で支払って、また借りる。
そんな生活をしていくと当然のように借金が返せない額まで増えていった。
そこでギャンブルをやめて働けばまだ何とかなったかもしれない。
しかし誠二はやめなかった。
「大丈夫。きっとすぐに今まで失った分取り返せる。今回勝ったんだから、これを使って次も賭ければ借金なんて返せるよ」
誠二はそんなことをギャンブル仲間に言っていた。
そんな考えの誠二が何回も勝てるわけがなく、新たに借金したり、利息で借金が増えていった。
借金の額は普通に仕事で返せる額を超えていた。
彼の親も借金のことを知り、何とかしようと誠二に話したが誠二は
「次のギャンブルに勝てば大丈夫だから」
そんなことを言った。
誠二はその言葉を残した翌日、親に出かけてくる言って家を出ていった。
一週間後家に帰ってきた誠二は両手に包帯と左目に眼帯をしていた。
「ちょっと怪我しちゃって病院にお世話になってた」
誠二はそんなことを言って笑っている。
それから数日間は過剰に親と関わろうとしていた。
数日後、誠二は出かけていった。
そして、帰ってこなかった。
その後、誠二を見た者はいない。