第57話 異世界帰りの忍者による、日本プロ野球&メジャーリーグ蹂躙劇
忍や五里川原、皇の所属球団は、あえて分からないように書いています。
自分の推し球団に入ったと妄想して、お楽しみください。
ドラフト会議は、とんでもないことになった。
12球団揃って1位指名とは、どういうことだよ?
俺、大学時代は軟投派で、目立つような剛速球とか投げてなかったんだぜ?
大学にスカウトとかマスコミの取材とかも来てたけど、俺じゃなくて優子や鉄心さんにばかり注目が集まってたんだぜ?
ドラフトは、下位指名に引っかかればいいな~ぐらいの気持ちだったのに。
ダメだったら、来年プロテストを受けるつもりだったのに。
「そりゃ忍はプロにならず、教師になるって早くから公言してたからでしょ? 本当はどの球団も、喉から手が出るほど欲しかったに決まってるじゃない」
隣で一緒にドラフトのテレビ中継を見ていた優子が、呆れていた。
……そうなの?
こうして俺は、プロ野球選手になることができた。
まずは2軍の試合で頑張り、1軍に上がるぞ~と気合いを入れていた。
そしたらデビュー戦は、いきなり1軍で開幕投手だ。
おいおい。
大卒とはいえ、俺は新人だぞ?
いきなりそんな大役を背負わせるなんて、監督は何を考えてるんだ?
監督に「俺、新人ですよ? いいんですか?」と尋ねたら、「お前みたいなバケモンを新人扱いとかふざけんな」と怒られた。
高校時代、皇王牙を3年間負かし続けた奴。
おまけに五里川原の兄貴分ということで、新人どころか人間扱いしてもらえないらしい。
チームの生体兵器扱いだ。
くそう。
あいつらが、活躍し過ぎるのが悪い。
大役を任された以上は、頑張るしかない。
相手はプロの打者達だ。
200km/hのストレートを投げても、事前にストレートだとわかっていたら打てるような超人ばかり。
人類の限界内に収めた投球をしていく以上、打たれる可能性は常につきまとう。
とにかく点を取られないよう、丁寧に投げ続けた。
そしたら開幕で勝利投手になっただけじゃなく、その後も順調に勝利数が増えていく。
オールスターにも選出された。
チームも順調に勝ち進み、クライマックスシリーズ、日本シリーズを経て日本一になった。
気付けば俺は、本当にプロ1年目で沢村賞を取っていた。
それだけじゃなく、先発投手が取れるタイトルというタイトルを総なめにしてしまった。
MVP、新人王、最優秀防御率・最多勝利・最多奪三振・最高勝率の投手四冠王、ベストナイン、ゴールデングラブ賞……。
正直、自分でも引く。
これだけタイトルを獲れば、師匠も文句は言わないだろう。
俺は沢村賞の賞金で仕立てたスーツを着こなし、聖邸を訪問した。
「娘さんを俺にください」と、挨拶しにだ。
ところが師匠ときたら、「どうせならメジャーリーグに行って、サイ・ヤング賞も……」なんて言い出しやがった!
できるか!
そんな真似!
もう球団には、プロ引退の意向を伝えてあるんだよ!
