5/11
リンドウ
おむいが、1人で浮世絵の刺繍を指でなぞっている。
おむいが破いた障子の紙に色とりどりの菊が描かれた浮世絵が代用されている。
「はあ……」
おむいがため息をついていると、男が店に入り、乱暴に置く。
「わっ……」
目つきが悪い大柄の男に、おむいはビクッと怖がった。
「……」
男が、店の一文銭を掴んで店を出て行く。
夫婦が、竜胆屋に帰ってくる。
「見て、この着物!」
「リンドウ色の着物」を着たおむいが、店の中から、走り寄ってくる。
「まあ、綺麗な着物やねぇ」
鱗のような小さな白い花と、竹型の鹿の子が施された着物に、妻が目を細める。
「そうなの、そうなの!さっき、安い値で売ってくれたと」
おむいが夫婦の近くでくるくると回ると、店の戸口で止まった。
「ちょいと、友達のとこ、行ってくる!」
おむいが店を出て行く。
「あっ、仕立て直しで余った布、そこに置いとくき」
おむいが一瞬、入り口の外から顔だけ出して、また走っていった。