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第十六話 終焉の誕生

「さすが、メルキアデス先生! 先生は天才です!」

「やれやれ。メルキアデス、脱帽だよ君には。まさかそんな着眼点があったなんて」

「メルキアデス先生!」

「メルキアデス先生!」

「良くやったぞ、メルキアデス。これからも、組織のためにしっかり働いてくれよ」


(やだなぁ)



「さぁみんな! 各々固有のジグを受け取るんだ!」

「今の回想要りました?」


 悲しくも何ともない過去を勝手に語り始めたかと思ったら、先生は担いでいた黒いポリ袋からゴソゴソとゴミ……ではなく、珍妙な発明品を取り出した。

「ジグの形は人によって様々だ。ある人は地球儀だったり、またある人はサーフボードだったりするんだが、だからこそそれぞれ多種多様な『災厄』を最大限に発揮できる」

 己の『災厄』を制御するというジグ……何だか新しい武器を渡されるみたいで、僕は少しドキドキした。


「先ずは二宮クン! 君にはこのブレスレッドを上げよう!」

「お……!」

「この銀色のブレスレッドを装着することで。右腕の疼きを抑え、君の封印された『超人類』の力をさらに解放出来るのだ!」

「へぇ……中々カッコいいじゃないですか」


 銀のブレスレッドを受け取った二宮先輩は、早速気に入ったようだった。よく見ると所々に月や星などが刻まれている。中々芸が細かい、普段使いにも悪くない一品だった。


「そして蒼井クン! 君にはこのネックレスだ!」

「まぁ可愛い!」


 そして向日葵ちゃんに渡されたのは、青い真珠で出来たネックレスだった。向日葵ちゃんが嬉しそうに早速首にかけた。


「あ……ひんやりする!」

「フフフ。そのネックレス型ジグによって、『地球温暖化』の熱を自由に調節しているのだよ」

「そんなん発明できるんだったら、もう先生が環境問題解決してくださいよ」

「良かった〜、これでもう、パパ要らないね!」

「なんて事言うんだ……向日葵……!」

「蒼井クンのお父さんには、サングラスを用意しました」


 先生は次に黒いサングラスを取り出した。


「サングラスだぁ?」

「これをかけることによって、どんな時代でも、景色は暗くなります」

「そんな道具じゃねえだろこれ……」


 寒いおじさんは呆れながらも、まんざらでもない顔でサングラスを受け取った。人の姿の時と、ドラゴンの時でちゃんとサングラスが伸び縮みするらしい。少なくとも現代の科学技術で作られたものではない。やはりこの人は、メルキアデス先生はすごい人だったんだ。僕は少し反省した。


「そしてお待ちかね。三畳クン!」

「は……はい!」

「君のジグはこれ! 匕首(あいくち)だ!」

「あ……何ですって?」


 僕は戸惑った。ポリ袋から出てきたのは、何と包丁……短刀だった。しかも銀色に輝く刃に、少し赤い血が付いている。


「君はこの匕首で自刃することによって……」

「……すみません。聞こえませんでした。もう一回言ってください。これは何ですか?」

「まぁ手っ取り早く心臓を破壊できれば、何でも良かったんだけどね。アハハ」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!?」


 笑い事ではない。血の付いた匕首を渡され、僕はドン引きした。


「僕に……僕に自害しろって言ってるんですか!?」

「すまない。他のみんなのジグについ凝っていたら、キミの分の時間と予算がなくなっていた」

「他の人たちはオシャレアイテムなのに、何で僕だけこんな猟奇的な……犯罪に使う奴でしょこれ!?」

「まぁまぁ。今度ボーナスが出たら新しいの作って上げるよ」


 そんな押し問答をしているうちに、また雲行きが怪しくなってきた。頭上では、ラプトンがまたしても地球儀をくるくると回し始めた。さらにその隣では、サクラテスがサーフボードの上でブレイクダンスを再開している。


「どうやら戦いは、避けられないみたいだな……」

「さぁ三畳クン! 早速ジグを使い給え!」

「い……」

 またしても降り注ぐ隕石、迫り来る大津波。破滅の危機に、僕は目を逸らした。

「嫌です……」

「何だって?」

「嫌です。こんな、錆びついた刀で自傷するくらいなら、僕、今の人類を見捨てます」

「この状況でそっちを選ぶ主人公がいるか! そんなこと言わずに、早く!」

「うぅ……!?」


 意を決して、心臓に刃を向け……恐る恐る、突き刺す。

「うぅぅう……ッ!?」

 痛みはなかった。

 だけど血が、黒い濁流が胸から噴水のように噴き出して、僕はたちまち意識を失った……。



「うぅぅぅううう……!」

「苦しんでますよ!? 先生、アレ大丈夫なんですか!?」

「多分……半分は成功だ!」

「半分は失敗なのか……」

『ウ……!』


 黒い濁流が三畳三太の全身を包んで行く。その様子を、二宮二葉は固唾を飲んで見守っていた。いつの間にか、無意識に鳥肌が立っている。常闇のように真っ黒で、鱗や、鋭利な爪や牙が生えたその姿は、絵画で描かれる悪魔のようであった。


