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第八話 vs 超人類③

 二宮二葉(にのみやふたば)は驚いた。『敵』が、一切視覚で捉えられなかったからだ。動体視力が限界値を越えた、超人眼を持ってしてもである。


 それだけじゃあない。


 本来なら刃物や弾丸程度のダメージなど受け付けないはずの超人肌も、今やズタズタにされかけていた。

とにかく、見えない。

気がついたら全身の至る所に傷が、血飛沫が噴き出している。そんな理不尽な攻撃を、二宮は先ほどから一方的に与えられ続けていた。


 何だ、これは?


 二宮は目を見開き……彼は背中から生えた羽根で空を飛んでいた。その彼めがけて、死角から『敵』の攻撃が飛んで来た。打撃か、斬撃か、どんな種類の攻撃かすら分からなかった。空中で、一人踊るように体をくねらせ、歯を食いしばって彼は衝撃に耐えた。


 子供の頃、『妖怪大辞典』に載っていた『かまいたち』と云う妖怪を彼は思い出していた。辻風の化身のような妖怪で、すれ違いざま、知らないうちに人々を斬りつける化物だ。


 当時は、正直何が恐ろしいのかいまいち理解できなかったが……ごうごうと、耳元で旋風が唸りを上げる。彼は目で追うことを諦め、そっと瞼を下ろした。そしてそれ以外の感覚……第六感に頼った。


 数日前、黒い蛇のような生物に咬まれてからというもの、彼の五感は冴え渡っていた。

 そして、それと同時に芽生えたその次の感覚も。見えないはずのPlasmaを見、数km先の虫の羽音を耳にした。初めは自分がおかしくなったのだと思った。しかし、やがて

『サイコキネシス』

の能力に気がつき、彼は悟った。


 間違っているのは自分じゃない。世界の方だと。自分は正しい。いじめも、戦争も、大人が勝手に押し付けてくる謎ルールも、悪いのは全部この世界じゃないか。


 世界を壊そう。


 彼は自然にそう思った。環境問題、食糧問題、人種差別……いや、わざわざ何かを(あげつら)う必要もない。とにかく人類は調子に乗り過ぎた。

Great Reset.

Scrap & Build.

一度壊して、作り直すべきだ。自分なら出来る。より善い世界を作れる。人類を超越し、高次元な存在に進化した自分なら。


 と同時に、彼の内側で、もう一人の彼が怯えていた。


 手にしてしまった『能力』に。そう、大言壮語ではなく、本当にそれが出来てしまうのである。

両手を武器に、自由自在に身体を変えられた。

背中から羽根を生やすことが出来た。

水中に潜れば、鰓呼吸に切り替えられた。

その気になれば何だって出来る。特別な力を手に入れた高揚感に酔ってしまいそうだった。それが彼には怖かった。


 たとえるなら、親に黙ってナイフを買って、こっそりポケットに忍ばせているような気分。今や自分は念じただけで人が殺せるのである。もちろん今まで人を殺したことなどない。それどころか、この『能力(ナイフ)』は全人類を、地球を破壊することさえ不可能じゃない。


 そう思うと急に怖くなった。漫画やアニメではなく。現実に、こんな凶悪な『能力』を手にしていることを知られたらどんな目で見られるか……『フランケンシュタイン』の結末はどうなった? 膨れ上がった破壊衝動と、冷静さを呼びかける自制心との、二つの心情が、彼の(うち)で暴れ回った。


 無闇矢鱈と『能力』を誇示するべきではない。それくらいは彼にも分かっていた。科学者にとっ捕まって、実験動物にされるつもりはない。冷静さを失わないように、暴走しないように……上手く自分を制御(コントロール)しているつもりだった。しかし……。


 瞳を閉じて、二宮は第六感で『敵』を探った。視覚でも聴覚でもない、物理法則を超越した人外の感覚が、この世界に見えない網を投げかけた。程なく対象を捉えた。そうして、彼はこの日二度目の、先ほど以上の驚きを受けた。


 何なんだ、これは?


 分からない……いや、そこにいるのは分かる。分かるのだが、そこには無明の闇……何とも禍々しい暗黒が揺らめくばかりであった。果たしてそんな生物がいるだろうか?

 

 彼は空恐ろしくなった。まるで怨霊か、はたまた地獄の使者か……人の悪意を具現化したら、あるいはこんな形をしているのだろうか?


 暗闇に対する本能的な恐怖を、二宮は持ち前の理性で断ち切った。迫り来る常闇に向き合った。


 すると突然、身構える暇もなく、目の前の闇から()()()が飛んで来た。()()()……光線か、エネルギー砲のようなものだろうか? 大きな口を『敵』が開け……まるで怪獣映画だ……時間にしてほんの数秒、ほんの一瞬だった。とにかくそれが何か判別する前に、濁流に呑まれるが如く、二宮の全身を闇の放射が貫いた。


「……ッ」


 攻撃を受けた……そう気がついた時には、目の前が真っ暗になっていた。体が動かない。何も見えない。何も聞こえない……だが、その時二宮は確かにその声を聴いた。その姿を観た。


『オマエダケジャ……』

「……?」

『オマエだけじゃネエ。ミンナ狙ッてンだ。覚エトケ』

「……ッ」

『オマエの時代こそもう終ワリだ。イキってんじゃネエェエぞ、この※◎〠〓! 次の時代を作るのは、この、俺ダ……!』


 喰われる。


 本能的にそう悟った。動けない。まるで蛇に睨まれた蛙だ。遮断していた感情が、ふつふつと、耐え切れずに溢れ出して来た。二宮は心底震え上がった。怪物。間違いない。底知れぬ闇が、辛うじて人の形を保っている……そんな感じだった。コイツは一体……!?


 ……恥ずかしい話、いじめられていた時は、自分は世界で一番不幸なんだと思っていた。これ以上最悪な人生は無いと、そう信じていた。


 嗚呼、だけど、自分は何てちっぽけで、狭い世界で生きていたんだろう。世の中にこれほどの悪意が、闇が、潜んでいただなんて。


 あまりにも理不尽、あまりにも不条理。それが……それが彼の遭遇した『災厄』だった。


『ギャハハハハ……!!』


 二宮が最期に聴いたのは、自分を飲み込む闇の化け物の哄笑(こうしょう)だった。そうして彼の意識は、深い、深い、地獄の底へと引き摺り込まれていった……。

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