8.久々のギルド
5日間の実戦演習も、初日のアクシデントいがい何事も無く終わって、着いて行ったアンナさんとあたしは3日の休みをもらった。黒騎士の奴らも同じ期間休みになるらしく、それに合わせて他のメイドも順番に休みをとる。
久しぶりのまとまった休みに、俺は最近までは毎日のように訪れていた場所、ギルドに来ていた。
アンナさんに買い物に誘われはしたんだけど、騎士の奴らが魔物と戦ってるのを毎日見せられて、いい加減ストレスが溜まってきた。他人の戦闘を見てるだけで手出しが出来ないのが、ここまでイライラするものだとは、今まで思ってもみなかった。
というわけで、テキトーに魔物でも倒してスッキリしようと、久々にギルドに顔を出したのだ。といっても、ギルドの中ではフードで顔を隠してるんだけど。
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約2カ月ぶりのギルドは、やっぱり何時ものギルドだった。
扉を開けると、錆やら酒や汗などいろんなものが入り混じった臭いと、常にそこら中で起こっている小競り合いの騒音とで、初めて入るのにはなかなか勇気がいる。
とはいえ、俺にとっては慣れたもので、喚き声に覚えのある人物の方へ足を向けた。
「僕は知らないって言ってるじゃないですか!!」
「原因があるとしたらお前ぐらいしかいないだろう。あの後シオンと話してただろ?」
「話しはしましたけど、僕が変なこと言うわけ無いじゃないですか!」
「じゃあ何で、シオンが俺を見た途端、逃げていくんだよ」
「っっ!それは………」
「やっぱお前なんじゃねぇか!」
あーあ、またやってる。可哀相に。
俺は少年を詰問するおっさんに近づき、声をかけた。
「ダイオス、その辺にしろよ?どうせ、あんたの特殊な性癖がバレたんだろ」
「ああ゛?どっからバレるってんだよ」
「被害に遭ったおねーさん方だろ。この前、宿屋のシェリー達にホントかどうか、俺も聞かれたし。カルノドも、噂が本当か聞かれたんじゃ?」
少年のほうを向いて返事を要求すると、カルノドは慌てて肯定した。
やっぱりか。悪い奴じゃないんだけどなあ。まあ、春が来るのは当分先だろう。
「ほら、やっぱり。恋人を作りたいんなら、その趣味から治したらどうだ?」
「男だったら誰にでもある欲求だろう」
「かもしんないけど、あんたのはちょっと異常なレベルだ」………多分。
「なんだとっ!……いでっ」
「大丈夫、あんたはちゃんと異常よ。久しぶり、ジル。顔見せなかったけどなんかあったの?」
美女が、手に持った資料でダイオスの頭を叩きながら現れた。
よし、何時も通りの美人だ。
「ちょっと忙しくて、暫くはこんな感じだ」
「そうなの?そういえば、昨日ちょっとしつこく絡まれたのよ」
「そいつの宿と名前はなんだ?」
もち、制裁決定。
「シェリーちゃんのとこにいるパドスって冒険者よ。ちょいちょいこういう輩が居るから面倒よね」
「セリーヌが綺麗だからそういうのが湧くんだよ」
セリーヌは、ギルドの職員なんていう男共の相手をする職業とはまったく合わない、あるいはぴったり過ぎるほどの美女だ。初めて会った時もかなりのものだったが、年々美貌に磨きがかかっている。
そのせいで、時々現れるストーカーじみた奴のはだいたい俺が潰している。そのせいで俺が無駄にギルドで恐れられるけど、セリーヌの安全の為なら仕方がない。
「もう、そういう歯の浮くような台詞は自分の恋人に言ったら?それで、今日の用事はなに?」
「恋人なんか居たこともないって。まあ、ちょっと体を動かしていこうかと。なんかいいのあるか?」
「どうだったかしら?掲示板見てきたら?」
その言葉に従って掲示板を見てみる。高位の依頼は………一枚だけSがある。内容はワイバーン3体討伐。他は全部B以下だ。
ワイバーンなら、ドラゴンよりは弱くても、それなりに歯ごたえもある。ちょうどいいな。
依頼の紙を剥がそうと俺が掲示板に近付くと、もう1人他の奴も近付いた。ほぼ同時に手を伸ばした先は………Sの赤い紙だった。こんな時に限ってなんでカブるんだよ!
普段ならここで相手に譲っても問題ないんだが、今回ばかりはそうも言ってられない。さすがにBの依頼じゃ柔すぎて話しにならねぇ。
相手の出方を見ようと、紙をつまんだまま隣を見上げてみる。そこに居るのは俺と同じようにフード付きの外套で顔が隠れた男?だった。まあ多分男だろ、背ぇデカいし。
俺の外套は古代魔法の一種が掛かっていて、中が認識できなくなっている。だが、男が使っているのはホントに只の外套で、うすぼんやりと、輪郭と目が解る。
というか、目ぇ合った。こっち見てやがる。
「引く気は?」
俺の言葉に首を横に振る男。どうやって収拾つけっかなぁ。といっても、ここで揉め事起こして時間が取られるのも勘弁だし。
はぁ………仕方ないか。
「一時パーティー組んで、1体ずつ。残りは先に殺ったもん勝ちで。どうだ?」
男首が横にぐーっと傾いでいって固まった。何がしたいんだ?
10数秒後、唐突に首を戻すと、コクリと頷いた。なんだ。考えてただけか。
「んじゃ、とっとと受付行くぞ。夜になってワイバーンが寝付く前に着きたい」
俺が紙をベリ、と剥がして歩き出すと男は後ろからついて来た。
ハ組むのは久しぶりだけど、ま、なんとかなるだろ。