とある護衛の独白
いつかは来ると分かっていた。
それが今日だとは思っていなかっただけで。
山奥の小さな小さな集落。
そこには主家と、仕える者の家が集まっていた。
畑を耕し、川で洗濯をして、山で狩りをして。
大人は働き、子は遊び、当たり前の平凡な毎日をただただ過ごしていた。
主家に姫が生まれた。そして同じ年頃の俺と弟が姫の護衛を兼ねた遊び相手に選ばれた。
弟は姫にどうしたらいいのか分からずにいつも喧嘩をしていた。姫とはいえ、こんな山間の小さな集落の娘だ、弟と取っ組み合いの喧嘩をしては母親にこっぴどく叱られていた。
俺は俺で、弟と共に父に叱られる。まったく理不尽だ。しかし、年を重ねていくうちに、俺と弟は背が伸び、力もついてきた。姫も気づけば美しい黒髪のたおやかな娘に成長した。
弟はいつからか無口になり、姫に対しても一線を引くようになった。姫はそれを寂しそうにしながらも、ただ微笑むだけになった。俺はといえばそんな2人を見守る事しかできなかった。
ああ、こんな事になるならば。せめて2人を遠くへ出してやればよかった。
弟の凄まじい断末魔が聞こえて、俺は燃え盛る楼閣をただひたすらに上を目指した。
腕には弟の名を呟きながらはらはらと涙を流す姫を抱えて、迫りくる猛火と敵から逃げる。
最上階、物置に姫を押し込み扉を背に前を向けば、敵がすぐに現れた。
姫は恐怖を押し殺し、息を潜めている。
ならば俺もそれにならうべきだ。
どれだけ斬られようと、ここを退くつもりはない。
一人でも道連れにしてやる。
気づけば、俺はいつも3人で来ていた丘の上に立っていた。燃え盛る集落を眺めていると、弟と姫が俺を呼んでいた。2人が昔のように手をつないでいるのを見て、ひどく嬉しくも哀しかった。