依頼を達成しに村へ(3)
この時ばかりは彼女欲しい病は一時的に完治しており、何とか目の前の少女に笑顔が戻るようにするにはどうすれば良いかと言う事だけを考えていた。
クロイツに問いかけられたリサと言う少女は今迄の村民からの対応、そして今正に直接村長から自分の対応を聞いてしまったので目には生きる力が宿っていない。
「……ここまでとはな」
村長を始めとして村民の目がある所でリサをフォローしても余計な事を言われると思い、この場での対応は諦めるクロイツ。
「村長、早速俺は依頼に出る。討伐証明は何をすれば良い?」
「宜しくお願いします。目撃された二体は共に顔に大きな切り傷があるそうです。可能であれば、その顔が分かるように持ち帰って頂けると……」
これだけ確認すると、クロイツはさっさとリサを連れて村を後にする。
周囲の気配に気を付けながら進むクロイツの後を、トボトボと少々おぼつかない足取りでついてくるリサ。
完全に村が見えなくなったところで徐にクロイツは座り、少々後方にいるリサを笑顔で手招きする。
リサは一切表情を変えず、クロイツの前に来ると立ったままじっとクロイツの瞳を見つめている。
相変わらず目に命の灯火がないと感じつつも敢えて自分としては少々柔らかい表現を使い、クロイツは話しかける。
「リサ。先ずは座ってくれ。取り敢えず最初に言っておきたい事は、俺はリサをどうこうするつもりはないからな。いきなり信じろと言っても無理だろうが安心してほしい。そもそもグレートオーガ程度は瞬殺だ。むしろその雄姿をおま……リサに見て貰いたいと思っている程だ」
普段の荒い言葉使いが出そうなところを修正しながら話を進めるクロイツに対して無表情のまま言われたとおりに座るリサだが、クロイツの話に反応する様子はない。
「……とりあえずは、腹ごしらえだな」
自分の異能を秘匿するよりも目の前の少女の笑顔が重要だと思っているクロイツは収納魔法によって片っ端から保管していた中の一部、料理長が調理した直後の湯気が出る状態の食事を数点リサの前にだす。
ここでクロイツの話には一切無表情を貫いていたリサに明らかな変化が起きる。
少々怯える様にクロイツの顔を見た後は、じ~っと食事を凝視して視線を動かさないのだ。
「リサ。遠慮なく食べろ。おま……リサの仕事は先ずは健康になる事だ。子供が遠慮する事はない。お代わりもいくらでもあるから、ゆっくり食べるんだぞ!」
その言葉を聞いて最初は少々怯えつつもゆっくりと食事を口にすると、徐々にその勢いは増していく。
見ただけでかなりお腹を空かせていた程度の事は分かる程の痩せ具合。
今までの自分は周囲から疎まれてはいたが衣食住に困った経験は無い為、この目の前の少女を守ってやりたいと言う気持ちが溢れて来るクロイツ。
「ゴホッ、ゴホッ……」
「ほらほら、落ち着け。ゆっくり食べて大丈夫だ」
クロイツは慌てて食べて喉を詰まらせているリサに、再び収納魔法を使って果実のジュースを手渡す。
「……ありがとう、ございます」
未だ緊張しているのか、そんな中でもキッチリとお礼を言って飲み物を口にする。
「お、美味しい!」
漸く子供らしい表情が出たのを見ると、クロイツも同じ様に食事を口にする。
そんな事を思っているクロイツ自身も、大人と言える年齢ではないのだが……
この後はただひたすらに食事をして半ば強引にクロイツがお代わりを出して食べさせると、その事を恩に感じたのか信頼されたのかは不明であるがリサは自らクロイツに語り始めた……のだが、内容はクロイツにとって許容できる事ではなかった。
「その、美味しいお食事をありがとうございました。これで思い残す事は何もありません。生贄だろうが囮だろうが立派に勤めて見せます」
「……おいおい、俺がそんなふざけた真似をする男に見えるか?そもそもグレートオーガ程度で囮だの生贄だのとは何のギャグだ?取り敢えず子供は余計な事は考えなくて良い。丁度あっちに目標の二体がいるからここでちょっと待っていろ」
思わず素が出てしまってそう言いつつ食器を収納すると早速依頼を達成しに行こうとするのだが、何故か袖を遠慮がちに掴まれるクロイツだった。