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十年後
妻に手を引かれたて、おむいが竜胆屋に入る。
店には数え切れない程の古着がある。
おむいが、ぼうっと辺りを見ていると、夫婦が奥の小さな部屋に誘った。
部屋に入ると、一際鮮やかな着物が並べてある。
十年後……
二人の娘がキャッキャ言いながら、小走りで竜胆屋に入る。
老夫婦が着物の整理を行っている。
「まあ、この着物もほつれとるわ」
「どれ……ハハハハハッ、みんなが着回しとるから仕方ねぇさ」
夫が妻から視線を外す。
「遠くから見とったら分かりゃせん。近くでよーく見らな、気づかんモンじゃ。そう心配すんな」
軽くなだめるように言って部屋を出る。
先ほどの二人の娘と、おむいが障子に注目している。
おむいは路考髷に赤の6弁つまみ細工、路考茶の着物を着ている。
障子の紙のところどころに、3枚の浮世絵が貼られている。
「瀬川菊之丞の文字が書かれた女形」の絵
「岩井半四郎の文字が書かれた女形」の絵
「菅原道真公の文字が書かれた装束の男」の絵