幕間
〜BIG5 これまでの地球上での主な大量絶滅〜
① オルドビス紀末(O-S境界)
・約4億4400万年前
・代表的な生物……オウムガイ、三葉虫、筆石、サカバンバスピスなど
・考えられる絶滅原因……火山噴火など
オルドビス紀は『筆石時代』と呼ばれるほど、筆石の化石が大量に見つかっている。筆石は、ポケモンの『アンノーン』みたいな、何らかの文字のような形をした謎生物である。
この時代、生物はまだ海にいて、陸地に進出した物はいなかった。そのため、海水温度が約20℃ほど下がり、海が凍りつくと約85%の生物種が絶滅した。この気候変動は
超新星爆発によってガンマ線バーストが降り注いだか、
あるいは火山噴火による寒冷化ではないか
といった説がある。
火山噴火で寒冷化とは何だか不思議な気もするが、その真の恐ろしさは放出される塵にある。火山噴火は短期的には寒冷化する。大量の火山灰や硫黄酸化物などのエアロゾルが太陽光を遮り、地球全体が冷却されるのである。たとえば1991年のピナツボ火山の大噴火では、地表に到達する太陽光が最大で5%減少し、平均気温が0.4℃下がった。
② デボン紀後期(F-F境界)
・約3億7400万年前
・代表的な生物……イクチオステガ、シーラカンス、トビムシなど
・考えられる絶滅原因……火山噴火など
※デボン紀は『魚類の時代』と呼ばれる。魚たちが目覚ましい進化を遂げ、また昆虫やサメも出現した。両生類は初めて陸地に足を伸ばし、世界最古の木「アルカエオプテルス」も地上に姿を現した。この時期にオゾン層も作られた。進化の過程で顎が発達し、捕食者が現れ、生物は次第に巨大化した。
地球に動植物など役者が揃った上で、2回目の大量絶滅は起きた。
原因は1回目に引き続き火山噴火だとか、他にも海の無酸素化だとか、隕石衝突といった説もある。無酸素化……お風呂に入っていると、熱いお湯が上の方へ、冷たい方が下へと溜まっていく経験がないだろうか。
あれと同じことが地球全体で起こり、海底に酸素が行き渡らず、無酸素状態になってしまうのである。結果、進化を遂げた魚類が大量絶滅し、また全体の約82%が姿を消した。
③ ペルム紀末(P-T境界)
・約2億5100万年前
・代表的な生物……エダフォサウルス、ディメトロドン、メソサウルスなど
・考えられる絶滅原因……火山噴火など
地球史上最大、約90%〜95%の生物種が死滅した大量絶滅がこの時代に起きた。
名付けるとすれば『死の時代』だろうか。ペルム紀にはパンゲア大陸という、世界の全ての陸地が一つにつながった超大陸が存在していたとされ、その上で全長3メートルを越える爬虫類の祖先などが生息し、繁栄を極めていた。
この時代の大量絶滅の原因にはいくつか説がある。たとえば
・シベリア付近で約100万年に渡って大規模火山活動が続いた
・海退……世界規模で海岸線が後退した形跡があり、食物連鎖が崩れた
・海底のメタンハイドレートが大量に気化し、温暖化が進んだ
・メタンにより酸素濃度が急減し、海洋全体が無酸素化した
・大量の二酸化炭素が海に溶け酸性化した
・南極に直径約50kmの巨大隕石が衝突した
などである。
古生代から長らく繁栄してきた三葉虫はこの時代に姿を消し、次に生物にとって安定した環境が回復するまで、約1000万年はかかったと言われている。
④ 三畳紀末(T-J境界)
・約1億9960万年前
・代表的な生物……エオラプトル、サウロスクス、アンモナイトなど
・考えられる絶滅原因……火山噴火など
非常に酸素濃度が低い時代だった。三畳紀は『爬虫類の時代』である。陸上を大型のワニが支配し、体の小さい初期の恐竜も生まれた。また最初の哺乳類が誕生したのもこの時期である。三畳紀では複数回の災厄が起き、最終的には全体の約76%が絶滅した。
