大量出血
「エリアが大量出血を……!」
「早く医者を……!」
声が聞こえた時には、駆け出していた。
人をかき分け、部屋の奥へと進む。
徐々に聞こえてくる呻き声と悲鳴。何とか最前まで来た俺が目にしたのは。
足の間から大量出血した女性の姿だった。
目立つほど膨らんだお腹を見るに、彼女がエリアだろう。
妊娠後期は出血することもあると習ったが……この量はやばい。
俺はエリアに駆け寄ると、彼女に声を掛ける。
「お腹が張った感覚はある? 痛いとか」
「あなたは……」
「答えて」
「えぇ、なんかパンパンに張ってる気がするわ」
血の気が引く。恐らく切迫早産の可能性がある。
原因は分からない。だがもしも帝王切開をするしかないとなったら……。
この世界にそんな高度な技術が発達しているとは思えない。
けどこのまま放置していたら、母子共に命の危険がある。
「とにかく、医者は呼んだの?」
近くにいた娼婦に聞くと、困ったような表情を浮かべつつ口を開く。
「呼んだけど、スラムの外だからそれなりに時間がかかるわ」
「それじゃ、2人とも死んでしまう……!」
「仕方ないじゃない! そもそも薬や治療だってかなりお金がかかるのよ! エリアはサウスポーの愛人かもしれないけど……妊娠で客が取れない今はただの金食い虫よ!」
娼婦の声が響く。
集まってきた人の視線からしても、同じような事を思ってる人は少なからずいるようだ。
俺は詳しく娼婦事情を知らない。だから、彼女が言ってることも本当なのかもしれない。
けれど。
「それがなんの関係がある」
「え?」
「生まれてこようとしている赤ん坊に、なんの関係があるかって聞いてるんだ!」
思ったよりも大きな声が出て、目の前の娼婦は目を丸くしていた。
けど、言葉は止まらない。
「生まれも何も関係ない。産まれてくる赤ん坊もエリアも助けを求めてる命だ!」
資格さえ取れば安定した職業だから。
看護師を目指したきっかけは不純だった。
けど、毎日のように学び様々なものを見てきて感じたのだ。
苦しんでる人を助けられる仕事に、誇りを持ち始めていることに。
そう、俺は。
宮永広樹は。
「俺は誰かを殺すためじゃなくて、誰かを助けるために看護を勉強してたんだ!」
自分はまだ学生の身だ。
それに看護師は、医者よりも出来ることは少ない。
それでも。目の前で消えゆく命を助けられるなら。
なんとしてでも助けたい。
「ラズールいるか!」
「ここに」
「至急、湯と布を用意してくれ。医者が来るまで応急処置をする」
「ですがそれでも」
「やらないよりはマシだ」
なんとかエリアを安静な体勢にしながら、自身の服を脱ぐ。
ここに来るまでに少し汚れてしまっているが、他に比べればまだ清潔だ。
もしも胎盤が剥がれたのだったら、誰にも止められない。
それでも少しでも彼女の痛みや赤ん坊の生存率を上げる方法を考えなくては。
「くっ」
「頑張ってくれ……」
エリアの額に滲む汗を拭う。
未だに出血は続いている。
仮に医者が来てもこれでは助からないのでは。そんな考えが過ぎるが、頭を振って消し去る。
出来るだけの事をするんだ。それが2人の命を繋ぐ可能性になるかもしれないから。
娼婦も動いてくれて数十分後。
出来る限りの事を試したが、エリアの顔色は悪くなる一方だ。
「アルボル様、もう……」
「っ……」
諦めるしかないのか……。そう思った直後。
「私にも手伝わせてください!」




