厨二王女の大暴走 ~姫様、「いせかいからのてんせいしゃ」ってなんですか?~
専属メイドの談話
そうなんです。姫様は天才です魔術も錬金術も剣術も。
ですけど…ねぇ。天才ってナントカと紙一重って…ねぇ
魔術師、錬金術師って一流は変人揃いって有名な業界ですし、二つ重なったなんて…これ以上メイドの口からは言えません。
一番最初は5歳の頃でした。水晶玉に魔力を注ぎ込み未来を見ていたんですが、爆発したんです。いや爆発させたんです。魔力を込めすぎて水晶玉が粉々になんて後にも先にも聞いたことがありません。どれだけの魔力量なんですか。
持ってた右手は無事でしたけど、顔の右半分と右目に破片ザクザクに突き刺さって…あの血まみれの光景は思い出したくありません。
今は傷跡一つ残さず完治していますけど、今でも好き好んで眼帯を付けて「右眼が疼く」とか「隠された眼の色が~」とか言ってます。何なんでしょうね?
王様はお忙しく、女王様も早くに亡くされ、姫様に一番影響を与えたのは王母陛下…直系祖母さまですね。そのためか他の子供が好むような【火球】や【雷撃】
といった派手な魔法には興味をしめさず、王母様の子供時代に流行ったような古典的魔法…【縮小】【巨大化】【変身】をまず学ばれていました。
ある日「お空を飛びたい」と言いだされました。もう少し勉強して【変身】で小鳥でもなればと申し上げたのですが、不満顔でした。待ちきれなかったようです。 その日からいきなり凧あげを始めました。
何個もの凧を何回も揚げ、人形を縛り付けてみたり、何種類もの重りを吊り下げてみたり。いやな予感がしました。
一か月後、凧を風車小屋くらいに【巨大化】してそれに吊り下げられて空を飛んでいました。
「凧の面積と自重、私と吊り下げるロープの重量、風の強さ全部実験して計算したわよ」
自信たっぷりでした。その時6歳、発想は子供のようですそれを即実行できるだけの行動力と魔法力、予め何度も実験を繰り返し知能は確かに天才かも…いやいや、やっぱり紙一重の方でしょう。
空を飛ぶのは計算通りでしたが、強度は計算違いでした。強い横風で凧が破れた時は、見ていたメイドの何人かが気絶していました。
その時、姫様は消えました。【縮小】で小さくなったそうです。
「蟻を塔の上から落としても平気でしょ?くうきていこうとじゅうりょくによるかそくが釣り合うと大丈夫なのを咄嗟におもいだしたの」
どこで覚えたのでしょうか?訳の分からない事ばかり言ってます。
当時まだ魔法が未熟で、【変身】も【縮小】も服ごとする事は苦手でした。それがかえって幸いしました。風に乗ってふわふわ流れていったシャツ(の内側)にしがみ付いて傷一つなしで帰ってきました。シャツ以外の服は全ててんでバラバラに流れていって…傷一つないとはいえ…6歳児とはいえ…悲惨な恰好でした。これ以上はいえません。
(半笑いになってますよ)
あとで王様に散々お尻をぶたれてました。ぷぷっ
(完全に笑ってますね)
あ、いえいえ。えっとなんでしたっけ?
「ぱらしゅーとを先に作れば良かった」
訳の分からない事を呟いて、あまり懲りていないようでした。とは言え心配をかけたのは反省したようで、【変身】が完璧になるまでの一年数カ月は凧の研究は封印されていました。
【変身】があるなら凧の研究は必要ないような気もしますが、水晶玉のトラウマでしょうか、驚異的な魔力量を持ちながら魔力を使わない、又は最小限の魔力で使える魔道具の研究は姫様の生涯かけたテーマになっていたようです。
凧と自ら鳥に【変身】することで様々な実験と観察を行い、ついには「乗用凧」という全く新しい乗り物と「航空力学」という全く新しい学問を開発してしまいました。たった一人で世界の常識を変えてしまったのです。
あぁ、【変身】にはもう一つ理由があったんですけどね…うぷぷ
(?又笑ってるよこの人、なんで?)
