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夢とゲームディスクの裏

放課後のこと。


「ねえねえ!」


「ん? 裕子? なにさ?」


 いつもは一人で帰路につくはずだが、毎日聞いているキャピキャピした声に西条咲が振り返る。


 すると、突然、視界いっぱいに光が差し込んできた。


「くらえっ! カラービームっ!」


「きゃっ……!」


 突然の光に咄嗟に手で顔を覆う咲。


「アハハハっ! どうだ、咲っち!」


「もう! なんなのよ裕子!」


 指の隙間から様子を窺うと、友達である天草裕子が手にキラキラした物体を持って満面の笑みを浮かべてる。


「裕子、それって――CD……あっ、昨日、言ってたゲームか!」


「そうだよ! 昨日発売した新作を買ったんだ!」


 咲が言った通り、裕子が手に持っているのはゲームディスクだった。そして、先ほどの光はゲームディスクの裏面が太陽の光で反射したものだった。その光をビームと称して咲の顔に当ててきたというわけだ。


「へぇ~、やっぱり、ゲームの裏面もそんな風になってるんだ」


「そっか、咲っちはゲームやらないもんね」


「うん…… というか、その裏のキラキラした場所? が、ちょっと苦手なんだよね……」


 咲の表情がやや強張る。


 その様子に裕子は、


「なんで? なんか理由とかあるの?」


 と、尋ねる。


 それに対して顔を強張らせた咲はポツリポツリと話を始めた。


「うーん…… ゲームの裏側が苦って言うか、そのキラキラと光る虹色が苦手なのよ。子供の頃の話なんだけど、変な夢を見たの。どれぐらい前だったかなぁ…… まぁ、それはいいや。それで、その夢なんだけど……」


「うん」


 裕子が相槌を打つ。


「どこか暗い……洞窟? みたいな場所の奥で私は見てるのよ」


「見てる? なにを?」


 要領を得ない説明に首を傾げる裕子。


「虹色の塊を」


「虹色の塊?」


「うん、その塊が絶えず形を変えながらゆっくりだけど、私に向かってやってくるの。それも本当にゆっくりで、まるで私に恐怖を与えるためのような動きでね」


 裕子は首を傾げるばかりだった。確かに咲の話は不思議だし、そんな虹色の塊がやってきたら少しは怖いだろうが、今の年齢にまでそれを引きずることはないと思うが。


「それだけじゃないの…… 他にも日本の景色ではないところだと思うんだけど、そこでは虹色に輝く光が、辺りの色を食べていくの…… 動物も植物も……もちろん、人間の色も……」


「色を……食べる? それってどういうこと?」


「あ、食べるっての言うのは例えでね。どっちかと言うと、色を吸収していくの。色を吸収されたものは無色になって、それからどんどん大きくなっていくんだけど、最後には崩れちゃうの。夢の中の私はその光景を見て、死にもの狂いで逃げるんだけど、どんなに逃げても光は追ってくる。そして、最後は逃げ切れなくなって……――って、ところで目が覚めたの」


「へ、へぇー、なんだかすごい夢だね……」


 裕子にとっては今聞いた話はあくまで夢の話なのでどう反応したらいいのかわからなかった。内容も内容であり、言葉に詰まった。


 だが、当の咲は一通り話終えた後、どこか遠くを見ているようだった。


「それから、私は虹色のものはちょっと苦手になっちゃったわけ。なんだろうね? トラウマってやつなのかな? ……自分でもちょっとわからないけど」


「咲っちも大変だね。私もゲームができないってなったら発狂ものだよ」


 あえて、大げさなことを言うことで咲の笑いを誘う裕子。咲もそれ気がついたのか、


「あはは、でも苦手ってだけで死ぬほど嫌ってわけじゃないの。ほら、CDをパソコンに入れたりするじゃない? そういうのは大丈夫なんだけどね。それでもなるべくは裏面みないようにするけど」


 咲の顔は未だ強張ったままだが、先ほどよりは少し解れている。


 何を思いついたのか、いきなり裕子は咲の背中を勢良く叩いた。パンッ――と。


「痛っ……! 裕子なにするのよ!」


「ねえ、咲っち! 家でゲームしようよ、ゲーム!」


「えっ……」


 ゲームと言う言葉を聞いて、咲は顔をしかめる。ゲームが嫌いではないとはいえ、やはり虹色が少しでも関係していると拒絶反応が現れるようだ。


「私は遠慮しておくかな……」


「大丈夫! ゲームには裏面が虹色以外のものだってあるよ。それにそんな昔のこと、しかも夢のことでいつまでおっかなびっくりしてたら面倒でしょ? だから、まずは苦手意識を少しずつ無くしていこうよ! おーしっ! 今日は咲っちのための虹色苦手意識克服合宿だっ! 今日は寝かさないからね~?」


 そう言うと、裕子は咲の手を掴むと走り出した。


「ちょ、ちょっと! 裕子ってばっ……!」


「アハハッ、今日は楽しむよー! だから、咲っちも苦手意識なんて吹っ飛ばしちゃってよ!」


「もう…… 裕子ったら…… ――いいわ! やってやろうじゃないの! 裕子のいう通り、苦手意識なんてぶっ飛ばしてやろうじゃないの!」


「咲っち、その意気だよ!」


 こうして二人は日が沈み、闇迫る道をを走るのだった。


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