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第15話 バックスクリーン「そんなにボコボコと! これはイジメです!」

 春季大会が始まった。


 夏の甲子園――全国高等学校野球選手権大会の前哨戦みたいな大会だ。


 舞台は藤川台県営野球場。

 アマチュアだけでなく、時々プロの試合も行われる本格的な球場だ。




 1回戦のマウンドに、俺は立っていた。


 対戦相手は(せい)()(がく)(しゃ)高校。

 我が(くま)(かど)高校と同じく、公立の進学校だ。


 しかも偏差値は、県内トップクラス。

 熊門の方が、ちょっとだけ上だけど。


 両校ともに学力面では、ライバル意識が強い。


 だから部活動の試合でも、負けるわけにはいかない。


 負けたら野球に興味ないクラスメイト達からも、大ブーイング間違いなしだ。


 ここは【(とう)(てき)】スキルをフル活用したチートなピッチングで、全打者三振に抑えて……。


 と、言いたいところだけど。




「ガンガン打たせていくからな~! みんな頼んだぜ~!」




 俺のお願いに、守備陣(バック)が手を上げて応える。




 この試合で、自分に課した縛り。


 それは三振禁止。


 最も安全にアウトが取れる三振を、なぜ狙わないのか?


 答えはゴロや飛球(フライ)を打たせて、野手に捕らせたいからだ。


 そう。

 俺達は公式戦の中で、守備練習をする。


 ウチの部はグラウンドを週に3回しか使えないから、実戦的なノックとかが足りない。


 練習試合もあんまり組めていない。


 ならば公式戦の中で、練習してしまおうかと思って。


 この大会で勝っても負けても、甲子園とは関係ないし。




 1回の表。

 聖魔学舎の攻撃。


 相手1番打者(バッター)に対して、第1球。


 俺が左のトルネード投法から放ったのは、平凡に見える球。


 速度は120km/h。

 コースも甘い。


 だけどちょっとだけ変化する、カットボールだったりする。




 ガキン! という、(にご)った金属音。


 打球はそこそこの速さで転がり、三遊間へ。


 遊撃手(ショート)小鳥遊(たかなし)が追いつき、バックハンド(逆シングル)で捕球して一塁送球。


 あっさりアウトにする。


 俺や(けん)(せい)()()(がわ)()みたいなスキル持ち以外では、小鳥遊が総合的に1番上手い。


 あいつ、器用なんだよな。


 肩もそこそこ強ければ、足もそこそこ速い。

 複数ポジションをこなせる、ユーティリティプレイヤーだし。

 打撃は左右どちらでも打てる、スイッチヒッターだし。


 ついでに彼女も8人いる。




 ……思ったより、あっさりアウトにしちまったな。


 もう少し守備範囲ギリギリに打たせないと、練習にならないか?


 いや初回だしな。

 まずは野手みんなの緊張をほぐすよう、簡単(イージー)なフライやゴロを打たせるか。


 そんなことを考えながら、聖魔学舎の2番打者に投げる。


 2球目でセンターフライを打たせた。


 五里川原は、その場から1歩も動かずにキャッチする。


 打球を見上げてさえいなかった。




 ……あいつは元からメチャクチャ上手いから、あんまり捕らせなくてもいいな。


 他の奴らの守備練習を、優先しよう。




 さて。

 次の相手からはクリーンナップ。


 3番打者にしてエースピッチャー。

 聖魔学舎の主将(キャプテン)でもある、3年生の(ふか)()(てっ)(しん)さん。


 恐ろしく無表情な人だ。

 無口でもあるらしい。


 身長はあまり高くないな。

 168cmってところか?


 俺よりは高いけど……。


 見た感じ、筋肉量もそこまで多くはなさそうだ。


 長打はなくても打率がいい、アベレージヒッターなのかな?




