表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/58

第10話 メイドマニアの兄を持つと、弟はこうなる

 何度も何度も頭を下げながら、文学少女は帰って行った。




「あの子、五里川原の彼女?」


「違う。ただのクラスメイトだ」


「LINE教え合ってるのに?」


「……? それぐらい、クラスメイトなら普通だろう?」


 こいつ、異性からの好意には鈍感なんだな。


 不良グループのロン毛リーダーからは「ゴリラ」なんて言われていたけど、それは大柄なマッチョ体型だからの話。


 五里川原の奴、顔はワイルド系のイケメンだ。


 けっこうモテそうなのに、もったいないな。

 無自覚イケメンって生き物は。



 

「あの硬球を投げたのは、お前か?」


「見えてたのか? 凄い動体視力だ」


 やっぱシニアの世界大会で、ホームランを打っちまうような打者は違うな。


 256km/hの球を、硬球だと識別できるとはね。




「オレの名前を、知っているみたいだな。野球部関係者……。シニアリーグの選手だったと知って、勧誘に来たってところか?」


「ご名答。(くま)(かど)高校野球部キャプテン、(はっ)(とり)(しのぶ)だ。よろしく」


 そう。

 不本意だけど、俺はキャプテンに任命されてしまった。

 2、3年生が、全員退部したからな。


 俺は(けん)(せい)を推したのに、優子を含む1年生全員が指名してきやがった。


 キャプテンは捕手(キャッチャー)っていうのが、野球漫画のお約束だろ?




「入部はしない」


「理由を聞かせてもらえるか? お前ほどの選手が、野球をやめちまった理由を」


「オレには……野球しているところを見せたい人がいたんだ」


 聞けば五里川原には、いつも試合を見に来てくれる年の離れた兄貴がいたそうだ。


 試合で打った時、自分のことのように喜んでくれる兄貴の笑顔が好きだった。


 だから五里川原は、野球を頑張った。


 兄貴を特に喜ばせるホームランを、いっぱい打てるようにと。




「だが兄貴は……もう……。オレがホームラン打っても、見てはくれないんだ……」


 気の毒に。

 兄貴は亡くなったのか。




「五里川原が甲子園でも凄い飛距離のホームランを打ったらさ、届くんじゃないか? 天国にいる、お兄さんに」


 我ながら、いいことを言った。


 これで五里川原が奮起し、野球に戻ってきてくれれば……。




「勝手に殺すな。兄貴は生きている。いまも元気だ」


「は?」


「昔はいつも、試合を見に来てくれていた。だが最近は、オレのことなんかほったらかして遊びに行ってばかり」


 あ……あれ?

 なんかちょっと、想像していた話と違う。




「休日の度に、知り合いのお金持ちの屋敷へ行くんだ。そこのメイドさん達を鑑賞するのが、大好きなんだと。……オレの試合を見る時よりも、楽しそうな笑顔で言いやがった!」


 こいつ……ブラコン?




「どんなにホームランを打ってもダメだ。兄貴の気持ちは、メイドさん達に向いている。だからオレは、野球をやめた」


 うーん。

 これはひどいブラコンだ。


 五里川原の兄貴め。

 ちゃんと弟の試合を、見に行ってやれよ。


 しかし、メイドさんってそんなにいいもんかね?


 俺はメイド服より、シスターや神官さんの恰好が好きだ。

 異世界で(ゆう)()が着ていた、【聖女】の神官服はまさに理想。


 ……っていかんいかん。

 好きなコスプレについて、想いを馳せている場合じゃない。




「お前が兄貴大好きなのはわかったよ。でも……それはそれとして、野球というスポーツはどうなんだ? もう、好きじゃないのか?」


 五里川原の肩が、ピクリと震える。


「お前のホームランで喜んでいたのは、兄貴だけか?」


「……うるさい。初対面の奴に、オレの何がわかる」


「練習と創意工夫を積み重ねてきた、野球大好きマンだってのはわかる。世界大会の動画で、スイングを見た。それだけで1発だよ」


「…………」


「もう兄貴のためじゃなくて、自分のために野球やってもいいんじゃないか? 野球より面白いと感じるものがあるなら、それをやってもいいと思うけど」


 野球が1番面白いぞ!

 ウチの部が甲子園に行くために、野球やってくれ!


