沈む月
来る日も来る日もソレイユはスカイと話をして過ごした。そして、いよいよスカイが帰国する日がやってきた。
朝からルーナはソレイユがずっと自分の側にスカイがいることを望んでいることを伝えに行っている。そして、ソレイユは今、そろそろスカイから良い返事がもらえたころだろうと思いスカイの部屋に向かっていた。ソレイユがスカイの部屋につき、扉を開けようとしたら、
「ルーナさん、ソレイユ様と結婚することは出来ません」
中からスカイのそう言った声が聞こえてきた。ソレイユはその言葉を聞いてその場で固まってしまった。
「ソレイユ様はとてもお美しくて明るく、まるで太陽の女神の様な方なのですよ?」
ルーナは確認するようにスカイにそう言った。
「確かにソレイユ様はお美しい方です」
「では、どうしてソレイユ様と結婚してくださらないのですか?」
ルーナは不思議で不思議でしょうがないというような声でスカイにそう言った。
「ルーナさん、それは私が一目見たそのときからソレイユ様よりもあなたの方がずっとお美しいと思っているからですよ」
スカイは真剣な顔でそう言った。
「おっしゃっている意味が分かりませんわ?」
ルーナは若干顔を引きつらせ、その場から一歩下がりながらそう答えた。
「ルーナさん、どうか私と共にマーレ国に来てくださいませんか?」
スカイはルーナが下がった分よりもさらに距離をつめてルーナの手をとり真剣な顔でルーナを見つめた。
ルーナが口を開こうとしたその時、
「許しませんわ」
ソレイユは低く、けれどとても響く声で突然そう言って部屋に入ってきた。その顔は怒りのために真っ赤になっていた。ソレイユはゆっくりとルーナに近寄るといきなり容赦なく手をルーナに向かって振り下ろしたのだった。すごい音が鳴り、ルーナは叩かれた勢いでその場に倒れた。
「ソレイユ様いきなり何をなさるのですか!」
スカイはそう叫びあわててルーナにかけ寄った。
「許しませんわルーナ。スカイ様をたぶらかすなんて。あなただけは私の味方だと思っておりましたのに」
ソレイユはルーナを本当に汚らわしそうに見おろした。
「何を言っているのですかソレイユ様。私は、ルーナ様を一目見たときまるで月の女神が舞い降りてきたかと思うほどお美しく、ソレイユ様のためだけを思い一生懸命お仕えしているその優しき様子を見てルーナ様を妻にしたいと思ったのです。ルーナ様は何もしておりません。いいえ、むしろソレイユ様と結婚するように私を説得していたのですよ」
スカイは意味が分からないと言うような顔をしながら必死にそう言った。
だが、ソレイユはその言葉を聞きますます怒りに奮えた。
「衛兵たちよ、ルーナを即刻捕らえて牢に入れなさい!!」
ソレイユはそう叫び去って行った。
「待ちなさい衛兵たち、ルーナ様は何もしていない。ルーナ様もソレイユ様を追いかけて牢に入れるのをやめてもらってください」
スカイは衛兵たちを止めながらルーナに呼びかけた。
「スカイ王子は知っていますか?月は太陽の光を反射することによって輝いているのですよ?」
ルーナはその場に似つかわしくない落ち着いた声でそう問いかけた。
「えぇ、知っていますが、そんなことより早くソレイユ様を追いかけてください。無駄だと思うなら私と共に逃げましょう」
ルーナは必死なスカイの話を無視して言葉を続けた。
「つまり、月は太陽が無ければ輝けないということです。私は月です太陽であるソレイユ様がいなければ私はただの丸い固まりなのです。だから、私はソレイユ様の側を離れるわけにはまいりません」
ルーナはそう断言した。
「今、罪の無いあなたを牢に入れようとしているのにですか?」
「そんなことはどうでも良いことです。ソレイユ様が望まれるのならば私はたとえどんなことであれかなえて差し上げたいのです」
ルーナはそう言って実に幸せそうに微笑んだのだった。