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4.探し者(もの)です。



あたしが黒騎士団で働き始めてから早くも2週間になった。とはいえ、計画自体は10年以上かかる覚悟で始めたから、全体に比べれば微々たるものなんだけど。

メイドの仕事にも慣れてきて、先輩に混ざって作業出来るようになった。訓練の方は、隊長の指示の通りに走ったり筋トレしたりする。こっちの方はまだ、新人のあたしは1人だけ別メニューだ。偽装のために、あまりに前と難易度が違うときは途中でへばることもちゃんと忘れてない。あたしがこんな量もこなせないと思われるなんて業腹だけど、つまんないことで怪しまれるのも馬鹿馬鹿しいし、ここは我慢しかないだろう。



そうしてだんだん周囲にも馴染んできたある日、夕食が終わった隊長に呼びつけられた。

「悪いが、マーガスを呼んできてくれないか?ここまで遅いってことは、どこかで寝てるんだろ」

「わかりました」


お辞儀をして、早速食堂を出ることにした。件のマーガス・セイルという男は、相当時間にルーズらしく、初日の1回しか時間通りに行動してるとこを見たことがない。今の隊長の言葉を聞く限り、いつも寝てるんだろう。あたしも、訓練場の外れで寝てるところを何回か見たし。








∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵








やっぱ居た。あたしが副隊長を発見したのは魔法訓練場の裏だった。辺りが陽も暮れかけて薄暗くなってきたなか、木の幹に寄っかかって寝ていた。

食堂でのこと的に、一瞬でも苛々を表に出した瞬間に気付かれると思う。深呼吸をして気持ちを落ち着けてから寝こけている副隊長の前に立った。

………うわー。なにこのイケメン。美形揃いの騎士達の中でも、筆頭はこの男だよね。ギルドじゃどいつもこいつもむさっ苦しいから、とりあえず目の保養になる。

というか、イケメン鑑賞してる場合じゃなくて、起こさないとあたしが夕飯を食べそびれる。あたしはいい加減腹減ったよー。


「セイル様!起きてください!」


・・・・・・・・・・・・。


ですよねー。こんくらいで起きるとはあたしもはなっから思ってない。長期戦覚悟で起こしてやる!








∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵








認めよう、あたしの考えが甘かった。ここまで起きないとは予想してなかった。でも、仮にも騎士団の副隊長ともあろう者が、20分も揺すぶられても叩かれても耳元で叫ばれても起きないのはどうなんだ。こう・・・危機察知能力とかに問題があるんじゃないか!?


「セイル様!!夕食の時間です。起きてください!!」


あたしがヤッベ!!と思った時には、もう手首を掴まれた。ついイラッとしたのを嗅ぎつけたらしい。というか、近い近い!顔近い!!

あたしは、耳元で叫んだ状態のまま、左手を掴まれ引っ張られてる。右手は姿勢を崩さないように木についてるけど・・・不安定なこの体勢、そろそろ限界なんだが。


「夕飯の時間すぎてますって!つーか、とっとと離せよ!!」


あたしがもう一度叫んでも副隊長はあたしの顔を見ている。掴まれたままの手を振り回すと、やっとであたしを離して立ち上がった。そのまま何も言わずに歩いていく。

なんも言わなかったけどこれ、もう帰っていいんだよね。あの方向、食堂だしね。うん、大丈夫。仕事完了!帰るか!


帰ることにした。








∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵








sideレイド



俺は日にちが変わってもまだ、机に積もる書類の山を崩せずにいた。

くっそ、後少しだったのに。

後一時間で終わるところで、マーガスが起こした揉め事の報告書が届けられた。毎度のことだが、マーガスを毛嫌いする他の団の奴らはここぞとばかりにネチネチと苦情を上げてきて、かかる労力は他の報告書の比じゃあない。

手こずっている間に来週にある実戦演習の予定の提示を求められ、気づけば書類で埋まっていた。

仕方がない、残りは明日に回すか。そう思ってペンを置き、顔を上げれば、すぐ横に諸悪の根源が立っていた。


「珍しいな。どうした?こんな時間に」

「・・・・・・。」


今まで使っていたペンを取ると、手近な紙にサラサラとなにかを書き始める。文章は一言、【黒いのなに?】と。

やっぱり気がついたか。マーガスが気に掛けるってことは、あいつには何かあるんだろう。


「面白そうだろ?初日から50周50分で完走しやがった。うちに放り込んでも楽々ついていけるだろ」


1周1分は騎士の訓練の目標タイムだ。ほとんどの騎士が達成できるが、新人なんかは速さが足りないことも多い。そんなスピード重視の速さを、無害そうな少女に長距離で再現されるのは有り得ない。あんな身体能力を持っていて何故メイドをやっているんだ。

あれを何の対策も無しに放っておくのは、俺の立場的にもできない。だから、毎日動向を見ているが、今の状態が厳しいのは机に積もった書類達からも明白だ。

今の役目を他の誰かができれば・・・・・・

隣のマーガスをちらりと見上げると、珍しく何かを考えるような顔をしている。すると、再びペンを取った。マーガスがまたペンを走らせる。【見とく】と一言だが、それだけで俺の仕事は半分くらいに減った。

観察する分、マーガスも面倒事も起こさなくなるはずだ。そうすれば面倒な嘆願書や警告書類の3分の1は来なくなるだろう。

目論見通りマーガスの興味がジーナ嬢に移って良かった。俺は、来たときと同じく音もなくドアへ向かうマーガスの姿を見ながら、安堵の息を吐いた。













扉が閉まりきる直前、ドアの隙間から見えたマーガスの表情は、戦闘時の背筋が凍るような、獰猛な満面の笑みだった。


・・・・・・前言撤回。


厄介事はむしろ増えそうだ。





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