 投げてみると、これがまた面倒くさいバッターだった。


 難しい球は、ことごとくカットされる。


 ちょっとでもストライクゾーンから外すと、全然振ってこない。


 160km/h台のストレートや、大きい変化球で空振りを取ろうと思えば簡単にできる。


 でも剛速球はまだ他校に隠したいし、空振りを取りに行くのも本日の課題に反する。




 結局鉄心さんは、四球(フォアボール)で歩かせてしまった。


 くそう……。


 でもまあ、いいか。


 これで、走者(ランナー)が塁上にいる時のプレーを練習できる。




 相手4番は、サードゴロに打ち取った。


 聖魔学舎、無得点。






○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●





 1回裏、熊門高校の攻撃。


 トップバッターは俺。


 マウンド上にいるのは背番号1

 鉄心さんだ。




「ひっくぅ~」




 打席の中で、思わず声が漏れた。


 鉄心さんは、俺と同じ左投手。


 そして上手投げ(オーバースロー)の俺と違い、下手投げ(アンダースロー)だ。


 しかもリリースポイントが、地面スレスレのサブマリン投法。


 左のサブマリンなんて、漫画でしか見たことがない。

 左投手の人口が少ない上に、サブマリンはさらに希少だからな。


 その投球フォームは……美しい。


 鳥が翼を広げるみたいに、躍動感溢れるテイクバック。


 滑らかに地を這う全身。


 鞭のようにしなる左腕から、鋭く射出される白球。




「おっそぉ~」




 そして球速は、ビックリするぐらい遅い。


 浮かび上がってくる軌道だから、出だしは豪速球に感じる。


 でも実際には、ボールが全然来ない。


 こりゃ、バッターはタイミングが取りづらいぞ。


 コースも厳しい。

 絶妙なコントロールだ。




 噂によるとこの人、昔はオーバースローだったらしい。


 体格に恵まれず、球威もなかった。


 そこで中学3年の時に、アンダースローへの転向を決意した。


 本格派路線を捨て、変則投手(ピッチャー)として生き残るために。




 この人、何だか他人だとは思えない。


 同じ左投手、同じ球威・体格に恵まれなかったピッチャー。


 実は俺も、サイドスローやアンダースローへの転向を考えたことがある。


 中学時代の監督は俺を冷遇していたけど、サイドかアンダーに変えるなら使ってやってもいいと言われていた。


 結局は(ひじり)親子と同じ、オーバースローのトルネードを貫き通したけど。


 鉄心さんは、俺が選ばなかった未来の姿なんだ。


 


 感傷的なことを考えていたら、ツーストライクと追い込まれていた。


 いけね。

 ベンチから、監督代行の(ゆう)()(にら)んでいる。




 そろそろ打ちますか。


 


 ぬっ?

 このストレートは、いままでの球とは違う。


 球速が遅いのは一緒だけど、バックスピン量が多い。

 グンとノビる。


 いままでの遅い球と同じ感覚で振ったら、ボールの下を空振りしちまう。


 これを内角高め(インハイ)に、厳しく投げ込んでくるとは。


 コントロールが狂えば死球(デッドボール)

 打たれれば長打になりやすいコースなのに。


 この精神力――

 鉄心さん。

 やっぱりあんた、いいピッチャーだぜ。




 心の中で賛辞を贈りながら、バットを振り切る。


 


 打球はバックスクリーンに直撃した。






○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●






 2番打者は(けん)(ざき)(けん)(せい)


 2、3年生追放試合の時より、さらに打順を前にした。


 優子が公式戦では居ないってのも理由だし、2番打者最強理論っていうのもあるからな。


 スイッチヒッターの憲正は、右打席に入った。

 左投手の球は、右打席の方が見やすいだろう。


 外に逃げながら沈む、シンカーを強打。


 またバックスクリーン直撃。




 3番打者は五里川原。


 ハエが止まるように遅い、スローボールだった。


 ノビのあるストレートを、見せつけてからの遅い球。


 普通だったらタイミングを外されてしまうところだけど、五里川原は並みの打者じゃない。





 

 やっぱりバックスクリーン直撃。


 あれだけスローボールだと、かえって長打にしにくいもんだと思うけどな。



 

 


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2022/11/02 20:12 退会済み
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