第23話【吹雪に煌めく赤刃】
前回、 清火はゼヴァの協力で二体目の魔物、 剣の翼を持つ天使を倒した。
ゼヴァは清火とは反対方向にいる魔物の足止めに向かい、 清火は次なる魔物がいるとされる北海道へ向かった。
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北海道のとある森にて……
清火は吹雪の中、 魔物の気配を感じる方へと向かう。
……ここら辺に魔物の気配がする……それに何だか……
血生臭い……
清火は辺りの雰囲気に不気味さを感じる。
ふと側にあった気を見てみると……
「何……この血痕……飛び散ってる……」
大量の血がへばり付いていた。
それはまるで凄まじい惨劇が起きたかのように……
そして清火は木の周囲を探知すると……
「……! 人の気配……大分弱ってる……」
瀕死状態の人間の気配を感じ、 そこへ向かうと
「ッ! ? 何……これ……」
開けた空間に大量の死体が転がっていた。
その光景に清火が戦慄していると足首を何かが掴んできた。
それは血だらけになっている攻略者だった。
「だ……だずげ……で……ゴブッ……! 」
さっきの気配はこの人か……
清火は急いで瀕死の攻略者に治癒魔法を掛け、 回復させた。
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「はぁ……はぁ……助かった……ありがとうございます……あなたは……」
落ち着きを取り戻した攻略者は清火に礼を言う。
「一体何があったんですか……この死体は……」
清火は状況を聞くと攻略者は震え出す。
「……分からないんだ……いきなり……皆……首を斬られて……赤い光が見えたんだ……凄まじく速い……」
「赤い光? 」
「吹雪で姿が見えなかったが……うっすらと影が見えた……それから……あぁ思い出したくない……! 」
それ以降攻略者はパニックになって話にならなくなってしまった。
……赤い光……そしていきなり首を斬られた……まさかそれが魔物か……
清火は考え込んでいると……
「……あ……あぁ……」
攻略者は震えながら暗い茂みの方を指差す。
清火はその方向を見ると
『王……私の……王は……どこ……』
少女のような黒い影が清火達の前に現れた。
その手には赤く煌めく短剣が握られていた。
赤い短剣……赤い光の正体はあれか……という事は……
清火は変身して大鎌を出し、 戦闘態勢に入る。
「ここは私に……あなたは逃げて下さい……もし他に攻略者がいるなら逃げるよう指示を出して下さい……」
清火は攻略者に背を向けながらそう言うと攻略者は慌ててその場から離れた。
するとそれに反応するように少女の影は目にも留まらぬ速さで攻略者に襲い掛かろうとした。
清火は空かさず立ちふさがり、 大鎌で防御する。
「早く! 」
「は……はい……! 」
清火は攻略者を逃がすと大鎌で少女の影を弾き飛ばす。
……今の攻撃……狙う方を予知してたから防げたけど……明らかに私の動体視力を超えてた……あの天使より……速い!
清火は少女の影の速さに戦慄しながらも構える。
『……あなた……誰……? 』
「まずアンタが名乗れば? 」
清火は少女の影を挑発する。
すると
『ワタシ……ダレ……ワタシ……ワタシ……ワタシ……』
少女の影から分離するようにもう一つの影が現れた。
その影はもう一つの物とは雰囲気が異なり、 言葉が片言で何人もの人間が重なったような不気味な声をしていた。
「はぁ……二体もいるって……これはかなり面倒ね……」
『ハハッ……メンドウ……メンドウ……! 』
「真似すんな! ! 」
そう言うと同時に清火は目にも留まらぬ速さで影に斬りかかった。
しかし二人の少女の影はすり抜けるように清火の横を走り抜け、 茂みの中へと姿を眩ました。
はっや! ……ってかあっちは……ヤバい!
清火はその方向が先程の攻略者が逃げて行った方向だと気付くと急いで後を追った。
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清火は森の木々を伝いながら少女の影が向かった方角へ向かう。
すると……
『ヒュンッ! 』
「ッ! 」
突然清火の顔面に目掛けて赤い短剣が飛んできた。
清火は空かさず黒月で短剣を撃ち落とす。
失敗した……わざとあの攻略者が逃げた方から入って私を誘い込んだのか……この障害物だらけの場所なら有利だから当然の行動か……
すると撃ち落とされた短剣を空中で影が横切るように回収していくのが見えた。
……武器はあれ一本しかないのか……ならまだ何とかなるかもしれない……
そう思い清火は大鎌を構える。
……気配を感じられない……短剣を持っているだけあって……まるでファンタジーに出てくるアサシンね……
清火は周囲を見渡す。
すると……
『ヒュン……ヒュッ……』
「……」
辺りからチラホラと赤い光が見え隠れする。
錯乱目的か……色んな方向から赤い光が見える……なるほど、 攻略者達が一瞬でやられたのが納得いく……
『ケヒヒヒヒヒッ! ! ! 』
不気味な笑い声が辺りに響き渡る。
次の瞬間、 短剣を持った少女の影が清火に目掛けて襲い掛かってきた。
音による探知の妨害か……でもそれも読み通り!
