絡みつく怪談話
「あちらこちらに、六つの花が舞いしきる暮れ六つでごさいます。鈴ヶ森の鉄柱に16歳の娘が縛られておりました。もう火灯し頃というのに、この寒さをも無視して群衆が集まっております。この少女は先日筋違橋のたもとでさらされていた罪人でごさいます。観客には憐れむ気などさらさらなく、ただの一興として見世物の少女を見やっておりました。足元に積まれた薪は白く変わってしまい、少女の感覚はほとんどのなくなっておりました」
暗い中、鉄柱に縛られている娘の白い着物が月光を反射している。
娘が目を開ける。
「微かに目を開けると、群れの中に自分と同じ年の頃の子がいるのが分かりました。麻の葉文様の着物が疲れた目に痛くて、またまぶたを閉じてしまいました」
娘の隣に、銀のビラビラ簪、白の6弁つまみ細工、麻の葉模様の着物をまとった子が現れる。
娘がゆっくり目を閉じる。
「『もう私は綺麗な着物を着ることはできない…』罪を犯した自分はこの数日間で薄汚れた白地の
単衣を着たままになっております。」
雪を模した紙切れが降る。
「『一番のお気に入りだったあの着物、刺繡された花が、5弁に見えて少し残念だった。私の名前に2つ足りない……。あと2つあったら、揃うのに……』」
子が暗闇に姿を消す。
「『そろそろ、灯すか』と呟く男の声がかすかに 聞こえ、目を開くと、遠くの方にチラチラと行灯の火のようなものが見えました」
娘が目を開ける。
「誘われているようで、ぼうっと見つめていると、煙に混じって焦げ臭いにおいが鼻をかすめ、
視界が一気に黄ない色に変わりました」
舞台が暗転する。