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第1王子



今向かっているのは、第1王子の部屋だ。



アルボルには、自分も含めて5人の王子と王女がいる。

それだけなら兄弟が沢山いるで済むのだが……どうやら、母親が全員違うらしく、王位継承もまだされていないため誰が王になるかで派閥が出来ているらしい。

そのせいか、兄弟の名前はおろか顔すらもぼんやりしている。アルボル自身が覚えるのを拒絶しているのか、名前を聞いても直ぐに忘れてしまう嫌なおまけ付きだ。


念の為、アルボルの中にある知識も探ったが「ムカつく」や「いなくなればいい」みたいな愚痴のようなものしか出てこない。


派閥があるという程だから、兄弟仲は最悪だったのかもしれないが、せめて名前だけは覚えていて欲しかった。


そう思いつつも、最初に会うなら長男の第1王子だろうということで、今彼の執務室に足を運んでいる。


ラズール曰く、第1王子の母親は隣国の王族出身。王族の中では1番執務に携わっており、民からの人気も高いのだとか。


ちなみに、アルボルの知識では「何考えてるか分からない、気に食わない奴」らしい。


第1王子の執務室の前には警護の者がおり、俺の顔を見ると静かに扉を叩く。


「クルム様。アルボル様がお見えです」

「……通せ」


そうだ、第1王子の名前はクルムだった。

そう思うのだが、部屋に入った時にはもう名前がぼやけて思い出せない。


なにか変な呪いにでもかかっているのだろうか?


そんな少し馬鹿げたことを考えながら第1王子の前に立ち、頭を下げる。

その間も第1王子は、書類から目を離す気がないのか下を向いたままだ。


人を迎える態度としてどうなのかと思ったが、忙しいのだろうと言い聞かせながら口を開く。


「……兄上、お久しぶりです」

「……何の用だ」

「他の者から話は言っているかと思いますが、先日の落馬で記憶の一部が飛んでしまって。医者から身近な人に会えば記憶も戻りやすくなるかもと話を受けたので、最初は兄弟の元を訪れようと思って立ち寄った次第です」

「……」


それ以降、第1王子は口を閉ざし、書類に何か書き込みを始めてしまった。態度からして聞き流す気しかなかったのは明白だが、まさかここまであからさまな態度を取られるとは思ってもみなかった。



いくら王位を奪い合う相手同士とはいえ、下手したら死んでいたかもしれない弟に対して、ここまで無関心なものなのだろうか?

俺には到底理解できないものを感じつつ、改めて第1王子にを見る。


艶のある黒髪。男性にしては長いまつ毛。書類を見る瞳は濃い青色をしており、有名な人形師が作ったと言っても過言ではない程、整った顔立ち。華奢に見えるが着痩せしているのであろう体つき。



現在進行形の態度や目の色も相まって、氷の王子なんて呼ばれていても正直驚かない。


暫く書類に目を通している第1王子を眺めていたが、彼は先程の会話以上に話すことがないのか、全くこちらへ視線を寄越さない。



これは、話しかけても邪険にされるか無視されるかのどちらかだろう。


いくら無視されているとはいえ、来て直ぐに退出するのもどうだろうか?

いや、このままいる方が邪魔になるのでは。


少しの間、悶々と考えていたが、その思考は窓から入ってきた強めの風に遮られた。


カーテンを大きく揺らした風は、そのままの強さで第1王子の執務机にあった書類を数枚、床へと滑り落とす。軽い音と共に足元へ落ちてきた書類を拾い上げると「スラム街への医療施設の設置について」という記述が見えた。


この国の文字は日本生まれの俺にとっては、英語とタイ語を混ぜたような、よく分からない形の文字なのだが……アルボルの知識のお陰で読み書きは問題なく出来た。この時ほどアルボルの知識に感謝したことはないだろう。


ただ、ラズールが言うよりも頭は良くなかったのか、難しい単語になると読めなくなることが時々あるので正直小型の辞書が欲しい。


そんなことを思いながら、ざっと書類に目を通すとどうやら城下町の外れにスラム街があり、そこが感染症の温床になることが多いので、医療施設を設置し、城下町への広がりを止めるための防波堤にしようとしている法案らしい。


確かに、病気は不衛生な箇所から発生することが多い。スラム街なんて以ての外だろう。


「けど、医療施設を設置するだけじゃ意味がないのでは……?」

「どういう事だ」


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