秋が亡くなる
(公衆電話の音が鳴る)
あ、今どこ…
あぁ、出ないか
どうしよう
えっと、あっ、もしもし、私です。
時間があったら聞いてください。
いや、やっぱり、聞かなくても大丈夫です。
少し長くなると思うので。
このメッセージは単なる、
自白というか、
告発というか、
告白というか、
私が忘れないための備忘録のようなものなので。
食欲の秋と言いますが
すみません、暴食により秋すらも食べてしまいました。
本当に申し訳なく思っています。
数年前は秋ってすぐ終わってしまうなという感覚でしたが
だんだん短くなり、今となっては見る影もありませんね。
気づいてはいたんですが、私は悪びれもせず、
息をして、二酸化炭素を出し続けてしまいました。
そして、温暖化が進み、異常気象が多発。
紅葉がなくなり、穀物が枯れました。
焼き芋も栗もしばらく食べてません。
そんな味気ない生活から逃げ出したくなる気持ちも分かります。
でも、あなたがこのまま戻ってこなかったら
私の生活は銀杏のように苦く
香りのしない松茸を食べることになるでしょう。
やはり、秋を食べてしまったことを怒っているのでしょうか?
息をし続けてしまった、生き続けてしまった私を…
(公衆電話にお金を入れる)
芸術の秋と言いますが
秋もすっかり感じるものではなく買うものになりました。
私のような一般庶民には手が届かない。
あなたも知ってのとおり私はこの秋を売買する仕事です。
小さな秋が入った水槽をお金持ちに買ってもらう、
不安定だが、ある程度、儲かる。
私はずっと秋が嫌いなのでちょうど良かったです。
だって、悲しく空虚、世の中はくすみ鬱っぽい。
中途半端で、極端な空気の温度
飽き飽きだ。
しかし、興味がないからこそ執着せず売ることができる。
むしろ、どんな人が秋なんて買うのかと見ることができる。
飽き性な私でも飽きないのがこの商いです。
つい最近も紅葉狩りの秋が一つ売れたところでした。
(公衆電話にお金を入れる)
読書の秋と言いますが
人生はまさに小説のよう。
私はずっとあなたが好き。
だから、あの日、あなたがバイト先に現れた時はびっくりした。
光るネオンがおしゃれなホテルで顔は見えなかったけど、
服装や声で分かった。
知らない人と一緒に歩いて行った姿が忘れられない。
紅葉模様のその人はあなたの手を握った。
この物語の展開は予想してなかった。
それでも私はあなたが好きだった。
だから、今もあの時も一日千秋の思いであなたを待ってる。
(公衆電話にお金を入れる)
スポーツの秋と言いますが
急に走って出ていくんだから携帯も置いてきちゃった。
今日は贅沢に、あの秋のものをふんだんに使った鍋だから
早く帰ってきて。
あなたは、その秋が好きでしょ?
私も秋を食べたんだから気に入るはず。
女心と秋の空とかなんとか
早く戻らないと秋、なくなっちゃうよ。