騎士物語
昔々、ある王国に、ひとりの騎士がいました。
騎士はとても貧乏でしたが、仲間たちにかこまれて、とても楽しく暮らしていました。
ある日のことです。騎士に、王女さまの護衛が命じられました。それは、とても名誉のあることです。騎士は、喜んで仕事に励みました。
王女さまはとてもわがままでした。お茶の準備、お菓子の準備、何をするにも騎士をこき使います。それでも騎士は、ただのひとつの不満さえ漏らしませんでした。
騎士は、仲間の騎士たちから噂話を聞きました。それは、この国の王様が、
王女さまの暗殺を企てている、という不穏なものでした。
仲間たちはよくある与太話と、笑いましたが、騎士にはその噂が気になってしかたないのでした。
騎士はとても注意深く王様を調べました。そして、見てしまったのです。暗殺などを生業としている汚い連中と王様が話しているところを。あの噂話は本当のことだったのでした。
その夜。騎士は王女さまを連れて、城を飛び出しました。このまま城にいては、王女さまは殺されてしまいます。
騎士には、そんな理不尽は許せないのでした。
「これは捕まったら死刑じゃの。酷い酷い拷問を受けた上で磔じゃ。哀れじゃ、哀れじゃ」
「なにせお前は誘拐犯じゃ。王女誘拐の大逆賊じゃ。昨日までただの召使だった男が大した出世じゃのう」
何も知らない王女さまは、騎士を誘拐犯と罵ります。
それでも騎士は何も言いません。親に殺されようとしているなどと、誰が口にできましょうか。
騎士は、祖国を背に、ただ走ります。王女さまの罵声をうけながら。