優子も怒るかと思いきや、球也師匠に賛成し始めやがった。
「実はね、忍。私はいま会社が忙しくて、結婚はちょ~っとタイミングが悪いかな~って。ちょうど1年ぐらいしたら落ち着きそうだし、その間だけアルバイトと思ってメジャーリーガーやってきたら?」
「お前ら親子、全米のメジャーリーガー達に謝れ」
ちょっと頭にきたけれど、優子とは円満に結婚したいので仕方ない。
師匠のワガママを、聞いてやることにした。
たぶん自分も本当は、メジャーで投げてみたかったんだろうな。
奥さんや娘と離れるのが嫌で、渡米しなかったことを後悔しているのかもしれない。
とはいえこれは、面倒見てくれた日本の球団への裏切りだ。
プロ引退を撤回して、メジャーリーグに挑戦するっていうんだからな。
なんとかプロ野球選手を続けるよう、破格の契約金を提示してまで引きとめてくれたっていうのに。
ところが球団フロントに事情を話してみると、理解を示されてしまった。
「あの聖球也が言い出したんじゃ、仕方ない」って反応だ。
むしろ同情されてしまった。
「あの人が義理の父親になるなんて、服部くんは大変だね」と。
師匠、引退した今でも日本プロ野球界では核弾頭みたいな扱いなんだな。
こうして俺は、所属球団との仲が険悪になることもなくメジャーリーグに挑戦できるようになった。
入団して1年しか経っていない選手としては異例な話だけど、ポスティング制度を使うことになったんだ。
メジャーの球団が俺の所属する日本の球団に譲渡金を支払って、入団交渉をすることができる。
ただなぁ……。
ポスティング制度なんて使っても、メジャーの球団が交渉したがるとは思えないんだよなぁ。
俺はプロでの経験が足りなさ過ぎる。
アメリカ人から見たら、体格も小さくて貧相だしな。
だから日本球界を任意引退して、向こうでトライアウトを受けるしかないだろう。
実力を示す機会さえもらえれば、なんとかしてみせる。
そんなことを考えていたら、アメリカンリーグとナショナルリーグの全球団が交渉を希望してきた。
ウソだろ?
30球団全部とか、ふざけんな。
ついでになぜか、プロアメフトとプロバスケットのスカウトも接触してきた。
「アメリカに来るなら、野球のシーズン以外は他のスポーツもやらないか?」と。
なんでだ?
バスケとアメフトは、高校時代にちょっとだけ助っ人として試合に出ただけだぞ?
スカウト達に理由を聞いたら、助っ人した時の動画が投稿サイトに出回ってるという。
プロのスカウトが、動画見ただけで勧誘するなよ。
俺は野球以外、素人だ。
アメフトの1試合パス獲得ヤード数560とか、バスケの1試合スリーポイント成功数20とか、本場アメリカでは普通なんじゃねえの?
俺は素人だから、知らんけど。
もちろん、お断りした。
プロとしてプレーするのは、野球だけで充分だ。
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なんとかメジャーリーグ球団との交渉はまとまり、俺は渡米した。
……とは言っても、いきなりメジャーリーガーになれるわけじゃない。
まずはマイナー契約からだ。
25歳未満またはプロ6年未満の海外選手は、マイナー契約からのスタートってルールで決まってるんだ。
このマイナーからメジャーに上がるっていうのが、かなり難しい。
マイナー球団は、メジャー球団からは独立した企業になっている。
ロースター枠とかもあって、日本のプロ野球で2軍から1軍に上がるのとは色々と条件が違うんだ。
だけど30球団全部が、交渉してきたぐらいだからな。
期待はされているはず。
かなり短い期間で、メジャーに昇格できるんじゃなかろうか?
60日ぐらいで、上がっちゃったりして。
俺の予想は、完全に外れた。
マイナーリーグで、1試合も投げさせてもらえなかったんだ。
60日どころか、しょっぱなからメジャー昇格だ。
初登板の時、観客席からは「小さな竜巻」という声援が飛んできた。
うるせえ。
小さいとか言うな。
そりゃ日本人メジャーリーガーのパイオニアと呼ばれたトルネード投法の選手と比べたら、俺は小せえよ。
身長のことはもう気にしないと思っていたけど、やっぱりちょっとムカつく。
腹立たしいので、デビュー戦でメジャーリーグの最速記録を塗り替えてやった。
107マイル(約174km/h)だ。
その日から俺のあだ名は、「音速ニンジャ」になった。
音速の球なんて投げねえよ。
投げようと思えば投げれるけど。
宇宙人の疑いをかけられて、NASAに捕まるのはゴメンだ。
俺は地球人らしく振る舞うよう心がけつつ、メジャーリーグを蹂躙した。
ワールドシリーズ制覇。
サイ・ヤング賞受賞。
MVP受賞。
ルーキー・オブ・ザ・イヤー受賞。
プラチナ・ゴールドグラブ賞受賞。
ウォーレン・スパーン賞受賞。
オールMLBチーム選出。
――1年間だけメジャーリーガーとして活動した後、俺は日本に帰った。
今度こそ教師になって、学生野球指導者をやるために。
お読みくださり、ありがとうございます。
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