スラム街へ
城から馬車で1時間ほど離れた所にその場所はあった。
ホコリや瓦礫にまみれた街並み。
所々崩れている家屋。
鼻につく嫌な香り。
値踏みする嫌な視線。
何日も体を洗っていないのか、垢だらけの人。
家がないのか、そのまま地面に横たわっている人もいた。
ドキュメント番組とかでこういうスラム街の映像は見たことがあったが、やはり実際見るのとでは情報量も体感も違う。
けど、遠い場所に馬車を止めて古い服を着てきた甲斐があった。ここでいつも通りの服装をしていたら、それこそ格好の餌食になってしまって情報を得るどころか体をバラされていたかもしれない。
「アルボル様、診療所に使おうと言っている土地はこちらです」
ラズールに連れられ、場所を移動する。
進めば進むほど、ガラの悪い人が増えているような気がするのはおそらく気のせいではない。
そのまま歩いていくと、大きな建物が見えてきた。
見た目からして、教会を連想させるが、この世界にもこういうものがあったとは。
「これは、精霊の王を信仰する教会ですね」
「精霊の王?」
「自然だけではなく、全ての事象を操ることができ、精霊のはじまりとされている存在です。ただ、全てが不明となっており本当にいるかどうかも怪しいとされています。スラムとはいえ、まさかこんな所に精霊信仰の教会があるとは」
「今は娼館になってるみたいだけどね」
ちらりと教会の出口に目をやれば、いかにもという男達を見送る女性の姿が見えた。
教会となれば、作りはしっかりしているだろうし、防音もされている。
信仰対象への冒涜もいい所だが、こんな立派な建物を使わない手はないのだろう。
「調べによると、あの娼館にこの辺りを統べるボスが通いつめているそうで、通いやすくするために根城もこの辺りに移したそうです」
「それはかなり厄介だね……」
気に入ってる女がいるのか、それとも別の理由なのか。ともかく、なんで施設を作るのが難航したのかは分かった。
だとしても、これだと現状が分かっただけで、打開策の糸口が掴めてない。
強制的にやろうと思えば出来なくもないが、今後のことを考えると、穏便にことを進めたいし。
となると。
「ラズール」
「はい」
「お金もってる?」
「はい?」
素っ頓狂な声を上げるラズールに、俺は普段と変わらないトーンで言った。
「今から娼館に行って、ボスのお気に入りっていう人に会おう」




