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第1王子②


急に聞こえた声に顔を上げると、第1王子が俺を見つめていた。初めて合った視線に少し驚いたが、早く言えと目線で訴えられたので、言葉を続ける。


「この提案では、スラム街で医療費を城下町の医療機関と同じ金額にすると記載がありますが、間違えないですか?」

「技術を受けるのに、金がかかるのは当たり前だからな」

「仰る通りです。しかし、彼らが何故スラム街にいるのか……様々な理由はあると思いますが第一に上げられるのは、金銭問題です。城下町に住居を構えるお金がないから、治安や不衛生に目をつぶってスラム街にいるのでしょう。受けるべき人間に対して、金がないなら治療を受けさせないと門前払いしてしまっては本末転倒です」

「……なら、お前ならどうする」

「そうですね……。そもそも、スラム街の衛生状況が悪いのが問題視されているなら、環境の改善が必須になってきます。環境が荒れている原因はいくつかあるかと思いますが、金銭問題だとすると働きたくても働けない人達も大勢いる可能性が高いので……その者達を雇い環境改善をしつつスラム街の人達の生活水準を少しずつ上げていくのが良いかと。その中に医療施設設置も含めれば、一石二鳥になります」


言ってから気付く。

喋り過ぎたのでは、と。


そもそも記憶喪失という名目でここに来てるのに、こんなスラスラの意見を出してしまっては疑われるのではないか。

かと言って、言葉にしてしまったものは戻ってこない。


暫くの沈黙の後、第1王子は数枚の書類を手に取ると、俺の前に差し出してくる。


「これは……」

「スラム街に関する問題をあげた意見書だ。お前が担当しろ」

「え?」

「俺は他の業務で忙しいからな。記憶がないと言ったか? それも頭を動かせば、早く戻るかもしれない」

「……」


それは、体のいい押しつけなのでは?

そんな考えが過ったが、もしも城の中で元の世界に戻る手立てが見つからなかった場合、城の外に行く必要も出てくる。



王子となればそれなりの理由をつけないと外に出れないと思っていたが、案件のためスラム街を視察する名目なら、そこまで苦労せずに城下町へ降りられるようになるだろう。


それはこっちにとっても都合が良い。


「分かりました。やってみます」


書類を受け取ると、途端興味が失せたのか第1王子の視線は再び書類に固定されてしまった。


おそらくこのままいても、時間の無駄になる。


なら、他の兄弟から情報を聞き出した方が効率が良い。


「お仕事中失礼しました。挨拶も出来ましたので、俺はここで」


頭を下げ、部屋から出る直前、視線を後ろに投げたが……第1王子はこちらを見る様子は全くなかった。



「まさか、仕事を貰うなんてな」


呟きながら、手にある数枚の書類に目線を落とす。


民からも人気が高く、次期国王に1番近い人物と聞いていたから何かあった時、頼りにさせてもらおうかと思っていたが、あれでは難しいだろう。


出来れば、兄弟の中で1人でも頼れる相手がいると何かあった時に助かるが、1番期待していた第1王子があんな感じだと望みは薄いかもしれない。


王位継承がかかってるとはいえ、半分は血が繋がっているのだし、仲良くして損は無いと思うのだが……どうやらそういう訳にもいかないらしい。


王族とは大変な職業だ。


「アルボル様!」


さて、誰の元へ行こうかと思考を巡らせていると、慌ただしくラズールがこちらに向かってきているのが目に入った。


もう少しかかると思っていたのだが、さすが仕事ができるだけあって見つけるのも早い。


このまま逃げても良いのだが……ラズールと追いかけっこをしつつ、他の王子と王女に会うのはいささか面倒なので、待っていよう。


「はぁはぁ、お部屋に戻られたら……お姿がなかったので心臓が止まるかと思いました……」

「控えていたメイドに、言伝を頼んだと思ったんだけど」

「聞きましたけど! 驚くものは驚くのです!」


思ったよりも怒っているのか、息を切らしつつ頬を若干膨らましているラズールの視線が俺の握られている書類へと向かう。


「おや? その書類は……?」

「第1王子の部屋を尋ねたら、お前が担当しろと貰ったんだ」

「え!? クルム様がですか!?」


かなり驚いたのか、ラズールの目はまん丸になっていた。ただの押し付けかと思っていたが、彼の反応を見る限りそうではなかったみたいだ。


「クルム様が側近以外……しかもアルボル様に仕事を振られるなんて明日は槍でも降るのでしょうか?」

「そんなに珍しい事なのか?」

「珍しいもなにも! クルム様は疑い深い性格なせいか、自分の執務は側近か信頼のおける者にしか割り振らない方だったので……。失礼を承知で言わせていただくと、王権争いをしているアルボル様に、お仕事をお任せするなんて、ありえないとまで思っていました」

「それほどなのか……」


となってくると、裏があるのか。はたまた、別の意図があるのか……。

どちらにせよ、失敗は許されないということだ。


まだ、こちらの世界のことはよく分かっていないが、何とかするしかない。




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