セルシア王女④
「私は、正直……中身が違うと言ってもアルボル様のことが怖い、です」
「……」
「けど、私を対等な人間として見てくれる。そう言ってくれた人は初めてで……。私は貴方の手を取りたい」
「セルシア……」
「信じて、いいですか?」
信じる。それは使い勝手のいい期待の言葉。
勝手に「この人ならここまでやってくれる」と決めつけ、それを越えてくれると押し付けるがためのものだ。
けど、セルシアにとって信じることは。
きっと、希望みたいなものなのだろう。
彼女の思いを握り潰すか、守れるかは言い出した俺にかかってくる。
それは提案した時点で、覚悟をしている事だ。
「信じてよかったと思って貰えるよう、最善を尽くすよ」
そう言うと、会ってからずっと不安げだったセルシアの表情が。
初めて笑顔になった。
大輪のバラではなく、野原に咲く1輪の花のような笑み。
可憐なのにどこか儚さを感じる笑みに、何故か心臓が跳ね、胸が締め付けられた。
不思議な感覚に、思わず胸に手を当てたがそれ以上の変化はない。
気のせいだったのだろうか?
「アルボル様……?」
「あ、いや。ちょっとボーとしてた。それじゃ早速だけど、俺の事は様付けしなくていいよ。中身はどこにでもいる一般市民だから、身分で言えばセルシアよりも低いし。そうなると、俺が敬語を使った方がいいのかな」
「敬語!? た、確かに貴方様は王族ではないのかもしれませんが、体はアルボル様ですし、敬語は恐れ多いです!」
「それなら、今のままでいいかな?」
「はい。是非そうさせて下さい。それと呼び名ですが。広樹様とお呼びするわけにはいかないので……お兄様とお呼びさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
お兄様。
俺には弟や妹はいないから、少しこそばゆい気もするが、確かに変に呼び名を変えるよりもしっくりくる気がする。
「分かった。あとさっき話した内容は誰にも言わないで欲しい。言うべき人には時が来たら、俺の方から言うから」
「分かりました」
これでひとまずは安心だろう。
話しただけなのに、どっと疲れてしまった。
いつの間にか入っていた肩の力を抜きつつ、視線を薔薇へと向ける。
昨日は色々あってきちんと見ることが出来なかったが、どの花も見事に咲いている。
王城に咲く花というのもあるのだろうが、かなり大切に育てられているのは一目瞭然だった。
「綺麗だな」
「え?」
「昨日も見たんだけど、とても素敵だなって。特にこの辺りの薔薇は他に比べて綺麗に見える」
1輪くらいなら摘んでも問題ないだろうか?
そんな事を考えながら視線を戻すと、困惑したセルシアと目が合った。
「セルシア?」
「あの、その……実はこの辺りの薔薇は私が育ててます」
「そうだったのか」
だから昨日、セルシアはこの辺りにいたのか。
言われてみれば、彼女の手は土に汚れていた気がするし、アルボルがこの花を忌み嫌っていたのもわかる気がする。
俺は席を立つと、手短な薔薇にそっと触れる。
近付いてみて分かったが、どの花もきちんと刺抜きがされている。
きっと、セルシアが1輪1輪丁寧にやったのだろう。
他の人の手が傷つかないように。
なんて、優しい子なのだろうか。
「セルシア、この薔薇1輪貰っても大丈夫かな? 部屋に飾りたいんだ」
「は、はい! 今すぐ!」
転がるように椅子から降りようとしたセルシアに苦笑しつつ、立ち上がりセルシアに手を伸ばす。
「出来れば、セルシアがどんな風にこの薔薇を育てたか教えて欲しいな」
「え?」
「俺にはこんな素敵な花は育てることは出来ないけど。興味があるから……ダメかな?」
「いえ! 私でよければいくらでも!」
そう言ったセルシアは少し慌てていたが……今まで見た中でいちばん嬉しそうな笑みを浮かべていた。