すると清火は大鎌を少女の影に向かって振り上げる。
しかし……
『……』
少女の影は空中で体をひねり、 大鎌の刃の側面を滑るようにして避けた。
嘘! ? 速過ぎる!
驚愕する清火を余所に少女の影は追撃を繰り出す。
清火は間一髪で攻撃を避けるも、 頬に浅い切り傷を負ってしまう。
「ッ……この痛み……毒? 」
清火は傷口から焼けるような痛みを感じる。
……この毒……麻痺だけじゃなく……出血が止まらなくなる効果を持っているのか……あの辺りが異様に血だらけだったのはこの効果のせいだったのか……でも私には……効かない……!
清火は傷を治癒し、 毒を無効化した。
少女の影は再び暗い森の中へ姿を眩ます。
……これはあの天使とはまた違う厄介さを持っているわね……速い上に狡猾……それにあの身のこなし……暗殺に特化した能力が凄まじく長けている……これは早めに決着を付けないと追い詰められる……
危機感を感じた清火は一旦地上に降り立つ。
そして黒月を構える。
「……」
清火は構えた体制のまま感覚を研ぎ澄ませ、 目を瞑った。
次の瞬間
『ケヒヒヒヒヒヒッ! ! ! 』
あの不気味な笑い声と共に風が吹き、 清火の真正面から少女の影が襲い掛かってきた。
それと同時に清火は黒月の銃口を地面に向け、 引き金を引く。
すると地面にヒビが入り、 大爆発が起きた。
清火は少女の影と共に森の上空に舞い上がり、 開けた空中に出た。
まずは不利な地形から抜け出す……そして……!
空かさず清火は持っていた大鎌を少女の影の方へ投げる。
少女の影は短剣で大鎌を止める。
「ッ! 」
それを見計らった清火は空中を蹴るように少女の影の目の前に瞬間移動し、 黒月の銃口を少女の影の頭部分に向ける。
そして引き金を引いた。
しかし、 少女の影は発砲と同時に短剣を手放し、 またしても空中で身をひねり、 回避した。
やっぱり速い! 動きが読めない……
すると少女の影は清火が次の行動に出るよりもずっと速い動きで手放した短剣を脚で蹴る。
短剣が飛んで行った方向には不気味な声を持つもう一人の影の姿があり、 短剣をキャッチし、 清火の背後から襲い掛かる。
まさか……! いつの間に後ろに!
『ケヒヒヒヒヒッ! ! ! シネ! シネ! 』
清火は動けず、 そのまま攻撃を受けてしまう。
影は清火の背中を幾度も刺す。
空中で清火の血が飛び散る。
終わったかと思われた次の瞬間
『ヒャヒャヒャヒャヒャッ! ! ……ア……? 』
清火の背中を刺した少女の影の背中からどす黒い血が飛び散る。
そう、 それは清火の背中を刺した時のように。
「あまり過信しない事だ……私にした事はアンタにそのまま帰ってくる事も予測するべきだったね……」
そう言うと清火は大鎌を手元に戻し、 動きが鈍った少女の影に目掛けて振り上げた。
少女の影の首は一瞬にして宙を舞い、 消滅してしまった。
すると消えた少女の影は黒い塊となり、 もう片方の少女の影の中へ入っていった。
次の瞬間
『ぎゃあぁぁぁぁ! ! ! 』
少女の影は蹲り、 発狂しだした。
『王……私の王……一体……どこへ……私を……ワタシヲ……ミテ……! 』
次の瞬間、 少女の影は清火の目にも留まらぬ速さで空中を移動し、 襲い掛かってきた。
清火は防御が遅れ、 胸を斬られてしまう。
さっきよりも速い……くそ……毒が……
一瞬毒の効果を受けてしまった清火は体制を崩し、 そのまま地面へ落下してしまった。
地面に叩きつけられた清火はその場で倒れる。
拍子に辺りに血が飛び散り、 雪に覆われて真っ白になっていた地面が所々赤く染まる。
くっ……ヤバい……何なのあの速さ……私の動きを大きく上回っていた。
清火は傷を治癒しながら立ち上がる。
「クッソ! 完全に見失った! 」
清火は少女の影の気配を見失い、 焦りを見せる。
すると……
『……ヒュッ……ヒュン……』
風を切る不気味な音が辺りに響く。
同時に赤い光が清火の視界を横切る。
次の瞬間、 清火の体に斬り傷が入る。
なっ……何も見えなかったのに……傷が……!
