7.襲われました。
ぽつーんと2人で居残りになったジーナです。空がとっても青いです。どこからか、魔物の気配が近づいて来ます。
………どうしよ。
今は、アンナさんと2人で夕食用の野菜を切っている。
黒以外の騎士団は遠征中の食事を自分で用意するらしい。うちだけは、少しでも戦力増強を目指して、細かい雑務はメイドが片付ける。なんでも、あの訓練は、遠征の行軍について行く為のものだとか。
と、アンナさんが言っていた。
ぶっちゃけ、そこら辺の諸事情はあたし的にどーでもよかったり。
ま、そんな回想はともかく、もっととっととどーにかしなきゃだよね。といってもどうすっかなー?
こっそり倒せなくも無いけど、死体の処理の仕様がないし。こんな事なら、Lサイズの収納袋も持ってくりゃ良かった。
それに、一番の不安要素のセイルが問題だよねー。戦ってる時に来たらかなりヤバい。
とりあえずまだ距離もあるし、誰かが気づいて向かって来るのを期待しようか。
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とうとう魔物の足音がはっきり聞こえるくらいまで近づいて来た。足音といっても、地響きみたいな移動音だけど。
あたしはといえば、さすがに異変を察知したアンナさんと一緒に、気休め程度に予備の剣を持ってテントの陰に隠れてる。
アンナさんは殆ど魔物と戦ったことがないらしい。恐怖からか、青い顔をしてさっきから黙りこくってる。あたしも、とりあえす無言で気配を探っておいた。
もうかなり近い。
地響きもかなり大きくなって、テントの布までもビリビリ震え始めてようやく、音の主が見えた。思ってたより移動速度おっそいなー。自分から向かってくと、相手の速さがわかんないのが難点だよね。
土色で高さ5メートルはありそうな巨体。Bランクのメガワームだ。とにかくデカいから、どうやって有効にダメージを通すかが攻略の鍵になる。
メガワームは一部のテントを引き倒しながら、中央の開けた所へ入ってきた。そのまま直進するとあたし達が隠れてるとこに着くだろう。
立ち上がって逃げようとしたアンナさんを、ちょっと申し訳ないけど、掴んで引き留めた。ワーム類は総じて気配の察知がうまいから、アンナさんが動いたら、居場所がバレてしまう。
目当ての場所に着いたからか、ワームの動きもさらにのろくなってる。よし、これは間に合った!
着実に距離を詰めてくるワームに、アンナさんは完全に腰を抜かしたみたいであたしの腕にすがりついてる。まあ、邪魔になんないし別にいいか。
ワームがあと10メートル位まで近づいて来た所で……。
唐突に、メガワームの頭部が切り落とされた。もちろんあたしは何もしてない。というか、アンナさんがいるのに何をする気もないし。
直前まで殆ど抑えられていた殺気が、今は心地良く空気を侵食している。うわー、ヤバい。楽しそう。
今ばれたら一環の終わり、と言い聞かせて自分をコントロールする。外面に出さないけど、内心うっきうきだ。でも、それでも足りない。今のあたしの状況にぴったりなのは、恐怖と安堵が混ざった顔だ。なりきらなければ、『ジーナ』に。
落ち着け。いや、落ち着きましょう。私はメイドで、魔物に襲われた所をマーガス様に助けていただきました。とりあえず今すべきことは………
「あ…ありがとうございました。私達もう駄目かと………。マーガス様はお怪我ありませんか?」
マーガス様はひとつ頷くと、後ろを向いて去ってしまわれました………。
っはぁ!この喋り方やっぱ疲れる。でも、セイルはムダに勘が良さそうだし、こっちの方がいいかも。
「ジーナちゃん。これ、どうしよっか」
「っっ!えと、何がですか?」
ヤバい。アンナさんのこと忘れてた。
「だから、このテントの残骸どうしよ?」
………そっちも忘れてた。
今日もしかして、ガチの野宿?
残骸の方は、何故か早めに帰ってきた黒騎士の皆さんが片付け、全員無事にテントで寝れました。