第1王女
「さて、次は第1王女か」
アルボルの知識では「エロい」しか出てこなかったが果たして……。
「ラズール、ラズールからして第1王女ってどんな人?」
「ルーミア様ですか……」
すぐに返答が帰ってくるかと思ったら、思ったよりも悩んでいるラズールに首を傾げる。
先程のアルボルの知識もあるし、そこまで答えにくい相手なのだろうか。
「そうですね……一言で言うと『優美』でしょうか。国の三大美女に数えられてますし、彼女に微笑まれば、性別関係なく胸が高まります。ただ……」
「ただ?」
「その、あの方は」
「あの方は?」
「えっと」
ラズールが言い淀んでいるので、立ち止まり返答を待っているとふわりと甘い香の香りがした。直後、後ろからするりと誰かの腕が伸びてきて、体に絡んだかと思うと耳を、
「性に奔放だと、ハッキリ言えば良いではないか」
笑いを含んだ綺麗な声が鼓膜を震わせた。
「ルーミア様!」
「久しいのう。そなたは、アルボル専属の……ラズールと言ったか」
「はっ、名前を覚えて頂き至極恐悦でございます」
「そなたは、とても可愛らしい声で啼いてくれそうだから少し気になっていたんじゃ」
「へ?」
ラズールはキョトンとしているが、俺は何となく察しがついた。
なるほど。自分で性に奔放だと言うだけある。
「俺の専属従者に手を出さないでください。姉上」
「なら、そなたが相手でもいいのじゃぞ。愛しい弟よ」
呆れながら後ろを向くと、妖艶に微笑む美女と目が合った。
腰まで伸びた艶やかな黒髪。宝石のように輝きながら、どこか影を感じる群青色の瞳。大きく開いたドレスは彼女の豊満な胸を惜しげも無く見せつけている。椿のように赤い唇とは対照的に新雪のように白くキメの細かい肌。
第1王子やアルボルの顔を見た時にも思ったが、この王族は美男美女揃いなのだろうか?
「記憶喪失になったらしいのう。なんと可哀想に。私が直々に慰めてやろう」
「慰めるのに、ベルトを外す必要はないかと思いますが」
「おぉ、すまぬ。つい、な」
ついでで弟のズボンを脱がそうとしないでくれ。
ため息を吐きそうになるのを何とか飲み込み、未だ俺の体に巻きついている腕を軽く叩く。
「立ち話もなんですので、どこか座ってお話をしませんか?」
「それは名案だ。そうじゃのう……庭園の薔薇が今見頃じゃ。そこでお茶にしよう」
俺から離れて前を歩く第1王女の背を追う。
背後に立っていたせいか、きちんと彼女の姿を見るのはこれが初めてだが。随分と露出が多く、体のラインがはっきりと分かるドレスを着ている。
知識にある婚約者の服装からして、彼女が今着ているドレスはどちらかと言うとはしたない部類に入りそうなのだが、見事に着こなしているせいか違和感をあまり覚えない。
これは見事と言うべきなのだろう。
暫く彼女の後を追っていると、開けた場所に出た。
鼻腔を華やかな薔薇の香りが擽り、香りに見合う大輪の花が顔を覗かせる。
赤、白、黄、ピンク……どれも素晴らしく生き生きと花弁を開いている。薔薇は何度か見た事があるが、ここまで立派なのは初めて見た。
「素晴らしいですね……」
「ほう、今のお前はそう思うか」
「というと」
「以前のお前は、薔薇の香りが嫌いだったらしくてのう。ここに連れてくると、嫌悪感丸出しの顔をしたものじゃ。それはそれは可愛かったから同じ反応が見れず、少し残念だと思っただけだ」
「……」
思わず半目で第1王女を見てしまった。
彼女は人の嫌がることを可愛いという人種なのだろうか。
第1王子と違って人当たりが良い方かと思っていたが、警戒は怠らない方がいいかもしれない。さっきのベルトを外そうとした行動もそうだが、今も虎視眈々と機会を疑ってる目が俺に向けられている。
目が覚めたら、全裸の彼女と一緒に裸でベットの上にいた。なんて事になったら、色々と面倒だ。
ラズールが引いてくれた椅子に座ると、テーブルには茶器やお菓子があっという間に並んでいく。
さすが、王族に務めている従者の方々だなと準備されていく食器を見ていると、急に視界が狭くなる。
第1王女が俺の膝に座ったせいで前が見えづらくなった、というのが正確だが。