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鎮歌
少女らが、コソコソ話をし、「菊の花簪をした少女」が「リンドウの花簪をした少女」の手を引く。
「火事だー!火事だー!」
少女らの隣を町人が、走り抜ける。
「土手の草に、燃え広がったぞー!」
大衆がざわめく。
真っ暗な闇の中、橋の下が、火の海になっていった。
翌朝、火元の上で人が集まっている。
「ありゃー、なんでい」
一面真っ黒になった河原に一か所だけ色がある。
水たまりに浸って、燃え残った着物の切れ端がある。
一層大きくなっていく騒がしい声に興味をもたず、一人の火消しが土手を滑って河原に降りたった。
ひらりと半纏をなびかせて、水たまりの中の切れ端をすくう。
(女物の着物か・・・。かなりの上物だな)
一瞬目をやっただけで、興ざめしたように火消しは土手を上がって行く。
「何だったんでい、その手の物は」
火消しの男は黙って手を開く。