課題
第一王子と第一王女。
そして、セルシアと会ってから数週間が経った。
今俺は、3つの課題に追われている。
1つ目が元の世界に帰る方法の模索。
この世界のことを調べていくうちに、魔法と魔術には決定的な違いがあることが分かった。
まず魔法は、精霊の加護を受け、自然の力を自在に使うことが出来るが、精霊に愛された者しか使うことが出来ず、ほとんどの者が使えないらしい。
対して魔術は、魔法陣や呪文を媒介に、裏世界にあたる魔界から魔石や魔獣等を召喚し、契約を持って使うことが出来る力だ。これは、鍛錬を積めば色々なものを召喚できるようになるが高度になればなるほどセンスが問われる代物だという。
どちらかというと魔法は絵空事に近いらしく、ジニュエーブルでは畏怖と尊敬を向けられている。
もしも、魔法か魔術で時空を操るものがあるのなら、なにか聞けるかと思って調べたが。
そもそも魔術は、神との誓約を元に作られた魔界との間にある道を使うためのパスポートのようなものらしく、他の世界に行くということは出来ないらしい。
それなら魔法はと思うが、さっきも言った通りこの国では絵本の中の登場人物に近い扱いなので精霊に会うこと自体、困難な気がしてならない。
だが、実際セルシアの親がいた地域では精霊が信仰されていた。
呪われた地としてあまり近付く人がいないらしいが、なにかの手掛かりがあるかもしれないと考えると一度行ってみたほうかいいだろう。
2つ目は、第一王子から渡されたスラム街の衛生改革。
第一王子があの時、渡してきた資料によると改革には何個か懸念点があるみたいだ。
その中でも1番難点なのが、医療施設にしようとしている土地がスラムでも悪名高い集団の根城となっていること。
何度か交渉したものの、立ち退き料としてあまりにも高額な金額を請求されたため、頓挫しているらしい。
これは、1度視察に行くべきだろう。
3つ目は、セルシアの平穏な生活の確保。
セルシアと会ってから翌日に、彼女をいじめる事を禁止としたルールを出そうとしたのだが、何故か部屋の移動と共に王から却下されてしまったのだ。
抗議に行ったが、却下理由を聞くどころか体調不良を盾に面会拒絶。
結果、俺の行動は「記憶を失った第二王子による妄言」で片されてしまった。お陰で未だに彼女への対応は変わっていない。
セルシアに謝ると、自分はそういう役割だから気にしないでと言われたが、いじめが許容されていいはずがない。
だが、状況が状況なので、今俺が出来ることは彼女に危害が加わらないよう目を光らせる事でしかできない。なんとも歯がゆい現状だ。
セルシアには、なるだけ俺の近くにいるように言ってあるが、彼女のプライベートな時間を奪ってしまっているみたいで少し心苦しく思っている。
こちらもどうにか出来る方法を早めに考えなくては。
「課題が山積みだな……」
ため息を吐きつつ、書類を見ていると目の前に紅茶の入ったカップがそっと置かれる。鼻腔をくすぐる優しい香りに顔を上げると、ラズールが心配そうな面立ちで俺の事を見ていた。
「アルボル様。あまり根を詰めるのは宜しくないかと。1度休憩されては?」
「ありがとう、ラズール」
礼を言いつつ、紅茶に口をつけると仄かな苦味と豊かな香りが口いっぱいに広がる。
やはり、彼の紅茶はほっとする。
ラズールは、俺が見ていた資料を一瞥すると口を開く。
「こちらは、例のスラムの件ですか?」
「うん。やはり、集団にどいてもらうには直接スラム街に行って真意を確かめないと」
「アルボル様自らスラムに!?」
「そのまま数日いるつもり」
「数日スラムに!?!?」
目を白黒させてるラズールに頷くと、今度は額に手を当ててしまった。
「アルボル様。いくら記憶の大半がないとはいえ、ご自分がこの国の第二王子であることを自覚してくださいませ!」
「とは言っても、実際スラムに行って自ら体験しないと得られない情報もあるだろ」
「それなら、私が!」
「ありがたい申し出だけど、ラズールには別のことをして欲しい」
「別のことですか?」
首を傾げるラズールに、資料を数枚渡す。
目を通した彼は目を丸くしたあと、俺を見つめてくる。
「これは……」
「それが本当なら、一大事だと思うから裏をとって欲しい」
「かしこまりました。ですが、アルボル様のスラム行きを了承した訳ではありませんよ!」
「……」
「そんな不服そうな顔してもダメです! 聖母のように慈愛満ち満ちたアルボル様があんなおぞましいところに行ったら、身も心も汚されてしまいます!」
「大袈裟な……」
「本当のことです」
即答でされてしまい、思わず黙ってしまう。
最初の関門はどうやら、ラズールだったみたいだ。
さて、どう説得するべきか。