何も見えなかった清火は悪寒が背筋を登る感覚を覚える。
「これがアイツの本気か……ッ! 」
考える合間にも清火の体に次々と傷が入っていく。
……まずいな……この程度の傷と毒は問題ないけど……このまま隙を見せれば一気に首を刈られるのが本能で分かる……
「失敗だ……まさか一気にここまで追い込まれるなんて……」
そう呟き、 成す術が無い清火。
その時、 清火の中であの青年の声が響く。
『面倒くせぇ事があった時は……辺り一帯を消し飛ばす勢いで叫んでみなぁ……』
……叫ぶ……
次の瞬間、 清火の中から再びあの凄まじい力が湧き上がってくるのを感じる。
すると清火は何を思ったか、 息を深く吸い始める。
そして……
「……ワ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛! ! ! ! ! ! ! 」
形容し難い凄まじい雄叫びを上げた。
すると辺りの木々が次々と割れ、 大地がめくれ上がり、 積もっていた雪が舞い上がる。
それと同時に少女の影が姿を現し、 耳を塞いで蹲った。
ッ! 姿を現した! やるなら今しかない! !
勝機を感じた清火は凄まじい速度で少女の影も前に瞬間移動し、 大鎌を振り下ろした。
大鎌の刃は少女の影を背中から貫き、 そのまま地面に突き刺さった。
その瞬間、 勢い余って辺りに衝撃波が発生し、 吹雪をかき消した。
「……はぁ……はぁ……」
静寂に包まれる中、 清火は大鎌に固定された少女の影を見つめる。
少女の影は潰されたカエルのように蠢く……
その眼の部分からは涙が零れ落ちていた。
『……王……私の……王……私を……忘れないで……』
「……」
胸糞悪い……何だっての……この人達を置き去りにした王は……一体……
清火は少女の影の目の前でしゃがみ込み、 零れる涙を拭ってやった……
「……悪いけど……アンタの言う王は誰で……どこにいるのか……私には分からない……でも少なからず……」
「アンタはもう……死んでいるの……」
清火は険しい顔つきで少女の影にそう諭す。
すると少女の影は顔を上げ、 清火の方を見る。
『……あぁ……あなたは……王の……』
そう言うと少女の影は最後の力を振り絞るように手を差し伸べ、 清火の顔に手を添えた。
清火はその手を優しく握る。
「……安心して眠りなさい……私がアンタを苦しめた奴を確実に殺してやるから……」
『……ありがとう……死の……英雄……私を……殺してくれて……』
その言葉を最後に少女の影は灰のように散り、 消滅してしまった。
それと同時に空から雪が静かに降り始めた。
……クソったれの王が……この戦いが終ったら……見つけ出して一発ぶん殴ってやる……!
清火は無性に苛立ちを覚え、 地面に刺さった大鎌を手に取り、 その場から立ち去った。
…………
その後、 清火は逃げた攻略者と森の外で合流した。
「あぁ、 良かった! 無事だったか! 」
「あの影は片付けておきました……生存者の捜索は任せます」
その報告を聞いた攻略者は驚愕する。
「あ……あなた一人で! ? まさか……貴女は……」
「お察しの通りです……私は攻略者モルス……今は日本各地方に現れた魔物の殲滅に当たっています……」
「そ……そうでしたか……噂には聞いてましたが……まさかあの化け物を倒すなんて……」
「……それよりも……次の魔物の所へ向かいたいのですが……何か知っていませんか? 居場所とか……」
「あぁ……それでしたら……」
そして攻略者は次の魔物の出現場所の詳細を清火に教えた。
……なるほど……その場所だと中部地方か……結構遠いな……
そう思いつつも清火はドラゴンゾンビを呼び出し、 背中に乗り込む。
「教えて頂きありがとうございます……私は急いでいるのでここで失礼します……」
「あ……はい……色々とありがとうございました……」
そして清火はその場から退散した。
「……あれが攻略者モルス……殲滅の死神とはよく言ったものだ……」
飛び去るドラゴンゾンビの影を見ながらその場に残された攻略者はそう呟いた。
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その頃……
中部地方のとある街にて……
辺りは黒い炎が燃え盛り、 その中に黒い騎士の影が見える……
肩に担ぐその剣も黒く、 不気味な光を放っている……
『我が剣……一体……誰に捧げれば……』
目をボロボロの包帯で隠すその騎士は……誰とも分からぬ王を探し続ける……
続く……