第13話 最新式選手育成法~巨大ドラゴン相手にパワーレベリング~
「なんだ……? 何が起こった? 裏山も公園も、一瞬で吹き飛んで……。なぜオレは、生きている?」
焼け野原になった大地に突っ立って、五里川原は呆然としていた。
「優子の張った、【防御結界魔法】だ。あのドラゴンが吐いた紫色の炎は、完全にシャットアウトされた」
「魔法……だと? 服部、お前達は何者なんだ? その格好は一体?」
俺は【アイテムストレージ】から取り出した、忍装束へと着替えていた。
【装備換装魔法】を使えば、一瞬だ。
憲正は騎士服に。
優子は【聖女】の神官服へとチェンジしている。
「ただの高校球児だぜ。ちょっとだけ、魔物の相手は慣れているってだけだ」
俺は【アイテムストレージ】から、苦無を2本取り出した。
両手に1本ずつ構え、上空の魔王竜を睨み付ける。
あのトカゲ野郎、ちょっとビビってるな。
魔物でもドラゴン種ぐらい知能が高ければ、レベル差を敏感に感じ取って警戒される。
「落ちろ」
両手から、左右同時に苦無を投げる。
俺の苦無は特別製。
魔力を伝導しやすい、魔鋼で作られている。
魔石で作られた【ミーティアオーブ】より攻撃力は劣るけど、魔力を込めても発光したりしないのが利点だ。
夜の闇に溶け込んだ苦無は、黒竜の両翼に大穴を開けた。
『グオオオオン!!』
腹に響く悲鳴を上げながら、デイモスドラゴンは地上に落下してくる。
黒竜は落ちるついでに、五里川原へと爪を振り下ろした。
「五里川原くん、ちょっと下がっててね。僕達が、すぐに片付けるから」
爪は五里川原に届かない。
憲正の構えた【神剣リースディア】が、受け止めていた。
巨大な爪と神剣の刀身は、激しく火花を散らす。
デイモスドラゴンは、神剣ごと憲正を噛み砕こうとした。
だけど【神剣リースディア】が横薙ぎに振るわれると、黒竜の巨体は吹っ飛ぶ。
大剣ほどもある長い牙は、切り落されていた。
「憲正! 一気に片付けるぞ! 優子! 強化を頼む!」
「応! 異世界に居た頃を、思い出すね」
「支援は任せて! 【敏捷性強化魔法】!」
【聖女】優子の魔法発動に合わせて、全身が劇的に軽くなる。
よし!
MAXスピードで行くぜ!
【アイテムストレージ】から、接近戦用の武器を取り出す。
2本で一対の忍刀。
銘をそれぞれ【紅星】、【蒼鬼】という。
それじゃ、走者スタートだ。
「分身の術だと?」
さすがの五里川原でも、この動きは目で追えないか。
分身して見えるらしい。
実際にはただ、素早い動きで撹乱しているだけだ。
撹乱しながら、何度も斬りつける。
途中から、憲正も参加した。
忍刀と神剣が、闇夜に無数の剣閃を描く。
デイモスドラゴンは、あっという間にズタボロだ。
『グオオオオン!!』
それでもデイモスドラゴンは、反撃を試みた。
魔王の名を冠する竜なだけあるぜ。
口を大きく開き、暗黒の息吹を放とうとする。
だけど口から吐き出された紫色の閃光は、巨竜の顔面へと跳ね返された。
これは優子の【反射魔法】。
「痛烈なピッチャー返しね。さあ忍! 試合を決める最後のアウトは、あなたが取って!」
俺は【アイテムストレージ】から、【ミーティアオーブ】を取り出した。
魔力を込め、デイモスドラゴンをロックオン。
虫の息になっている黒竜は、口が半開きだ。
あそこを狙う。
今回はモーションの速さと、コントロールを重視。
左のサイドスローから、あまり力まず【ミーティア】オーブを放った。
それでも球速は、マッハ5を超える。
デイモスドラゴンの頭部は、跡形もなく吹き飛んだ。
ワンテンポ遅れて、全身も黒い霧となって消える。
魔力反応消失。
俺達の勝利だ。
一息ついていると、熱いものが体内に流れ込んできた。
魂の力。
経験値だ。
『レベルアップしました』
おおう!
このアナウンス、まさか地球でも聞くことになるとは思わなかったぜ。
俺のレベルは298になった。
「僕、レベルアップしたよ。これで299だ」
「私は上がらなかった。もう、デイモスドラゴン1体ぐらいじゃダメか~」
優子は俺達より、ちょっとレベルが高いからな。
レベルアップに必要な、経験値量も多い。
「……おい、お前ら。レベルアップとか言ってたな? オレの頭の中でもさっきから、『レベルアップしました』というアナウンスが止まらないんだが。……これは何だ?」
俺達は、一斉に五里川原を見た。
経験値が入ってる?
あー、そうか。
最初に放ったノック。
あれで戦闘参加した扱いになったのか。
「ゴリくんも、レベルアップしたの? ステータス見せてよ。『ステータスオープン』って叫ぶの」
優子はそんなことを言うけど、本当は叫ばなくても呟く程度の音量で大丈夫だ。
「……ステータスオープン」
照れがあったのか、五里川原はボソリと呟いた。
すると奴の眼前に、光のウィンドウが出現する。
「へえ、職業は【戦士】かぁ。何だかそれっぽいわね」
「うわあ。今の戦いだけで、レベルが38まで上がっているよ。さすが魔王竜。経験値ガッポリだね」
「レベルアップ時に獲得できるスキルポイントも、かなり貯まっている。これを振り分けることで、色々便利なスキルを覚えられるぜ。とりあえず、俺と同じ【投擲】スキルはオススメだ」
ついつい楽しくて騒いでしまったけど、五里川原本人は全くついて来れていない。
キョトンとしている。
あー、どうしようかな?
異世界アラミレスのことや、魔物のこと辺りから説明しようかな?
いや。
説明しようにも、俺達にすら分かっていないことも多いし。
何で地球でもステータスオープンできたり、スキルやレベルの力が使えるのかとか。
どうして地球に、異世界の魔物であるデイモスドラゴンが出現したのかとか。
「……ほう。我が召喚したデイモスドラゴンを、こうもあっさりと。さすがだな、シノブ・ハットリ」
不意に声が聞こえた。
そんなバカな?
ここは優子が張った、【次元結界】の中だぞ?
外界からは切り離されていて、出入りは不可能なはずだ。
結界を張った時、中に居たのは俺、優子、憲正、五里川原、そしてデイモスドラゴンだけだ。
振り返った先にいたのは、真っ青なローブを纏った人影。
かなり小柄だ。
フードを深く被っているから、顔は見えない。
声の質からして、若い女。
……いや、子供か?
「お前は……誰だ? 異世界アラミレスの人間か?」
デイモスドラゴンを召喚したという発言や、ファンタジックな格好。
地球人だと考えるより、異世界から来たって考える方が自然だろう。
「くくく……。今はまだ、知る時ではない。さらばだ」
少女(?)がローブをはためかせると、その姿はフッと消えた。
「誰なんだろ? あの子? なんか前に、会ったことがあるような気がするんだけど……。とにかく公園と裏山を修復して、【次元結界】を解除するわね。……【回復魔法】!」
相変わらず、優子の【回復魔法】は反則的な性能だ。
デイモスドラゴンに蒸発させられた裏山と公園は、10秒で元通りになった。
お読みくださり、ありがとうございます。
もし本作を気に入っていただけたら、ブックマーク登録・評価をいただけると執筆の励みになります。
広告下のフォームを、ポチっとするだけです。