9.まさかすぎる
「臨時パーティーで頼む」
受付に依頼の紙を出すと、普段ソロでばっか行動してるからか、かなり驚いた顔をされた。まあ、両手で足りるくらいの回数しか組んで出たことないし仕方ないか。
「認証しました。自動でメグ様をリーダーとします。お気をつけて」
「ああ」
マジでか!
受付の定型文の言葉に、俺もふつーに返したが、内心相当驚いていた。
ギルドではパーティーを組むと、ランクが上の奴がリーダーになる。なんも聞かれずに決まったっつーことは、こいつが俺より上のランク………唯一のSSSってことだ。
しかもメグって女みたいな…………まあ、俺みたいに偽名ってこともありえるけど。
−−−闘ったら愉しいんだろうなぁ………
はっ!いけないいけない。万が一怪我でもしたら、職場で怪しまれることになる。行動には最大限注意しなければ。
頭から好奇心を追い出して、連れだってギルドを出た。
「なんか準備するもんあんの?」
首を横に振った後、マントの裾を軽くはだけて腰のベルトについた剣を見せられた。
これで充分っつーことか。
俺も特に要るもんなんてないし、もう出てもいいかな。
俺はメグと並んでてきとーな速さで走り始めた。
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1時間くらいで指定のマキネ山脈に着いた。なんでもここは、B超えがうじゃうじゃ居る為に、Aランク主体以上のパーティーじゃないと生きて帰って来れないとか。。俺も昔からよく来る場所だ。ここに3日いれば、軽く1ヶ月は暮らせる金が入る。
指定のワイバーンの生息地は確か、5000M級の山に囲まれた深い谷の筈だ。手前にはワイバーン。深くまで潜るとドラゴンがいる。ここのドラゴンは仲間意識が強いせいで、一匹狩るとワラワラ襲って来る。最初は愉しいけど段々飽きてきて、最終的に撒いて終わるパターンになる。
どうせ強い敵と戦れるんなら、いろんなパターンの奴らがいい。それか、倒せないぐらいクソ強えぇの。
そういえば、最近そんな奴にも会ってねぇな。今度タマル婆のとこに顔出すか。
後面白そうな事っつったら………そうか、100年に1度の魔物の大侵攻がそろそろとか言ってたか。今の状況じゃあもう遠出するわけにも行かねぇし、近場で済ますんならそんくらいしか
居るじゃん、隣に。
そう思考した瞬間、併走していたメグが一瞬、けれど確かにこっちを見た。
やばっ。さっきそれは止めとこうと思ったばっかじゃねぇか。にしても、今のに反応するこいつの察知能力はヤバい。流石SSSランクってことか。カンは多分完全に負けてる。
でも、何だろう。この感じはなんか最近感じた事があるような…………
思考がさらに潜っていく前に目的の獲物、ワイバーンの姿が見えた。
地面に居ても見上げる巨体は、たぶん4mはあるだろう。遠距離のブレスが曲者だが、飛ぶ能力が低いのが突破口だ。これがドラゴンだと、動きも速くて飛ぶのも得意。ブレスも強力でだいぶたのしい。
「早いもん勝ちでいいよな」
メグが頷くのを見て、左奥にいる個体に向けて駆ける。あっちはたぶん、右奥のに行くだろう。
走りながら愛剣2振りを呼び出して掴み取る。もう1体も狩るために全力でいくことにする。素材を採るらしいんで、火は使えない。と、すると………風か。
風の魔力を大量に準備する。コントロールを放さない程度に貯め、走りつつ一部を目を狙って放った。よし、片方潰れた。
敵を探して当たりを見回すワイバーンの背後に回り込み、尾を左で力任せに切り落とし、流れで右後ろ脚を右で斬りつけた。返り血は浴びたくないから、逃げて後ろに跳ぶと、ワイバーンがブレスを吐こうと口を開けてた。
いっつも思うんだけど、ブレスの溜め長いって。そんなの当たるわけねぇじゃん。
残っていた大量の魔力を使って、口の中目掛けて特大の魔法をぶつけた。風の力で内臓までズタズタであろうワイバーンはその場に倒れた。
倒れきるのも見ずに、残る個体へととって返した。
走りながらメグの方へと目を向けると、丁度首を何太刀目かで切り落とす所だった。
こっちは後100メートルくらい。対する向こうは150はある。先に着けるか?と、思ったんだが………
ウソだろ!?メグは一瞬でトップスピードに乗り、ワイバーンとの距離を詰めてきた。
そして、あたしとメグは全くの同時に、ワイバーンを斬りつけた。首の両側を深く斬られたワイバーンの頭は、衝撃でそのままメグの頭上を越えてぶっ飛んでいった。
取りに行くのめんどくせぇ。
メグは、最後に頭から飛び散った血で血みどろになっている。あたしは一滴も浴びてない。頭が飛んだ方向が良かった。ま、取りあえず片づけないと。んで、さっさと帰ろう。これ以上メグと一緒に居ると、斬りかかりたくなってくる。
「んじゃ、あっち取ってくるわ」
先に倒したワイバーンの方へ向かった。近づくと、ムッとした生臭くて温かい空気に包まれた。しくったな。ブレスの吐きかけを風で止めたから、血が丁度蒸発しまくってヤバい。
さすがに顔をしかめながら傍らに立って、初回のLサイズの収納袋に仕舞った。この収納袋、古代魔法の一つで袋状ではなく、魔法陣が刻まれた小さな石だ。便利だが、他と混ざるとどれがどれか分からなくなるのがたまに傷だったりする。
ワイバーンを入れた袋を片手に戻ると、メグは丁度2体目の収納も終えていた。とっとと帰るか。今なら寮の夕食に間に合う。賄いでも、ヘタな酒場より旨いんだよなぁ。それがタダで食えるんだからいいよな。
「早く帰ろうぜ。………つっても、その恰好じゃ厳しいか?」
忘れてた。こいつ血みどろだった。
メグは頭から赤黒く染まったコートの惨状に今頃気づいたのか、腕や背中の部分に飛んだ血を観察している。
「それじゃあ町に入れないだろ。どうすんだ?」
暫く自分の様子を確かめていたメグは、自分の顔を隠すフードを掴んでコートを引き破ったった。それをその辺に放り、ワイバーンが入ってるのであろう収納袋をこっちに差し出してきた。
でも、あたしは、それを気にする余裕が無かった。
そん……な。マジで、か。さすがにあたしも想像していなかった。
フードの下から現れたのは、やけにつきまとってくる黒騎士団の副隊長、マーガス・セイル、だった。
捻りもなんもなくてすいません……