第八話:迫る恐怖
坂城、大木は走り回っていた。
泉が死んだ。
その事実をまぎらわすように。
しかし事実は変えられない。
泉は死んだのだ。
だがそれはまだ小学生の二人にはとうてい受け止められない事なのである。
それに人が死ぬ現場など見た事がない。
せいぜいマンガなどで見ただけだ。
『キャアァァァ!!』
まだ叫びながら走る。
しかし誰も現れない。
あの女生徒でさえ。
もちろん教師も生徒も現れない。
だって誰もいないのだから。
この二人以外、生きてる者はいない。
「ハァ……ハァ……」
やがて走り疲れ、二人は息をきらしながら止まった。
とその時、
ガシャガシャガシャ
という音と、
「待チナサイ!」
という声が聞こえた。
二人はビクビクしながら振り向いた。
そこには半分担任の姿をした人体模型と、校庭にいたはずの二宮金次郎像がいた。
二人に向かって走ってくる。
「な、なんで!?」
「と、と、とにかく逃げなきゃ!」
二人はまた走り出した。
すでに肉体は疲れきっていた。
そんな二人を走らせているのは、恐怖心だけだ。
(なんで……なんでこんな目に会うの?)
涙を流しながら大木は思った。
坂城はすでに精神が錯乱状態だった。
ただ
「逃げる」
という本能だけで動いていた。
二人が走る後ろでは、人体模型と二宮金次郎像の二つの恐怖が走っている。