無いものねだり
働きづめの男は思った。
猫のような自由な暮らしをしたい。
この過酷な労働の日々を終わらせたい。
仕事でフラフラになりながら帰宅している男の前に神が現れる。
「一つだけ願いを叶えてやる」その言葉に男は歓喜した。
猫になりたい。それも裕福な家庭の猫に。
願いは叶って、男は飼い猫になれた。
自由を手に入れた男は、数年ほど優雅に暮らした。
しかし、男は気づいてしまう。
猫というものは見かけこそ自由に見えるが、実際はそうではないことに。
好きなときに飯は食えないし、毎日同じものばかり食べなくてはならない。
最近は遊んでくれないし、触ってもらえるのも飼い主のきまぐれ。
たまのおやつが唯一の楽しみだが、そのおやつをねだってもくれないことも多い。
男は猫の自由が偽りの自由だということに気づいた。
毎日同じ事の繰り返し、これではまるで自由の奴隷だった。
働きづめで毎日辛い思いをしていた頃の方が自由だったと気づく。
男は切に願う。社会の奴隷だったあの頃に戻りたいと……