表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランドールの魔女  作者: 若桜モドキ
二章 -困った人を助け隊-
15/39

五話 不思議な男の子

 酒場から依頼を承ったのは、数日前の話だ。

 少し変わった風味の、調味料を作ってほしいという変な依頼。ジュジュがいうには、踊り羊亭の店主は創作料理を作る趣味があって、それに使う材料を日夜追い求めているとのこと。

 先日の虫除け騒ぎを聞き、ミシャなら何か出来るのでは――と思ったそうだ。

 しかし、一つだけ疑問が残る。


「どうして、わたしだったんだろ……」

「ん?」

「だってわたし、料理って言っても本当に人並み程度しかできないもの。それも、レシピ本を見なきゃちゃんと作れないし。なのに、お店に出すかもしれない料理に使うものなんて」

 そう、ミシャが請け負ったその依頼は――新メニューに使う調味料。

 ハーブを中心にした、かなり個性のキツいのを数種類試作してほしいという内容だ。出来ればランドールで手に入りやすいものがいい、という以外、これという注文はない。

 この依頼は、ジュジュを経由して直接店から請け負ったものだ。

 教会での手伝いではない、初めての本格的な依頼。

 なので、本当はもっとテンションを上げて、張り切りたいところだったのだが。


「ムリですぅ……」


 いざ、踊り羊亭の料理を食べていると、自信は音を立てて崩れていく。

 こんなおいしい料理の、どこに自分が関われるのか。もはや関わることが害悪のようにしか思えなくて、ミシャはテーブルに突っ伏す。今すぐごめんなさいと謝りたかった。

 向かい側に座るジュジュは、ミシャの頭をなでなでする。

 どうも、店主の無茶振りは今に始まったことではないらしい。

 曰く、彼女も何の説明もなしに山に連れて行かれ、キノコを好きなように取れ、と命令されたことがあったそうだ。ちなみに、見た目で選んだ結果、全種類毒キノコだったそうだが。

 そんな具合に、店主は常に『シロウト』の目を求めているという。


「んとね、マスターがいうにはさ、シロウトさんの意見も重要なのよ。ほら、料理を食べるのは基本的にシロウトさんじゃない? そういう意味で、料理人じゃないミシャだからいいの」

「う……」

「料理の知識がないミシャが作る調味料から、何かひらめきたいわけよ」

 ジュジュの説明で、理由は理解する。

 店主の意図を、理解はしたが……。


「ムリですぅ……」


 ばたん、と再びテーブルに突っ伏す。

 そもそも、これまで味など気にもしなかった。望む魔法の効果を、最大限に引き出せるレシピこそ重要であって、香りでさえよっぽどひどくない限りは黙ってガマン。

 味など、そもそも口に入れるものではないのでお題目にもならない。

 それが当たり前の魔法使いに、とんでもない依頼をしたものだ。


 しかし嘆こうと喚こうと、請け負った依頼はちゃんとしなければいけない。ミシャはぐすぐすと半泣きになりながら、ジュジュから貰ったハーブとスパイスのリストを眺めていた。

「あー、なんか心配だから、今夜、一緒にお付き合いしてあげる」

 などといわれて、申し訳なさからさらに涙目になるのは、数分後の話である。



   ○   ○   ○



 とぼとぼ、とミシャは家への道を進む。隣には、普段着姿のジュジュがいた。店の制服も充分なほどにかわいらしいが、ジュジュの普段着はそれに勝るとも劣らぬほどにかわいい。

「ミシャもオシャレすれば? リオ兄さんとか、喜ぶかもヨ?」

「な、なんでリオさんが……」

「んー、兄さんが珍しく、あっちこっち連れまわす女の子だから。ほら、リオ兄さんって立場が立場でしょ? いろいろとあるらしいのよねぇ、お貴族サマってやつは」

「そう、なのかな」

「いい暮らししている代償だ、とか本人は言うけどね。まぁ、そんなわけで、昔からの知り合いぐらいしか、本音で遊んだり出かけたり話したりする相手がいないわけなのよ」

 次期領主だもんねぇ、とジュジュはため息を零す。


 確かに、あまり考えたことがなかったが、彼は貴族なのだ。貴族というと、あれやこれや面倒なことが多いという。結婚相手どころか知り合う相手さえも、自由ではないという話だ。

 リオは――街道沿いとはいえ田舎に生まれて、それなりに自由があるようだが。

 それでも、やはり縁談の類が舞い込んでいるのだろう。

 年齢を考えれば、そろそろ結婚してもおかしくなかったはずだ。


「リオさんも、リオさんなりに大変なんだなぁ――って、あれ?」

 ここにいない彼について考えていると、いつの間にか家の傍まで来ていた

 誰か、見慣れない子供がまん前に立っている、自宅の傍に。

 子供はミシャたちに背を向けている。見たところ年齢は二桁にもなっていない、格好からしておそらくは男の子だ。見た目はいいところのおぼっちゃん、という感じだろうか。

 子供は背後から近づいたミシャに気づき、はじかれるように振り返る。

 大きな瞳が、緊張の色を宿していた。

 ミシャは、シェルシュタインの里でやっていたように、にっこりと笑う。そして子供の目線に会うように身をかがめると、出来るだけ優しい声で話しかけた。


「あの……ぼうや、そこはわたしの家なの。もしかして、わたしに何か御用なの?」

「……!」

 話しかけると、その子供は何かを言いたげな顔をして。

 けれど、ばっと背を向けるとどこかへ走っていってしまった。その姿は、あっという間に暗がりに消えていく。ミシャは彼がどこの誰かより、その身の安全の方が心配になった。

「んー?」

 大丈夫かな、と思っているミシャの隣。

 ジュジュは何か考え込んでいた。

「どうかしたの?」

「……なーんか、あの子、見たことがあるようなー、ないようなー」

 はて、と首をかしげるジュジュ。

 しかしどうやら答えは出なかったらしく、まぁいっか、と笑う。



 それから二人は、夜遅くまでいろいろと語り合った。店主が作る料理にある、店主個人のクセのようなものの話やら、よく使っているハーブやスパイスについてなど。

 参考になればいいんだけど、とジュジュは言うが、ミシャにとってはこの上ない手がかりと方向性になった。後は、彼女から得られた情報を無駄にしないよう、がんばるだけ。

 一通り話をメモに書きとめて、明日に備える。

 結局、ジュジュはそのままミシャの家に泊まっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