第21話【嘆き続ける古】
前回、 謎の魔物達が突如として日本各地に出現し、 大混乱に陥った攻略者協会。
そこに清火は時間稼ぎをしようと魂達に各地の魔物の元へと向かわせ、 まずは渋谷に現れた巨大ロボットと戦う事にした。
『グオォォォォォン……! ! 』
ムカデのようなロボットはその体をうねらせながら清火に突進する。
清火はドラゴンゾンビに乗ってロボットの突進を回避しながら黒月を使い周囲を跳ぶドローンを撃ち落とす。
たまに清火は黒月でロボットの胴体に攻撃をするもビクともしない。
……動きはそこまで速くは無いか……だけど凄く頑丈な装甲……黒月じゃ歯が立たない……やっぱり切り裂いて中に入るしか……
殆どの魂達を各地に向かわせていた清火はドローンの対処をするので手一杯だった。
内部へ侵入するしか方法が無いと悟った清火は大鎌で外部装甲を裂いて入り口を作る事にした。
「ドラゴンゾンビ……出来るだけドローンの注意を引いて……」
『……』
ドラゴンゾンビに指示を出し、 清火は地上へ降り立った。
そして周囲を跳ぶドローンを粗方片付け、 大鎌を構えると
『グオォォォォォン! ! 』
ロボットは反応するように唸り、 コンクリートの地面を破壊しながら猛スピードで清火の方へ突進してきた。
改めて見ると凄い大きさ……顔面だけでも10階建ての建物くらいはある……!
迫り来るロボットの大きさに圧倒されながらも清火は構える。
「……やれるかどうかわからないけど……一か八か……時間は無い……! 」
次の瞬間、 清火は闘牛士のようにロボットの突進をかわし、 大鎌の刃をロボットの装甲に突き刺した。
清火の足は地面にめり込み、 鈍い金属音を立てながらロボットの動きが止まる。
ッ! ! ! 凄いパワー……腕が……持っていかれそう!
「ぬぅぅぅ……! ! ! 」
前へ進もうとするロボットのパワーに清火が力負けしそうになったその時……
おい……そんな鉄屑に負ける程……軟弱な力は与えてないぜ……?
謎の青年のような声が清火の中で響く。
次の瞬間、 清火の中から凄まじい力が溢れ出た。
体中に凄まじい覇気を纏い、 髪が逆立つ。
この溢れ出る力……何もかも壊したくなる……!
気付くと右目から黒い炎が噴き出しており、 その口は怪物のようになっていた。
「オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛! ! ! 」
凄まじい雄叫びと共に清火はロボットが進もうとする方向と逆に進み始める。
すると大鎌は徐々にロボットの装甲を切り裂き、 大きな裂け目を作った。
「はぁ……はぁ……ッ! 」
我に返った清火は空かさずその裂け目へ飛び込み、 内部へ侵入した。
その時、 いつの間にか清火の姿は元に戻っていた。
…………
ロボットの内部に侵入した清火は急所を探そうと暗い通路のような道を歩く。
……平衡感覚が無くならない……まるで普通の地面を歩いてるみたい……本体はあんなに動き回ってるのに……
ロボット内部の不思議な構造に清火は驚きつつも先を進むと……
『……誰……』
少女のような声が聞こえてきた。
「……もしかして……アンタがこのロボットの操縦者? 」
清火は声に質問する。
『……真っ直ぐ……前に……そこに……私が……いる……』
……何なの……
疑問に思いつつも清火は声の誘導に従うとカプセルのような機械がある部屋に出た。
そのカプセルの中には一人の少女が入っており、 謎の液体の中で眠っているようだった。
髪は薄く水色掛かったような不思議な色をしており、 服装もこの世界の人間とは思えなかった。
しばらく清火はカプセルの中を眺めていると再び声がする。
『凄まじい力……貴女……何者……? 』
「その前に名乗ったらどうなの? 」
清火はそう言うと声は言う。
『名前……忘れた……もう……自分が誰なのか……分からない……』
……何だか複雑そうな事情を抱えてそうね……あまり話を長引かせたくない……
そして時間が押している清火は
「まぁいいわ……で、 アンタの望みは? 」
面倒くさそうな口調で要件を聞く。
すると
『……お願い……私を……止めて……』
声は泣きそうな声でそう言う。
『私……こんな事したくない……もういいの……ただ……眠りたいだけなのに……』
なるほど……この子がこのロボットの動力源って訳ね……
清火はカプセルに入っている少女自体がロボットの急所だと察する。
『誰かが……ずっと私に命令してくる……暴れるように……ずっと……ずっと……』
……竜王の時と似てる……
清火はその少女から竜王と同じ雰囲気を感じる。
「安心して……アンタを止めてあげる……その代わり一つ質問いい? 」
『……何……? 』
「……アンタと各地に現れた謎の魔物……何か関係があるの……? 」
すると声は少し間を空けて話し始める。
『……私達は……元々違う世界の者だった……でも……その世界は……もう無い……魂となってさ迷っていた私達に……『何か』が語り掛けてきた……『剣の英雄を殺せ』……と……』
竜王も同じことを言ってた……剣の英雄……まさか……
清火はふとイージスの事が思い浮かぶ。
『私達はある国の守護者だった……『天使』……『騎士』……『魔術師』……『魔女』……『暗殺者』……そして『竜』……私を含め……7人で国を守り続けてきた……誰かも分からない王の帰りを待ちながら……』
誰かも分からない王……まさかそれもイージスの事……?