 ……なんて、思っていても口には出さない。




()()の野球部は、弱いうえに上級生達の横暴が酷いと聞いたが?」


「俺らが2、3年生を一掃した。残ってるのは、1年生だけだよ」


 五里川原は、少し考え込んだ。

 これは脈アリか?




「さっき、甲子園とか言ったな。公立の進学校が甲子園に出場するなんて、漫画やドラマの中だけの話だ」


「そうか? 公立進学校の出場は、けっこう事例あるぞ? そりゃ(かね)で野球モンスターな特待生を集める私立の方が、有利なのは確かだけど」


「そういうのは公立高校でも、野球部が名門と呼ばれるところの話だろう? 部員全員1年生というのは、さらに無謀だ」


「無謀じゃない。俺が投げてお前が打てば、現実的な目標だ」


「……面白い。そこまで言うなら、力を見せてみろ。甲子園出場を、目指せるほどの力をな。明日の晩この公園で、オレと1打席勝負だ」


「さっき釘バットをへし折った投球だけじゃ、力を見せたことにならないのか?」


「打者視点で見てみないことには、何とも言えん」





 俺は内心でほくそ笑んだ。


 こりゃ五里川原の奴、野球に未練タラタラだぞ。


 今夜じゃなくて明日を指定したところから察するに、素振りやバッティングセンターで勘を取り戻すつもりなんだろう。


 やる気満々じゃないか。




「わかった。ビビって逃げるなよ?」


「ぬかせ。投手(ピッチャー)辞めたくしてやる」


 (どう)(もう)な、強打者(スラッガー)の笑み。


 やっぱりコイツ、是が非でも野球部に欲しい。




 裏山公園を去る五里川原の背中を、ニヤニヤしながら見送った。




「う……う~ん」




 あ、忘れていた。

 ゴミが散らかしっぱなしだ。




 うめき声を上げていた不良グループのロン毛リーダーの髪を掴み、顔を上げさせる。


 これ以上五里川原や熊門高校に関わらないよう、追い込みをかけとかないとな。




 意識を取り戻したロン毛リーダーは、涙目になりながらまくし立てた。




「お……お前ら! こんなことをしてタダで済むとおもっているのか? 俺の親父は、『(なま)()組』の組長なんだぞ!」


 生呼組?

 あの指定暴力団の?


 簡単に、組の名前出しちゃダメだろう。

 親に迷惑かかっちゃうぞ?




 しかし、放っておくわけにはいかないな。


 幸い五里川原との1打席勝負は、明日の晩。


 今夜は空いている。




 俺はスマホを取り出し、優子と憲正にグループLINEでメッセージを送った。




 忍『今夜ヒマ? 3人で、ちょっと夜遊びしないか?』


 憲正『いいよ。何やるの?』


 忍『ヤクザの事務所を1つ、壊滅させようかと思って』


 優子『私もいいわよ。30分もあれば、片付くでしょうし』






 かくして今夜、生呼組の消滅が確定した。






お読みくださり、ありがとうございます。

もし本作を気に入っていただけたら、ブックマーク登録・評価をいただけると執筆の励みになります。

広告下のフォームを、ポチっとするだけです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓他にはこのような作品を書いています↓

本作と同じ世界が舞台。お金の力で無双します。ヒロインの遠藤夢花は、忍達の先輩です
【女神のログインボーナスで毎日大金が振り込まれるんだがどうすればいい?】~無実の罪で職場を追放されたオッサンによる財力無双。非合法女子高生メイドと合法ロリ弁護士に挟まれながら送る夢のゴージャスライフ~

格闘と怪力で、巨大ドラゴンをフルボッコにする聖女の恋愛と冒険譚。本作に出てくるミラディースは、この作品の女神です
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

近未来異世界で繰り広げられる、異世界転生したレーサーの成り上がり物語
ユグドラシルが呼んでいる~転生レーサーのリスタート~

ファンタジー異世界の戦場で、ロボヲタが無双する
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~
― 新着の感想 ―
[気になる点] ごりがわら…五里川原!あいつかー!! え、なまこ…おや、誰か来たようだ。潮風の匂いがしてきた。
[一言] 『生呼組』組の皆さん、ご愁傷さまです。(笑)
[良い点] 生呼組!? これはワクワクですぞ! [一言] ごり君いいですね! 青春の香りもプンプン!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