『脇役が作る反撃戦線(仮)2』 ittsu-
※脇役が作る反撃戦線(仮)1の続きとなります。
『地獄』なんて言葉を検索してみると、人間が死後に行く世界の一つで、生前に行った悪行に対する罰を受ける世界だとかいうことが書いてある。
確かに今は悪い人間が得をして、まじめに生きてきた正直な人間が損するようなケースが多々あるこの世の中で、せめて死んだあとには、悪いことした奴には苦しんでもらわないと、善人からしたら割に合わねえだろうなーとか思ったりはするが、地獄や天国なんてものが死んだ後に存在するかなんてことはわからないし、ぶっちゃけ死後の世界の話なんて今はどうでもよかったりする。
重要なのは『地獄=死後の世界』で正しいのかということだ。
ウスバカゲロウという昆虫の幼虫は蟻やらダンゴ虫やらを捕まえて餌とすることで有名である。俗に『アリジゴク』と呼ばれているものだ。
ここで考えてほしいのは、アリジゴクとは蟻にとっての地獄という意味だろうとして、この『地獄』ってのはイコール死後の世界とはならないんじゃないかということだ。
アリジゴクに捕まるまでの過程が『地獄』なのだとするのならば、捕まって餌となるまで蟻は生きているわけだし、イコール死後の世界とはならないだろう。
んじゃもし、アリジゴクに食べられた後の世界、死んだあとの世界を『地獄』とするならば、じゃあアリジゴクって名前じゃなくてよくね?となる。たとえば今俺の足元にいる蟻を踏んだとして、死後の世界で行きつく先はアリジゴクに食われた蟻と同じ地獄である。アリジゴクが地獄と考えるならば、アリジゴクに食われた蟻は二重の地獄を味わうわけだ。『ご愁傷様です』と言ってやりたい。
そもそも『地獄』とは先程も記した通り、生前に悪行を行った奴が行く場所だ。それまで悪行を働いてこなかった蟻が捕食対象だと仮定するならば、アリジゴクに食われる過程が地獄だろうが、アリジゴクに食われた後の世界が地獄だろうが、そんな理不尽ねえだろって話である。ウスバカゲロウの幼虫をアリジゴクと名付けた人の『地獄』というものの定義を是非とも聞いてみたいところである。
さて、前書きがかなり長くなったが、俺が伝えたかったことは蟻にも生きてる間に地獄があるやつもいるんだ。人間にも生きてる間に地獄はあるだろってことだ。
生き地獄だなんて呼ばれるそいつを、俺こと内島守は中二以降永遠と味わい続けているわけだが、今現在学校の校庭で、初めて会って間もないクラスメイト全員からの攻撃を受けていることを考えると、どうやら俺には蟻以上の生き地獄が用意されているということらしい。
是非とも蟻に『ご愁傷様です』と言ってもらいたい。
威乃呉高校学校長の『潜在能力覚醒』という研究がどれほどこの世界に好影響を与えたかという話+新入生入学の祝いの言葉をありがたくいただいた後で、新入生代表のへたくそなスピーチを初めて聞く側として体験し、入学式を終えた俺は、まもりと記念すべき十年連続十回目の同じクラスという奇跡的な運命を感じながら(感じていない)席に着いた。
予想通りこれから一年間ともに勉学に励むことになるクラスの連中の顔を見回してみると、どいつもこいつも
まるで『俺、私、すごい才能持っています』と書いてあるかのように自信に満ち溢れた顔をしていやがる。まあ当然といえば当然だろう。全国でトップクラスの能力が覚醒した連中の集まりだ。俺が苦しんできた二年間、さぞかし周りの人間から期待のまなざしを向けられた、華やかな毎日を送ってきたのだろうから。そんな奴らとこれから三年間競い合って、打ち勝たなければならないなんて自分がどれほど過酷な試練に立ち向かおうとしているのかを改めて思い知らされる。
「え?あれ、堕ちた(フォールン)主人公じゃね?」
……これで三度目だ。どうやらこの異能力者と呼んでもいいくらいの集団のなかでも、この俺の存在は二番目くらいには注目を集めるものらしい。勿論、ダントツで周りから注目の目線を浴びせられ続け、今も多くの人間に机の周りを取り囲まれている奴に比べれば、こんなの全然大したことないんだろうが。
「ねえ!あなた、貴志まもりさんでしょ!新入生代表の!!」
「能力がよくわからないまま、主席合格したってほんとなの?」
「自分の能力がどんなのかとか見当ついたりしないの?」
「試しに、どうすれば能力発動するのか実験してみようよ!」
「あの……えっと……」
まもりは、また困った顔をして俺に助けを求めてくる。いい加減あいつの内気な性格も克服させないと。後々苦しむのはあいつ自身だからな。
「あー、悪いがそれくらいにしといてやってくんないか? こいつが困ってんの、顔見れば分かるだろ」
「「「「は?」」」」
突如、まもりに向けられていた視線が、氷柱のように尖った、冷気の帯びたものに変わり、俺に突き刺さる。
「あんたには関係ないじゃん。なにでしゃばってきてんの?」
「てかあんた、内島守だよね?何でここにいるの?」
