とある娘の独白
私が生まれたのは、小さな小さな山間の村だった。
幼い頃から傍にいた2人の兄、片方はのんびりとした性格で、片方は細かいことを気にする性格だった。
小さな頃はよく下の兄と取っ組み合いの喧嘩をしては母様に叱られていた。年頃になり、兄達が他人だと知って思わず本人達に確認したら、大兄は困ったように、小兄は何故か傷ついたように膝をついてきたから、私はわけも分からず泣いてしまった。
それからだったろうか、母様から沢山の習い事を増やされたのは。お針に花に茶に舞踊に和歌に、と毎日が矢のように過ぎていき、時々外出する時には大兄と小兄が背後に控えるようになった。
私が十五になった頃、どこかの遠い地で太閤様が天下人となったと噂が流れてきた。母様と私は太閤様の奥様に仕える為に大坂へ行かなきゃいけないらしい。
そんな話を父様から聞いた日の夜だった。
燃え盛る我が家を大兄が私を抱えて抜け出した。後に続くように小兄が険しい顔で横に並ぶ。
目指すは村の離れにある楼閣。村で唯一の見張り台。
しかし、そこもすでに知らぬ雑兵に囲まれ、火をかけられる寸前だった。
小兄が一足先に走り出て雑兵を斬り伏せる。大兄を呼び、扉を閉めると内側から閂をかける。
ガタガタ震える私に小兄がらしくなく慰めてくるのが妙に現実感がない。小兄が何かを言いかけた時、嫌な匂いがした。我が家が燃える寸前に嗅いだ油の匂いだ。すぐに動いたのは大兄で小兄は扉の前から動かなかった、否、動けなかった。
小兄の腹を槍が、貫いていた。
何が起きたのか分からなかった。
ただ、大兄に抱えられながら、小兄の絶叫が耳にこびりついて離れななかった。
やがて私は物置に押し込められ、大兄の声が聞こえなくなった後、敵に引きずり出されて首を斬られた。
そうして今は、小兄と手をつなぎながら、大兄と母様と父様と村のみんなと河原を歩いている。
ああ、どうか次は、平和な世に生まれますように。