魔法を体力で使うのはご存知でしょうか?いえ「魔法『で』体力を使う」のではなくて。
神業はご存知ですよね?剣の達人なら一振りで十の斬撃を放ったり、まるで地面が縮んだように近づいたり、鍛え上げた者だけが使える魔法と似たような効果を現す技です。
魔法が使えるなら魔法で闘いのサポートをするのもよくやる事ですよね。姫様はこれを逆に考えたのです。魔力を使わず体力を使って魔法を発現する方法を開発してしまったのです。常識をひっくり返す技術に剣術界も魔法学界もテンヤワンヤですよ。今の所これを使えるのは姫様だけですけどね。誰でも使えるようになるのか?はたまた姫様だけの特異体質なのかは今後の研究待ちですがね。
これは思わぬ恩恵がありまして、日常的に魔法と体力を使う分、体型を美しくキープできるのです。異国の神話に例えるなら「愛と美の女神」というより「月と狩猟の処女神」といったところでしょうか。変に聞こえたら困るのですが、特に脚とお尻と背中は憧れるくらいでした。
…その分前の方は…アイロン台の方がましなんて、私の口からは言えません。
(この人、よく毒吐くよね)
10歳頃の事ですが、さすがに胸の事が気になりだして、まず何をしでかしたかというと、城中の女性に全員に聞いて回ったのです。祖母・母・子で顔以外も似るのか?生活習慣や食べ物は?女同士とはいえ、ほぼ性的嫌がらせですよね。実際に触られた人も多数…「もっと観察したい」と平民街の公衆浴場に行こうとしたのをそれだけは!!と必死でお止めしたりで、もうね
おかげで姫の算術…特に統計学はかなり高度な所まで進みました。
それからメイド全員のサイズを把握したため、メイド服の発注も楽になりました。
…と思ったら、姫はもう一歩も二歩も先に進んでいました。大人数のサイズを把握したため、平均を割り出し、数種類で全員にほぼピッタリの服を大量に予め用意できるようになったのです。結果、王家の予算が抑えられ、この考えは他の貴族や豪商、そして軍など似た服を大量に用意する必要のある所に採用されました。妙な騒動も多いのですが、後になって役に立つ事も多いのです。
そうそう、結論は「牛乳をたくさん飲む」と「土台作り、つまり胸筋を鍛える」でした。
今度は男も交えての実験と観察と統計です。若い騎士たちなら遠慮なくペタペタ胸を触れますからね。男の騎士はともかく、女のメイドは筋肉痛の具合で効率を測るのはちょっと可哀想でしたが。
結局、手の位置を広く取った腕立て伏せか、寝そべった状態で重石を上げ下げするか、鳩に【変身】して羽ばたき続けるでした。
(あぁ、それでさっき)
本人はあくまでも「空を飛ぶ研究」と言い張ってましたがね。ぷぷっ
他にも「懺悔のコロシアム」事件、「男爵家の壁」事件、「不屈の案山子」「繋がった水晶」「火炎放射器の発明」まだまだありますよ。(いや結構です)
ある日、落雷で山火事が起こったのを見て言いました。
「どうしてカミナリで山火事が起こるのに、【火球】と【雷撃】は別系統の魔法なのかしら?そう言えば、カミナリも雨も同じ雲から降るのに別系統なのはなぜ?この教科書おかしいわ」
私は困り果て、王様は一笑に付しました。魔法の家庭教師は現職の魔法使いとして、教会や魔法学界の権威を疑うような事を言ってと怒り狂っておかしくない事なのですが、教育者として優秀なこの人は子供の好奇心をうまく誘導してくれました。
「そうだねぇ、不思議だねぇ。でも何か見落としはないかな?今は基礎を押さえて、中級や高等魔術教本まで進むと答えが見つかるかもよ。」
普段きかん坊な姫ですが、こと学問と魔法には素直です。前にもまして熱心に勉強するようになりました。まさか、一心にその研究を続けていたとは…この時、家庭教師の先生が止めていたら、今学会の混乱も無いかわりに未来の進歩も無くなっていたかもしれませんね
十歳やそこら只の子供の疑問ならそのまま忘れさられるでしょう。しかし、幼くして数々の功績を残し、王立魔法アカデミーに飛び級で入学、首席で卒業の魔法学士の論文に、これまでの学問体系の常識を覆され、千年の謎とされた「三原質のパラドックス」が解決されたのです。
はてさて、姫様はこれからも何をしでかしてくれるやら。楽しみで仕方がありません。