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第18話 わたしの推しカプは、服部くん×五里川原くんなのです

「よ……よお、(すめらぎ)。久しぶりだな」




 皇相手には堂々とした態度でいようと決めていたのに、挙動不審な挨拶になってしまった。


 くそ……。

 処女喪失のお相手だとか、(ゆう)()がとんでもない嘘を言い出すからだ。




「ん? よく見たら、中学時代に控えの控えだったチビ助じゃないか。まだ野球やってたのか?」


 ドギマギした気分も、一気に吹っ飛ぶ。


 ふ~ん。


 こいつ俺のことなんざ、試合中ろくに見ていなかったのか。


 確かに今日の試合で、俺は投げていない。

 外野と内野をウロチョロしていた。

 ちょっとだけ、捕手(キャッチャー)も務めた。

 本職ピッチャーの俺以外にも、登板経験を積ませたかったからな。


 打撃も見ることに専念して、あまり振ってはいかなかった。


 だけど普通、相手チームのトップバッターが中学のチームメイトだったら気付くだろう。




「悪いことは言わない。キミのような野球に適した遺伝子・体格・身体能力を持たない者は、野球をしない方がいい。怪我をしてからでは、遅いんだ」


 俺が反論する前に、優子が口を挟んだ。


「あら? 遺伝子や体格、身体能力で野球やっていいかどうかが決まるの? なら女である私には、野球やるなっていうこと?」


 異世界召喚前から、優子は並の男子選手より遥かに野球が上手かったからな。


 そりゃ、納得いかないだろう。




「そうだ。女子が野球をやるなんて、感心しない。だが優子。キミは野球適性のない性別でありながら、宝石のような遺伝子を持っている。伝説の守護神(クローザー)(ひじり)(きゅう)()の血だ。おれとキミの間にできる子供は、素晴らしい選手になる」


 こいつ……!

 優子を何だと思ってやがる!


 それにこれは、野球に打ち込む女子選手全員を侮辱するような発言だ。


 一言物申してやらないと、気が済まない。




「ハハハッ! 見苦しいな。お前、優子が女子でホッとしてるんだろ? 女子というだけで、高校野球公式戦のグラウンドには立てない。女子選手が公式戦に出られるようになったら、ボコボコに負けちまうかもしれないもんな」


 意識して悪役(ヒール)っぽい笑顔を作りながら、皮肉たっぷりに言ってやる。




「いま、幻聴が聞こえたような? 誰が優子から、ボコボコに負けるって?」


「お前のことだよ、皇(おう)()。身体能力が高ければ野球に勝てると思い込んでいる、おめでたい野郎だ。野球はもっと奥深くて、面白いゲームなんだよ」


「……おれは野球を、遊び(ゲーム)という奴らが大嫌いだ。グラウンドは、命をかけた戦場。選ばれし戦士達が殺し合う、真剣勝負の場だ」


「笑わせんな。本当の殺し合いなんて、したことないくせに」


 俺、優子、(けん)(せい)は、異世界アラミレスで散々やってきた。


 あんな胸糞悪いもんと、俺の大好きな野球を一緒にするんじゃねえ!




「……ふっ、チビ助。キミが何を言おうと、負け犬の遠吠えだ。現に今日の熊門は、おれたち火の国学院に完敗したんだからな」


「わざと負けてやったこともわかってないから、おめでたいって言ってんだよ」


 この春季大会で優勝しても、甲子園に行けるわけじゃないからな。


 本番は夏の大会だ。

 そこで勝てるなら、目先の勝利なんざくれてやる。


 だから今日の試合では情報を隠すために、俺は登板しなかった。


 憲正と()()(がわ)()も、積極的には打っていない。




「負け惜しみも、ここまでくると感心する。夏の県予選では、今日以上の地獄を見せてやろう。野球やっていることを後悔するような、惨敗を味わえ」


「ヘッ! そうかよ。じゃあ俺はお前に、野球の面白さってやつを教えてやる」


「楽しみにしておこう。火の国学院(ウチ)と当たるまで勝ち残れるよう、祈ってやる。まあ、無理だろうがな」




 背番号10を見せつけながら、皇は去った。


 今日のピッチング内容からすると、夏の県予選では背番号1(エースナンバー)を背負っていてもおかしくない。




「……ところで監督代行。俺とお前が不純異性交遊をしていると、部員全員から疑われてしまったようだけど?」


「ああでも言わなきゃ、皇のバカは引き下がらないでしょ? そんなに嫌だった?」


「別に……」


 ちょっとドキドキしただなんて、言わないでおこう。


 キモがられたら嫌だ。




 部員達の誤解を解いたところで、1人の女性が走ってきた。


 レディーススーツに丸レンズの眼鏡。

 ふわふわした髪を振り乱しながら、こっちに向かってくる。


 野球部顧問の(とよ)(やま)(かん)()先生だ。


 甘奈先生!

 あんまりバタバタ走らないでください!


 その……。

 立派なモノが、ユッサユッサと揺れています。


 周囲から、ガン見されています。




「みんな~! 放ったらかしにして、ごめんなさいです。ちょっと校長先生と、電話をしていたのです」


「へえ、校長先生と……。野球部専用グラウンドを、作ってくれるとかですか?」


 もちろん、冗談だ。

 公立高校にそんなお金はないし、校長の一存で作れるもんでもない。




「せ……専用グラウンドはちょっと、無理だったです。その代わり、いいニュースがあるのです。専任の監督がくるのです」


「監督……ね……」


 俺は憲正と、顔を見合わせた。


 そりゃ、ちゃんとした監督がいるに越したことはない。


 優子がスコアラーと監督代行を兼任しているけど、スコアを記録しながらサイン出すのは忙しそうだ。




「俺らとしては、大人は甘奈先生がいれば充分だったんですけど……」


 野球ド素人の甘奈先生だけど、俺達部員は頼りにしている。


 大人じゃないとできない手続きは迅速にこなしてくれるし、学校側との交渉も積極的にしてくれる。

 先生のおかげで、朝練の許可も下りた。


 教師生活1年目だとは思えない働きっぷり。

 尊敬できる大人だ。

 



「ええっ? それはダメです。野球素人のわたしでは、指揮を取れないのです。優子ちゃんに代行させるのも、可哀想なのです」


「可哀想? 先生、私は別になんとも……」


「学生監督というのは自主性があっていいと、わたしも最初は思っていたのです。でも負けたら、周囲から酷いバッシングを受けるのが高校野球の監督です。最近ネットで、それを知りましたです」


 あー。

 SNSとかネット掲示板で、高校野球の監督をボロクソに叩く書き込みって多いもんな。


 エースの選手生命を守るために投げさせず、試合に負けた監督とかいた。

 その人は、ものすごく非難されていた。


 甘奈先生は、そういう理不尽なバッシングから優子を守ろうと……。






「責任を負うのは、大人であるべきなんです。学生は余計な心配をせず、存分に青春して欲しいのです。野球を通じて、男の子同士の友情を深めるのです。そしてそれを、愛情へとハッテンさせて……。ぐふふふ……」


 前半カッコよかったのに、後半で台無しになった。


 なんて欲望に忠実な大人だ。


 俺達を題材にして、薄い本とか書いてないよな?






お読みくださり、ありがとうございます。

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