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町へ(1)

 目の前の狐に見える魔獣は、何故かある前世の知識の一部にある狐じゃないんだろうな……と思いつつも軽く狐の魔獣を数体始末すると、クロイツには敵わないと悟った魔獣達はあっという間に逃げて行った。


 追って始末する程でもないと判断したクロイツは、何となく適当に使ってみた剣をしまう。


「高名な冒険者の方とお見受けします。私はゼリア帝国の…とあるお方の騎士をしておりますミュラと申します。この度は我らをお助けいただきありがとうございます」


 このミュラと言う男だけは一切怪我をしていないが、他の騎士達は誰しもが浅くない傷を負っており回復薬による処置が行われていた。


「いや、王…冒険者として当然の事をしたまでだ」


「おぉ、感謝いたします」


 取り敢えず“さわり”はこの程度で良いのだろうとクロイツは何でもない風を装って軽く返事をすると、想定通りにかなり感謝するかのような言葉がミュラから洩れて来た。


『こうなると次はあの馬車の中から金髪縦ロールの素晴らしい女性が出てきて、俺にぞっこんになる……と言う訳だな。順調、順調!』


 朧げな前世の記憶をたどり、次の行動を先読みしてどう対応するかを心中で無駄に素早く検討しているクロイツ。


 既に馬車の中には複数の女性が怯えているのを軽く(・・)行使した気配察知のスキルで感知しているので、高貴な女性とそのお付きの者達だろうと推測できている。


「では、我らは急ぎますのでこれで失礼させて頂きます。本当にありがとうございました。おい!お前ら急ぐぞ!!」


「……」


 必死で次の行動を検討している最中のクロイツは、騎士であるミュラの言葉が理解できない。


 その間に騎士達は少々斜めになった馬車を起こすと、あっという間にクロイツの前から消え去っていく。


「えっ?あれ??ここは俺がもっと感謝される所じゃねーの?称賛されるんじゃねーの?出会いの場じゃねーの?お嬢様は??お姫様は??お付きのメイドは??」


 暫し困惑するクロイツだが、現実は厳しい。


 いくら疑問を口にしても誰も答えてくれるわけもなく、たった一人この場で謎の誰かに話しかけている怪しい人物が出来上がっていた。


「くっそ、働き損じゃねーか。まっ、誰も死人が出なかったから良いけどよ!」


 漸く再起動する事が出来たクロイツは、適当に仕留めた狐の魔獣を収納すると再び歩き始める。


 その方向は騎士達が向かった方角とは逆に向かっているが、最早あの騎士達には用がないので一切気にする事なく再びテクテク歩き出す。


 もうあんな中途半端なイベントはないだろうと思いながらも歩くクロイツの予想通りに何もないまま、進行方向の先には防壁が見えて来た。


「結構栄えている…のか?あの騎士達、こっから来たんじゃねーだろうな。再会した時にどんな顔して良いか分からないぞ?って、今からこんな心配していても仕方がねーか」


 再び悲しい独り言を呟きながら、初めて入国の列に並ぶ。


 以前までは如何に雑な扱いを受けていたと言っても王族であり、王位継承権第一位だったのだからこのような列に並ぶ必要は一切なかった。


 新鮮な気持ちで並んでいたのだが、前後はどうやら冒険者のパーティーの様で今日の成果や反省点を仲良く話しているのを聞いて、一人で旅をしている為に少しだけ寂しい気持ちが芽生えるクロイツ。


 やがて自分の番になる。


「見た事が無いな。新顔か?商人には見えないから冒険者か?ギルドカードは持っているか?」


「いや、申し訳ないが身分を証明する物は何もない。初めて祖国を出てみて直接ここに来たからな」


 嘘を言ってはいないので、表情には一切の変化はない。


 恐らく門番は長年の経験から嘘を言っているかどうかある程度は分かるのだろうと判断して事実を告げただけだが、これが功を奏したかどうかは不明だが丁寧に説明してくれた。


 知識にある通りに冒険者登録をすればギルドカードが与えられ、それがどの国家でも身分証明書になる。


 冒険者でなければ商人ギルド、それも合致しなければ市民ギルドに登録する事によって何かしらのギルドカードが得られるとの事だ。


「そのカードが出るまでは悪いが銀貨10枚(1万円)で仮の身分証を出させてもらう。銀貨は持っているか?」


「あぁ。問題ない。手間をかけるな」


 ポケット中に手を入れて収納魔法から銀貨を10枚取り出し、あたかもポケットの中から出したかのように振舞うクロイツ。


 ここでも自分の能力を秘匿する事は忘れない。


「確かに。これが仮のカードだ。ギルドに登録する時にこのカードと交換すれば銀貨を支払う必要はない。ただこのカードを無くした場合、ギルド登録時に再度銀貨10枚必要になるから気を付けてくれよ。それと出国時にカード紛失が明らかになるから、その時にも銀貨10枚必要だ」


 そう言って手渡された仮のカードを受け取り、防壁の中に入るクロイツ。


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