魔女Ⅰ
「ねえ、知ってる?」
夕闇訪れる放課後の教室で女生徒三人が話をしている。
「なになに?」
質問を振られた女生徒――山城茜が聞き返す。その表情は興味津々と言った感じで、頭の後ろでは一まとめにした髪が揺れている。
「隣のクラスに魔女がいるって」
三人の会話に少し間が入る。外では烏がカァーと鳴いた。
「魔女? なに……それ?」
もう一人の女生徒――海鳴海里がやや怪訝な顔をする。海里は目つきが鋭く、初対面の者なら近づき難い印象を受ける。
「そ、魔女がいるのよ」
最後の一人――噂を話し始めた美空黄子が答える。黄子は高校二年生にしては背が低く、他二人と比べても背は一番小さく、見様によっては小学生とも思われてしまう体格である。
この三人は名前に色に関係する漢字を持っていることから、通称〝信号機トリオ〟と呼ばれ、常に三人一セットで行動をしている。今日も三人は放課後まで居残り、噂話で盛り上がっている。
「アホらしい」
と、海里は切り捨てるように言った。常にムッとしているが、一段とムッとしているようにも見える。
「えー、海里ちゃんは信じないの?」
「当たり前でしょ…… 科学が発達しているのに魔女なんているわけないでしょ。黄子はそんなことをいつまでも信じているから子供っぽいって言われるんだよ。なんだったら、わたしが読んでる雑誌貸してあげるから、その辺のこと勉強してみれば?」
そう言って、鞄から雑誌を取り出して黄子に見せる。
「まあまあ、落ち着いて。ほら、海里ってオカルトは信じないじゃない? だから、こういう話は嫌いってか興味ないんだよ」
茜が二人の会話に割って入る。なんでも信じやすい黄子にオカルトは信じない海里が仲良くしていられるのも、こうやって茜がほどよく仲裁してバランスを取っているからだ。
「海里ちゃん、つまんないー。ノリ悪いー」
ぶーっと頬を膨らませる黄子。その仕草が実に子供っぽい。
「ふんっ……」
そっぽを向く海里。海里自身黄子を子供っぽいと言うが、これまた子供っぽい。
「ところで、その魔女って誰なの?」
茜が黄子に尋ねる。黄子はオカルト肯定派、海里は否定派、そして茜はと
言うと、どっち着かずの人間である。半分半分。フィフティフィフティ。中途半端であるが、茜がいるから肯定派と否定派のバランスが取れているとも言える。
「おっ? 茜ちゃん気になっちゃう? 気になっちゃう?」
「うん、ちょっとだけどね」
「隣のクラスって言うけど、どっちの組み? A組、それともC組?」
今度はオカルトを信じない海里が尋ねる。
「なんだぁ、海里ちゃんも興味あるんじゃん!」
「わ、わたしは噂の元になってるかわいそうな人間に興味あるだけ! で、
その魔女って女性なんでしょ? まさか男性ってことはないだろうし……」
「もちろん女性だよ。それで、確か……A組らしいよ」
「らしいってなによ…… わかってないってこと?」
海里は黄子の言葉に目を細める。
「そうだよー、だってあくまで噂なんだからー、期待させちゃってごめんねー、海里ちゃん」
海里をからかう様に黄子が笑う。
「別に期待なんてしてないよ」
「まあ、でも、A組にいるらしいってことはわかってるんだから、そこから
魔女っぽい女の子を見つけて聞いてみたらいいんじゃない?」
「うーん、そうだねー。あ! だったら、私たちで魔女の正体でも探っちゃおうか! どう? 茜ちゃん、海里ちゃん!」
黄子は提案に目を輝かせる。
「ちょ! なに勝手にわたしまでメンバーに入ってるんだよ! そんな時間の無駄なこと黄子だけでやればいいじゃない!」
黄子の提案に反論するが、茜がそれを手で制する。
「だめだよ。黄子ちゃんはこうなったら止まらないんだから、観念するしかないよ。それになんだかんだで海里も気にはなってるんでしょ?」
「うっ…… それは……」
そう言われては気にならないとは言えない海里であった。
「それじゃあ、わたしたちで情報集め頑張ってみよー!」
黄子が勢いよく手を突き上げる。
「おーっ!」
茜もそれに合わせて手を上げる。
「チっ! 仕方ない。いいよ、わたしも付きあってあげるよ。オッー!」
海里も観念してヤケクソ気味に手を上げる。
こうして、〝信号機トリオ〟による魔女探索が始まった。