『その内の一人……『竜』は……王を探し求め、 果て無き旅へと立った……そしてその『竜』も帰ってくることなく……私達の世界は……終わりを迎えた……世界を創造したる神が……死んだの……』
まるでファンタジーの世界ね……竜やら騎士やら魔女やら……おまけに神と来た……まぁ、 この世界も言えたものじゃないけど……
「そう、 それは災難だったわね……でもそんな事は私にとっては知った事じゃない……今は各地の魔物について何か知っていないかを聞きたい……止めないと私達の世界が危ないの……」
あまり時間が無かった清火は素っ気無い態度で少女に聞く。
『ごめんなさい……彼らについては……私には分からない……ただ……これだけは分かる……貴女なら……彼らを止められる……絶対に……』
「……その根拠は」
『私が作りあげたこの兵器は……彼らの中で誰も……傷付ける事すら叶わなかった……その大鎌と……その力があれば……彼らを止められる……』
「……」
すると少女はすすり泣くような声で清火に言う。
『お願い……彼らに……『終わり』を与えてあげて……彼らは……見つかりもしない王を探し続けている……私と同じように……操られてる……私は……辛そうな彼らを……もう見たくない……』
……どこの誰か分からないけど……こんな子供まで置いて行くなんて……ろくでなしの王ね……
そう思いながら清火はため息をつく。
「言われなくても止めるつもりだよ……でもまずはアンタを止める……」
『……お願い……』
そして清火は大鎌を構え、 カプセルに刃を突き刺した。
刃は少女の心臓にまで到達し、 赤い血がカプセル内の液体に広がる。
『……ありがとう……『死の英雄』……どうか……彼らを……救って……』
するとずっと目を閉じていた少女の目が開く。
その眼は銀色の瞳をしており、 神秘的な雰囲気を放っていた。
心なしか少女は微笑んでいるように見える。
『……あぁ……あなただったんだね……~……ナ……』
その言葉を最後に辺りで動いていた機械が一斉に停止した。
…………
同時刻……
ロボットは突然動きを止め、 崩れるようにその場で倒れた。
周りで飛んでいたドローンも次々と落下し、 全て停止した。
それを見た攻略者達は歓喜する。
「やったんだ……モルスさんが! 」
「マジか……あんなデカブツを止めるとは……」
雷とフローガは清火の実力に圧倒される。
…………
清火は倒れたロボットの裂け目から這い出てきた。
……剣の英雄を殺せ……か……それに誰とも分からない王……そして既に無くなっている、 こことは違う世界の住人……次元迷宮を作った奴の目的が見えてきた気がする……
「……」
『あなただったんだね……~……ナ……』
……最後の誰かの名前……よく聞こえなかったけど……あの子は私と何か関係が……?
