表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
後悔で啓蒙する救世主────平和活動家だった私は、後悔を植え付ける力で神の国を作る  作者: 砂之寒天


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/18

第〇話 夢のお告げ

※中盤に非常に重い展開が含まれますが、最後は必ず幸せになります

 これは、独唱アリア合唱コーラスに変わるまでの、愛と絶望の物語。


────────────────────


 夢を見ていた。


 私は四つん這いで、床を見つめていた。そうでもしないと、体を支えていられないのだ。目の前から発せられる、尋常でないプレッシャー。冷や汗をべたりとかく。


 目の前から光が溢れ出ていて、それは目を焼くようだった。人間には、過剰過ぎる光。

 そして、太陽が間近にあるような熱。夢じゃなかったら、私は焼け死んでいるだろう。


 目の前の存在が話し出す。


「我は神。救世主は、汝。芽詩(めうた) アリア」


 頭に直接響くような、何の音にも形容し難い音。キーン、とか、ズーン、とか、そんなもの。私の耳には、異音にしか聞こえない。

 いや、もしかしたら音など鳴っているかも分からない。ただ、空間は激しく揺れている。


「お主の能力は、相手に心底の後悔を植え付けること。

名付けて、『神よ、なぜ私を生み給うた』上手く使えよ。

では、さらば」


 世界が闇に包まれる。空間の熱が急激に下がっていく。あまりの温度差に、凍死する幻覚を見た。


 ガバリ!!


 布団を持ち上げ、上体を起こす。

 冷や汗がべたりと服を貼りつけていた。


「……は?」


 目が覚めて、第一声。状況の飲み込めていない声が漏れた。


「わ、私が……救世主? まさかね……」


 動揺を抑えて、窓をみる。


 朝七時、日は既に出ている。昨日と変わらず、穏やかに鳥が鳴いていて、この八畳間に変化はない。石の壁に、木の床。いかにも田舎らしい小さな家。


 ともあれ、今日も活動に行かなければ。私はヴァルメア王国、ウィスパーブルック村の、無名の平和活動家である。戦争などやめようと訴えるのだ。


 チェストを開ける前。鏡に写った姿に違和感を覚え、一歩下がる。

 鏡に己を写すと、どうだろう。


「は……?」


 ……髪が、真っ白だ。目は、アイスグレーだが、白に近い。朝日に照らされて、パールのような光を放っている。


 息を飲む。鳥肌が止まらない。

 まさか……本当に私は救世主になってしまったのだろうか。

 そんな大層なものに、私なんかがなれる気はしない。

 でももし、本当になれるのなら……少し、頑張りたい。私は微かな期待に胸を膨らませて、質素なパンとスープを摂った。


 看板と水筒とパンを持って、市場へ行く。午前中は市場が賑わうから、活動時間だ。


 木の板には布を貼ってあり、“戦争をやめよう”と書いてある。

 市場の端っこで、私はそれを掲げ続けた。


「今日もやってるよ……」


 冷ややかな声。

 だが、私は屈しない。この瞬間も戦争はどこかで続いていて、誰かが悲しんでいるのだから。


 そこに、いつものおばあちゃんが通りかかる。


「今日もありがとうねぇ」

「いえ、私の使命ですから」


 おばあちゃんはそう言って、私の手に飴を握らせてくれる。


 私は胸がじんわりと温かくなって、目を細めた。


「残りも頑張るんだよ」

「ありがとうございます」


 こういう人もいるから、私はこの活動を続けていられるのかもしれない。感謝してもしきれない。


 正午の鐘が鳴る。


 私は看板を下ろし、近くの公園に向かった。


 木の下に座り、木漏れ日を浴びる。爽やかな風が吹き抜ける。


 安いパンは固いが、私にはこれで十分だ。


 私の髪と目の色が変わった以外は、いつも通りの昼。


「おばあさんしか話を聞いてくれなかったな……」


 進歩が目に見えない日々。だが、きっと見えないところで何かが変わっているはずだ。


「だから、午後も頑張ろう」


 私は立ち上がり、また市場へ向かった。


 午後も看板を掲げる。日が傾いてきては、寒さが増す。


 ふと、仕事帰りのお兄さんが、私の前で止まった。

 看板を見て、ぽつりと呟く。


「……そうだよな。戦争はやめないと」

「!! そうなんです、戦争はやめないといけません」


 お兄さんが頷く。

 そして何やらカバンをゴソゴソ探り出す。


 差し出されたのは、押し花にされた小さな野花の栞。


「これ、俺の庭に咲いてたやつ。訴えてくれて、ありがとうな」

「っ、いえ。私の使命ですから。ありがとうございます」


 受け取り、思わず涙が滲む。


「……戦争がなければ、こんな花もずっと見ていられるのにな。……いつも君のこと、見てるよ。明日も頑張れよ」

「はいっ」


 私は力強く頷いた。


 十七時になり、私は市場を離れ、村の小さな孤児院に向かった。


 ここで読み聞かせをして行くのが、私のルーティンなのだ。


「アリアお姉ちゃん、髪の毛変わった!」

「そうなんだ、変わっちゃった」


 女の子が私の髪を触ろうとするので、屈む。


「きれい!」


 小さな手の中で、白金の髪が輝く。

 この光を見ると、神というものを信じないではいられなかった。


「今日は、この話を読みます」

「なになにー?」


 十人ほどの子供の前に座り、絵本を持つ。


「『灰色の空と、飛べない鳥』」


 私は穏やかな声で、語り始めた。


 初めの空は、青かった。鳥は楽しく飛び回る。

 しかし、戦争で、空は灰色になっていく。空に汚された鳥は、空を飛べなくなった。


「鳥は最後に言いました。『誰も飛ばなければ、誰も悲しまないかなぁ』おしまい」


 本を閉じる音が響く。


「……アリアお姉ちゃんは、お空、飛べるの?」


 男の子が首を傾げる。


「……飛べないよ。でも、もうすぐ飛べるかも」


 救世主になれるのなら。私は目を細める。


「……アリアお姉ちゃんは、飛んだらどっか行っちゃう?」

「ふふ、そんなことないよ。また、ここに戻ってくるよ」

「やくそく!」

「うん、約束」


 男の子と小指を交わす。


 穏やかな笑み。無邪気な笑み。


 この時は、確かにここに戻ってくれると信じていたのだ。


 そして、こんな小さな願いは、ついぞ叶えられなくなってしまった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