 ……同じだ。あの時と。


 二宮は確信した。自分の『超人類』を喰らって吸収した、あの『災厄』。あの日の化け物が、今、再び目の前にいた。


「先生、あれは……」


 釘付けになった視線の先では、『災厄化』した三太が怒りの声を上げていた。そりゃそうだ。自分の心臓に匕首が刺さっていたら、怒りたくもなるだろう。黒い『災厄』はそのまま獣のような咆哮を上げ、怒りに任せ、頭上に浮かんでいた2人に飛びかかった。


「三畳君のアレは、何という『災厄』ですか?」

「『超新星爆発』だよ」


 隣にいた化学教師が、さらりと教えてくれた。『超新星爆発』。二宮は息を呑んだ。

「『超新星』というと『スーパールーキー』みたいな意味で使われるけど、アレは、進化した星の、終焉の姿なんだよ」

 二宮は頷いた。成長を続けた巨星の、最期にして最大の大爆発。様々な型に分類されているが、その原理はいまだ明らかになっていない。


 それで、か。二宮はようやく合点が行った。おそらくアレは、自らの質量に耐え切れず、重力崩壊し中心にブラックホールのようなものが出来ているのだろう。それで他人の『災厄』を吸収出来たのだ。ブラックホールは周囲の光すらも吸い込む。道理で肉眼で捉えられなかった訳だ。


 ※余談。『超新星爆発』が起きると、太陽の約1億倍、一つの銀河(約1000億個の星の集団)に匹敵する光を放つという。あまりにも明るく輝くため、新しい星が出来たと勘違いした人々がそう呼ぶようになった。実際には光が届くまでにタイムラグがあるため、我々が『超新星』を観察する頃には、その星は宇宙に爆発四散している。


 ※追い余談。『超新星爆発』は大体一つの銀河の中で50年に一度は起きているらしい。宇宙全体では数秒に一回は爆発している計算だ。星と言うやつは、結構頻繁に爆発しているようである。


 二宮の頭上で、三太が大きく口を開け、黒い光線を放った。たちまち轟音が耳を劈く。禍々しい光は、降ってきた隕石を一瞬で吹き飛ばし、そのまま宇宙の彼方へと飛んでいった。桁が違う。二宮は慄いた。とてもじゃないが、隕石衝突や大洪水なんかとは比にならないエネルギー量だ。


 ※追々。恐竜を絶滅させた隕石のエネルギーが仮に【10の20乘ジュール】(地球が1日に太陽から受けるエネルギーの5分の1程度)だとすると、『超新星爆発』のエネルギーは、【10の44乘ジュール】……これはつまり、太陽が100億年間に放出するエネルギーを、一瞬で解き放つに等しい。


 黒衣の2人が文字通り消し飛んだ。

「『ガンマ線バースト』だ」

 黒い怪獣の放つ怪光線を眺めながら、メルキアデスが呟いた。


 ※オイオイオイ。『ガンマ線バースト』は天文学史上最も光度の高い物理現象で、前述の、太陽100億年分(一生分)のエネルギーをわずか数十秒で放出する。『ガンマ線バースト』は『超新星爆発』が発生源と見られているが、正直まだまだ謎の方が多い。


 この怪光線は全方向に広がらず、特定の方向に偏る「指向性」を持っている。それゆえに影響は『超新星爆発』よりもさらに遠方に及ぶ。


 果たして何処から飛んで来るのか……下手したら何十億年もの過去からやって来る……現時点ではまるで予測不可能である。実際2022年10月9日には、約24億光年前の『超新星爆発』により発生した『ガンマ線バースト』・通称「BOAT」("Brightest Of All Time"……観測史上最も明るい)が地球に飛来、大気の電離層を撹乱し研究者たちを驚かせた。


 ※オイオイオイオイ。死ぬわアイツ。『バースト』自体は大体数千〜数万年に一度レベルで、この地球にも毎日、宇宙の彼方で発生したγ線が1日1個は届いているらしい。有難い事に、そのほとんどが太陽系・天の川銀河の外で発生している為、地球にはそれ程影響はない。だが、仮にこの『ガンマ線バースト』が地球の()()(30〜60光年以内)で発生し、直撃したとしたら、おそらくこの星の生物はほぼほぼ死滅する。


 生き残ったとしても、オゾン層は完全に破壊され、地球はたちまち灼熱の星と化す。また、DNAがズタズタにされるから、細胞分裂できずにやはり滅亡の道を辿るだろう。


 実際にオルビドス紀やデボン紀の大量絶滅は、この『ガンマ線バースト』が原因だったのではないか……とも言われている。オイオイオイオイオイ。今回の話、余談ばっかりだな。


「この宇宙で最も強い力の一つ……だ」


 激烈な閃光と、底知れない虚無の闇。白と黒に染まった世界で、二宮が顔を上げると、メルキアデスが肩をすくめて見せた。


「一歩使い方を間違えたら、こりゃ本当に僕ら、滅亡するかも知れないね。アハハ!」

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