エピローグのプロローグ
人生はいつだって分岐点の連続だ。
それが進学や就職、結婚と言った比較的大掛かりな出来事ではないにせよ……たとえば今日、家を出て普段右に曲がる道を、たまたま左に曲がったら。いつも朝は食パン派だったけど、今日だけ、たまたまご飯と味噌汁に変えてみたら。
もしもあの時、ああしていれば。
あるいはあの時、ああしていなければ。
中国で1匹の蝶が羽ばたくとブラジルで竜巻が起こる……もしかしたらたったそれだけのことで、人生は枝分かれを繰り返し、世界はまるっきり違ったものになっていたかも知れないのだ。
そして今日、僕はそんな分岐点の上に立っていた。
分岐点……つまり『人類が滅亡するか否か』の分かれ道である。
人類滅亡?
何を大袈裟な。馬鹿馬鹿しい、非科学的だ……そんな声が聞こえてきそうだ。きっと誰もが大笑いするかも知れない。僕だってそう思う。そう思ってた。だけど、科学的であればあろうとするほど……たとえば
隕石の衝突
地球温暖化、あるいは氷河期
巨大地震の発生、火山活動
……など、これらの『可能性』を否定できないはずである。何故ならこれは、数百万年前……あるいは数億年前……この世界で現実に起きた『災厄』だからだ。
余談だが、地球上、大量絶滅期は過去に5回ほど遭った。
オルドビス紀(O-S境界)
デボン紀(F-F境界)
ペルム紀(P-T境界)
三畳紀(T-J境界)
白亜紀(K-Pg境界)
合わせて
『BIG5』
と呼ばれるそれぞれの時期に、三葉虫から恐竜まで、それぞれの時代を謳歌していた生物の75%〜95%以上が、環境の変化に対応出来ず死滅した。
もっと身近なところから行くと、地震・火山など災害大国の日本では、数百年に一度は巨大地震に見舞われ、また数万年に一度、カルデラが出来る規模の火山活動が観測されている。今のうちに『巨大地震が起きる』と嘯いておけば、貴方も数百年後には、著名な予言者として崇め奉られている……かも知れない。
話をさらに大きくしよう。
一説によると、どうやら我々の住む太陽系は3000万年に一度、
『オールトの雲』
と呼ばれる小惑星群に接近を繰り返しているようだ。要するに隕石の衝突である。
厳密に言えば、地動説も天動説も、どちらも正しくない。
地球は太陽の周囲を公転し、そして太陽は、秒速約数百kmの速度で天の川銀河を疾走している。
太陽も地球もどちらも、星は常に動いている。
広大な銀河の片田舎の、青い星の絶滅の周期は、そうした星たちの摂動に関連しているのではないか……とも言われている。
その太陽の寿命も、後50億年ほどだと言われている。永遠は存在しない。どれほど遠く見えようとも、その日は必ずやってくる。
……いやいや、そんな先の話をされても。
やっぱり、聞こえてくる声は、何を大袈裟な。馬鹿馬鹿しい、非科学的だ……そう、確かに科学は予言ではない。誰も未来のことなど分かるはずもない。
だが、逆に言えば、だからこそ明日……いや今日にでも『6回目』が訪れないとも限らない。核戦争、自然破壊、AIの反乱、パンデミック……中国で1匹の蝶が羽ばたくとブラジルで竜巻が起こる……あらゆる『可能性』は常に0%ではないのだ。
突如空を埋め尽くした大量の円盤を見上げながら、僕はつくづく思い知らされた。閑静だった住宅街に、けたたましいサイレンの音が鳴り響く。
僕の目の前に現れた、人類が滅亡するかしないかの分岐点。たまたま左に曲がったら。たまたまご飯と味噌汁に変えてみたら。
学生鞄を放り出し、僕は深々とため息をついた。
やれやれ。今日は『宇宙人襲来の日』か。