清火は謎の少女の事を思い出しながらも雷とフローガの元へ向かう。
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「雷さん、 フローガさん、 一先ずここは終わりました」
「そうか……だがまだ終わっちゃいねぇんだな……? 」
フローガの言葉に清火は静かに頷く。
「私は他の地方へ向かいます……場所は仲間の気配で大体わかるので心配なく……皆さんはここの生存者の捜索をお願いします」
「任せて……魔物達はお願いね」
そう言う雷に清火は小さく微笑み、 その場を後にした。
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ドラゴンゾンビに乗って魔物のいる方へ向かう途中……
『モルス様……』
ゼヴァの声がした。
「ゼヴァ! そっちは? 」
『事態はかなり深刻です……ありとあらゆる街が破壊されています……生存者はまだ確認できず……』
「今どこ? 」
『……恐らく……トウ……ホク……と呼ばれる場所かと……』
トウホク……東北地方か……
すると清火はその方角に意識を向ける。
……見つけた!
ゼヴァの気配を感知した清火はその場所へ向かった。
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東北のとある街……
そこは破壊し尽くされ、 無数もあろう剣が地面に突き刺さっていた。
……何……この剣……凄い数……
不審な剣を横目に清火は街の奥へ歩みを進める。
……ゼヴァは何処に……ゼヴァ、 聞こえる?
『……モルス様……不審な魔物を補足しました……これより戦闘に移ります……』
そう……見つけたんだね……すぐにそっちへ行く……
そして清火はゼヴァの気配がする方へ走る。
しかし進んでも進んでもゼヴァの姿が見当たらない……
ゼヴァ……ゼヴァ……! どこにいるの!
思念を発してもゼヴァからの応答は無い。
「まさか……」
そう呟いた次の瞬間
『何者……』
突然聞こえてきた声と同時に清火の頭上から無数の剣が降り注いできた。
清火は咄嗟に変身し、 素早く身をかわした。
「何! ? 」
清火の目線の先には
『……その身のこなし……他の者とは違う……』
顔が黒く塗りつぶすようにオーラを纏う天使がいた。
その翼は剣で出来ていた。
「……アンタがこの街を破壊した張本人って訳ね……」
そう言うと清火は大鎌を出す。
ゼヴァ……どこにいるの?
清火はゼヴァに呼びかける。
『モルス様……申し訳ありません……油断してしまい……負傷を……回復まで……しばし……』
……マジか……ゼヴァがやられたの……! ?
危機感を感じた清火は構える。
すると天使は周囲に無数の剣を出現させ、 清火の方へ飛ばしてきた。
清火は大鎌を振り回し、 剣を弾く。
そして清火は空かさず天使の方へ飛び上がり、 大鎌を振り上げた。
しかし……
『ガァァァン! ! 』
「ッ! 」
天使は目にも留まらぬ速さで手元に剣を出し、 清火の大鎌を止めた。
な……嘘でしょ……至近距離で私の攻撃を止めるなんて……
『速い……この凄まじい闘気……あの王以来だ……』
「だぁかぁらぁ……その王は誰なんだっつぅの! 」
清火は大鎌を振り上げ、 天使の剣を弾き飛ばす。
そして再び大鎌を振りかざし、 天使の首を斬ろうとする。
しかし天使の動きは凄まじく速く、 再び手元に出現させた剣で大鎌を止めた。
……は……速い……!
次の瞬間、 天使はもう片方の手に剣を出し、 清火を斬り付けた。
清火は咄嗟に大鎌の棒部分で剣を受け止めた。
「……アンタら……本当に何なの……? 次元迷宮の魔物とは比べ物にならない程強いし……」
『分からぬ……だが……我は我を斬る剣を探している……かつて……我にとどめを刺した剣を……』
……こいつ……一度死んでるってこと……? それに剣を探してるって……まさか……剣の英雄……?
天使の言葉に様々な考察をする清火だがそんな余裕は一瞬で吹き飛ぶ。
天使は清火の周囲に無数の剣を出現させ、 飛ばしてきたのだ。
清火は慌てて距離を取り、 剣を弾く。
しかし天使は逃がすまいと清火を追う。
その戦いは大地を切り裂き、 辺りには無数の金属音が鳴り響く。
……速い……この形態の私に追い付くなんて……
既に音を余裕で上回る速さで動く清火に天使は難なく付いて来ている。
「……ッ……! 」
『……貴様には……あの剣と同じ気配を感じる……』
「……だから何……」
『……』
それ以来、 天使は何も言わなくなった。
くっそ……ゼヴァ……早く……!
ゼヴァが回復するまで清火は謎の天使との苦戦を強いられた。
続く……