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とある侍女の独白
夏の日だった。
緑生い茂る山道を、私は徒歩で、あなたは栗毛の馬に乗っていた。木々に溶けてしまいそうな若草色の直垂が良く似合っていた。はにかむ顔、まだ馴染みきってない烏帽子が微笑ましい。
あなたが楽しげに私に話しかけると、声色はいつも通りでも、頬はひそかに緩む。綸子越しだからきっとバレてない。ああ、杖に結んだ鈴の音のように心が弾む。
だと言うのに、ごめんなさい。
どうか許してね。
ほんの僅かでも、幸せな夢を見れました。
目の前には粗末な衣を纏った輩。
後ろにはあなたがいる。
ならば取る道はひとつ。
馬の尻を杖で殴る。驚いた馬があなたを乗せて走り去ったのを見届けたら、次は私の番。
杖を抜けば煌めく白刃。
むせ返るような血の匂い。
どうかどうか、あなたが無事であるようにと。
どうか、泣かないでください。
あなたと共にあれて、私は幸せだったのだから。