主な原因は、またしても「火山の冬」である。火山による寒冷化……それ以外にもカナダには、直径約100kmもの隕石衝突の痕跡も残っている。パンゲア大陸が分裂し始め、環境が激変したとの説もある。当時は大西洋がなく、そこに大量の溶岩が洪水のように噴出した跡が遺されている。
特筆すべきは、この大量絶滅では恐竜が絶滅しなかったことである。火山の冬にも耐えた、つまり恐竜には寒さに耐える羽毛が生えていたのではないか……という説は、この辺りにある。実際に羽毛の生えた恐竜の化石も見つかっている。ワニなどの爬虫類には残念ながら羽毛がなかった。この災厄を乗り越えた恐竜たちは、やがて巨大化し、「恐竜の春」を迎えることとなる。
⑤ 白亜紀末(K-Pg境界)
・約6600万年前
・代表的な生物……ティラノサウルス、ヴェロキラプトル、トリケラトプスなど
・考えられる絶滅原因……隕石衝突など
恐竜の春……ジュラ紀から白亜紀にかけて、1億年以上大量絶滅はなく、温暖で安定した気候が続いた。
かつて一つだった大陸は七つに分かれ、花を咲かせる被子植物が広まり、共進化的に昆虫や小型哺乳類なども多様化が進んだ。最初の鳥類が出現したのもこの恐竜黄金期だと言われる。その恐竜たちを絶滅させたのが、かの有名な隕石衝突だった、というのが現在の定説になっている。
隕石の衝突は、大きさと同時に速さが問題である。遅ければ大気圏で燃え尽きるのでそこまで心配はない。小さいものは10cm程度で、大体秒速10〜20km程度で落ちてくる。大概は摩擦熱で輝き、地上に近づくに連れ破砕され小さくなっていく。地上に届く頃には、時速70km程度の速度に落ちているだろうから、小学生でもバットがあれば打ち返せるだろう。それでも地面に当たれば数mのクレーターが出来る。
ただこれが大きさ50mを超えるようだと、ほどんど減速しないで衝突する。恐竜の絶滅時には直径約10kmの隕石が、時速約6万kmの速度で落ちてきたと言われている。地球には大体年間500個程度の隕石が降ってきているらしい。1日に1〜2個の割合である。そのうち、直径が100mを超えるような巨大隕石は、1000年に一度来るか来ないかといったレベルだそうだ。
他にも火山の噴火が(またしても火山の噴火が!)原因だとも言われる。我々人類がBIG5から学べるとしたら、火山には気をつけよということである。とはいえ、火山が本気を出した時点で、果たして人類に何か出来ることがあるのか、甚だ疑問ではあるが。
白亜紀末で生物種は70%減った。巨大な恐竜が大量絶滅したため、絶滅といえばこの白亜紀を思い浮かべる人が多いだろうが、BIG5の中では最も軽症である。
※
そして『哺乳類の時代』、『人類の時代』。絶滅という概念は、ひと昔前まではまだバカげた空論に過ぎなかった。アリストテレスは『動物誌』を書いたが、動物にも歴史があるとは思い付かなかった。1800年代になっても、人々は、自分たちのいる時代の前に、また別の時代、別の世界があるとは中々信じられなかった。
初めてマストドンの臼歯が発掘された時、それは『巨人の歯』と呼ばれ、どうやらその生物がもうこの世にはいないと分かった時、人々は驚いた。種は絶滅する! 『人類以前の世界』の発見は、世界で一大センセーションを巻き起こし、人々を熱狂させた。
やがて1859年ダーウィンが『種の起源』を書いた時、人々はその余りの内容の過激さに再び衝撃を受けた。何故ならそれは「人間が特別な存在であることの否定」に他ならなかったからだ。
人は神の子であり、未来永劫この地上で栄える存在であるはずだった。死後の世界は約束されているはずだった。しかし、人間もまた進化してきた動物であるのなら、恐竜と同じように、絶滅する可能性も0ではない……『人類以後の世界』は、こうして発見された。




