1/7
プロローグ 噂
「ねえ――知ってる?」
誰かが言葉を発する。
それは友達に言うような、家族に言うような、恋人に言うような……
聞かれてはまずいのか声を潜めて、または誰かに聞いてほしいのか大声で……
「なにを?」
誰かが答える。
興味津々と言わんばかりに、それとも不機嫌でぶっきらぼうな感じに……
「――――――」
問いかけた者が口を開く。
「――――――」
問いかけられた者の反応は様々で、
「ああ、その話ね。知ってる知ってる」
と、言う者もいれば、
「えー、なにそれ? 初めて聞いた!」
と、驚きの声を上げる者もいる。
逆に、
「……おい、その話はやめとけ……」
と、声を潜めて周囲を窺う者もいる。
「…………」
話の内容に沈黙する者もいる。
まさに多種多様である。
そこに共通点なんて存在しない。
あるのは話す者、聞く者の感情だけ。
楽しいこと、怖いこと、話してはいけない禁忌のこと。
そして、またどこかで誰かが言う。
「ねえ――知ってる?」