似たもの同士
そんなことを考えていると、コンコンとドアを控えめにノックする音が聞こえた。
この叩き方をするのは、彼女しかいない。
「セルシアでしょ。入っていいよ」
「! はい、入ります」
そっと扉が開いて、ひょこりと小さい頭が姿を現す。
「お兄様、今お時間よろしいでしょうか……?」
「大丈夫だよ」
そう言うと、セルシアは嬉しそうに部屋へと足を踏み入れる。
小さな子犬のようで、なんとも微笑ましい。
「その、お兄様。今日はこちらをお持ちしました」
セルシアは俺の机まで来ると、ソッと花を差し出した。あれ以降、セルシアは毎日俺の部屋に自分が育てた花を持ってきてくれるようになった。
おかげで、机の上はいつも華やかさがある。
ありがたいと思うと同時に、彼女の腕にある青アザを見るとやるせない気持ちになる。
昨日はなかった所をみると、今日ここに来るまでに暴力を振るわれたのだろう。
その青アザは痛くないのか?
そう聞こうとして、言葉を飲み込んだ。
セルシアは度重なる暴力のせいで痛覚が人よりも鈍いらしく、軽い青あざ程度では痛みに気づかない。けれど、それを指摘されると体が自覚してしまうのか、それまで感じていなかった痛みを感じるようになってしまうのだとか。
なら、気付かないままの方が良いとの判断から、俺は彼女の傷を指摘するのを極力控えるようにしている。
言った時のセルシアの申し訳なさそうな表情を見るのも嫌だしな。
だから、寝静まった後に、こっそり傷の手当をしている。それなら、痛みを再発することも夜にセルシアを襲おうとする最低な奴も捕まえることが出来るし。
そのせいで、少し寝不足気味なのは内緒だ。
「どのようなお仕事をされているのですか?」
「スラム街に医療施設を作りたいんだけど、いくつか難点があってね。それを解決するためにスラム街に行こうとしたら、ラズールに止められたところ」
「当たり前ですよ!」
「なら、代わりに私が行けば良いのではないですか?」
「「はい?」」
セルシアの言葉に、思わずラズールと共に彼女を見てしまった。当の本人はキラキラと目を輝かせている。
こういう表情を俺は何度か見たことがある。
これは、相手の役に立てると意気込んでいる人がする目だ。
「お兄様の命令なら、どんな事でもやりますし、私の格好ならスラムに行っても違和感はありません。適任だと思うのですが」
「確かにそうかもしれないけど、ダメ。絶対ダメ。俺が心配で仕事に身が入らない」
言ってたから気付く。俺のこの気持ち、ラズールが感じたものと同じなのでは?
恐る恐るラズールを見ると、満面の笑顔だった。
それがかえって怖い。
「お2人ともさすが兄妹ですね」
「えっと……ごめん」
思わず出た言葉に、ラズールはふんっと鼻を鳴らす。
セルシアがスラム街に行くのはおいといて、どちらにせよスラム街の情勢をきちんと自分の目で確かめたいのは事実。
「分かった。ラズールも一緒にスラム街に来て。それなら良いでしょ?」
「……いても数時間ですよ」
「分かってる」
数日後、俺とラズールはスラム街に行くことになったのだった。