「あー、補欠合格者だっけ? それでのこのこ入学してくるなんて、もしかしてまだ自分が一番だとでも思ってるの?」
「もともと嫌いだったんだよね。テレビでインタビューとか受けるときの、鼻にかけたような、あんたの態度とか見てて」
「自分以外の人間を見下すような感じのね」
「言っとくけど、たまたまここに入学できたからって、あんたが一番になれるわけないから」
「どうせすぐに見放されて、退学させられるのがオチよ」
…………………………うわー。俺ここまで同学年の奴らに嫌われてたのかー。校門の勧誘集団の態度の急変から薄々感づいてはいたけど、まさかここまでとはなー。俺のことを、心底嫌っているのはせいぜい同じ学校だった連中くらいのもんだと思っていたが、俺の考えは甘々だったらしい。それもこれも今まで散々調子に乗った発言や態度を繰り返してきた、俺の小中時代のせいと言ってしまえばそれまでなんだが。自分を中心として世界が回っているって本気で考えてたもんな、あのころの俺…………。
だが、こんなもんでへこたれるような俺ではない。地獄のような二年間を過ごしてきたのだ。俺だって少しは成長している。そうでなきゃこんな高校に入るはずもないだろう。それに現にまもりは困っているのだ。この件に関しては俺は間違っていないはずだ。ここは大人な冷静な対応で華麗に受け流そう。
「……ほんとだよな。なんでこんな学校に入学したんだろうな俺。なんでだか教えてやろうか? それはな……」
「ここなら、おまえら全員を正当にぶっ倒すことが出来るからだよ!!!」
……どうやらここで一番を取れないというこいつらの言葉に、俺は割とイラついていたらしい。クラス中に静寂が訪れる。
ガラッ
「……今大きな声が聞こえたが大丈夫か?ホームルーム始めるぞ?」
国立威乃呉高等学校は、創立二年の新設校であり、なおかつ全国からエリートが集められた国内トップの高校であるということは先ほども説明したが、この高校はそれ以外にも他の高校にはない実験的なものの試みを行っている。
一つは授業科目内に、これまであった国語や数学などという教科に加え、『能力育成』というわが校独特の教科が組み込まれている。能力の育成といっても半分自習のようなもので、各自自分の能力をさらに伸ばすための時間として学校側から用意されているわけだ。おかげで今配られたクラスの時間割表は一限数学、二限体育、三限能力育成というような奇妙なものになってしまっている。
そしてもう一つ、これがこの高校最大の特徴であり、威乃呉高等学校のみの実験的試み、『能力ランキング制度』というものが存在する。
そこらへんの他の人間の能力とは違う、人間の域を超えた能力を持つ人間の中でもトップレベルの能力を手に入れた人間、すなわち異能力者だけが集められているこの高校の生徒たちは、全国から注目されている。そのためこの高校の卒業生には、様々な方面から声がかけられる。有名大学や国内大手企業、さらには海外からも『是非うちに来てほしい』と自ら頼みに来るほどだ。いうなれば、この高校に入学し卒業した者は全員、将来を約束されているようなもんである。
その際に重要となってくるのが、その『能力ランキング制度』による自分の順位というわけだ。自分の順位が高ければ高いほど、世間からの扱いも良くなるし、すでに約束された人生がさらに有意義なものに変わっていく。さらに年度末、つまり三学期修了時に、このランキングで一位を取った人間は国からなんでもひとつ願いを叶えてもらえるらしい。たとえそれがどんなに実現不可能なレベルの願いであったとしても、国家が全力を挙げて、実現させるのだ。まだ二十歳にも満たない自分たちの夢をなんでも叶えてもらえる、これ以上の特典はほかにはないだろう。
また、このランキングには、個人ランキングと団体ランキングが存在する。個人ランキングのその人個人の順位だが、団体ランキングとはその人が所属している団体の順位を表している。この団体のくくりは部活動・委員会・愛好会同好会など団体であれば何でもありのため、この高校には多くの団体サークルがひしめき合っている。新入生入学初日からあれだけ熱心に勧誘してくるのもそのためだ。その団体が大きければ大きいほど団体ランキングの順位は上がっていくし、団体での順位が上がっていけば、同様にその団体に属している人の個人ランキングも上がっていく。たとえ自分のランキングが低くても、強い団体に所属していれば、自然と自分の順位を上げることが可能というわけだ。しかし基本的にその団体の部長の順位が一番上に来るようになっているため、個人ランキングで一位を取りたい人間は自ら団体を設立し、自らが部長となってランクアップのために活動していくことが多い。
俺はこの『能力ランキング制度』に目をつけ、このランキングで一位を取りるために、この高校へ入学したわけだ。
失った栄光を、再び取り戻すために。




