第十話:姿見えぬ
「大木……」
「…こっち…だよ……」
「さぁ……早く…」
「い、いや…いやあぁぁぁぁあぁぁ!!!!」
その光景は信じられないものである。
さっきまで二つだった壁のしみが、坂城を取り込み三つに増えた。
しかしそれが信じられないものであっても実際に大木の目の前で起きた。
それだけでも、大木の心に刻みこませるのは簡単だった。
大木は教室から飛び出し、走れる所まで走った。
一応目指す所はあった。
昇降口だ。
そこからなら出られる。
大木はそう確信して走った。
そして昇降口。
自分たちで閉めた扉。
それが……
ガタッガタッ
「あ、開かない!?」
カギも開けられないし、扉も開けない。
「どうして…どうして……」
大木はその場に泣きくずれた。
だが数分後、
(こんな事してたら私まで…!!)
大木はなんとか自分だけでも助かろうと思い、ほとんど気力だけで立ち上がった。
そしてよろよろと歩きながらあちこちの窓などを調べた。
しかしどの窓も開けられない。
カギは接着剤で固められたかのように動かない。
机やイスを使って割ろうとしてもビクともしない。
(なんとか……私だけでも……)
大木はその一心で歩いていた。
その時、
ヒタ ヒタ
後ろから何かの音がする。
大木はすぐその音に気づいた。
ヒタ ヒタ
(な…なに……?)
大木は立ち止まり、その音をよく聞いた。
ヒタ ヒタ
(気のせいじゃない……)
そう確信すればするほど恐怖はつのっていく。
ヒタ ヒタ
(な、なんなの?)
大木はその正体を確かめたくなり、ゆっくりゆっくり振り返った。
大木が見たものは
「――っ!!!!!!」
その瞬間、大木はこの世から消えた。