クロイツの動き(第三者視点)
「あ~、俺様とした事が決断が遅かったな。もっと早くこうすりゃ良かったんだよ。なんでかは知らねーが、義理を通そうとしたのが不幸の始まりだな」
クロイツとしてはこのまま国王になった場合、国家の為に、全てではないが一部の力を使っても良いと考えていた。
それもこれも今迄育ててくれた両親、そしてあまり記憶にはないが仲良くしてくれた?であろう血の繋がった弟妹、更には国民の為に。
だが理想と現実は大きく乖離しており、権力争いと言う醜い渦に巻き込まれてしまったクロイツはその力を国の為に使う事を一切諦め、勝手に出国してしまった。
転移を使って出国しているので、出国履歴には残らない。
つまりは、未だ国内の何処かに隠れているだろうと弟妹は思っているはずであり、彼らの脅威となり得るクロイツを血眼で探しているはずだ。
逆に言うと追手もなく、気ままな旅を続ける事が出来ると言う事だ。
このクロイツ、何故これ程あり得ない力を持っているかと言うと、実は前世の記憶の一部がある異界からの転生者だったのだ。
その為に家族に対して義理を返そうと言う気持ちを強く持っていたのかもしれない。
転生前の記憶が一部あるので転生者と言うのはこう言った力を得られる物だと勝手に理解しているクロイツは、この力について不思議に思う事はない。
残念ながら前世の完全な記憶はなく……思い出せるのは前世で得た知識、例えば生活環境、一般常識、そして自分の生い立ちは学生だったと言う事と、常に彼女が欲しいと言う願望があったと言う事、更には何故か異世界に行くと特殊能力が得られる事や、異世界での一般的な知識の一部……と言う中途半端なものだ。
その知識も、どのようにして得た物か等は一切わからない。
情けない事この上ないがこれが事実であり、その記憶があるからこそこのような旅をしようと吹っ切れた。
そう、気ままな旅をしつつ、彼女を作ると言う野望に向かって邁進すると言う決意を新たに!
王子と言う立場であれば本来は向こうから彼女、いや、婚約希望者が殺到するのが基本だが、その実力を隠しているクロイツの王位継承権は何れ剥奪されると広く認識されており、誰一人としてアプローチすらかけてこなかった。
王侯貴族特有のパーティーも、第一王子ではあるのだが一人ポツンと席に座っているのがクロイツの日常だったのだ。
事実、教育係程度に私室に平気で乗り込まれる立場になっていたので、周囲の女性から見れば地雷物件以外の何物でもなかった。
クロイツとしても権力にすり寄って来る人物は願い下げで、本当に自分を思ってくれる人希望!と固く心に誓っていた。
逆にあの状態でアプローチをしてくれる人がいれば、即座に婚約をすっ飛ばして結婚していたに違いない。
結果的に王国にはそのような貴族の女性は一人もおらず、残念ながら非常に優れた異能を持つ優秀な人材を一人失ってしまった。
そんなクロイツはある程度の距離まで転移をすると、街道をテクテクと歩いている。
流石に連続して転移を使うと体内の魔力が枯渇し、行動不能になる恐れがある。
それに、気ままな一人旅。
景色…と言っても今のところは木や茂みしか見えないが、景色を楽しむのも一興だろうと歩いている。
「こんな時って…確か奇麗で高貴な女性が襲われて、それを助けるイベントがある、はず?」
ぼんやりと思い出せる前世の記憶によれば、今のクロイツにとっては最高のイベントが発生するはずだった。
「誰か!!」
助けを求める声にカッと目を見開くクロイツは耳をすませて周囲の音を拾うと、明らかに戦闘の音が聞こえていた。
「来た来た来た~!!」
不確かな記憶ではあるが前世の記憶通りになる事が間違いないと思い、スキップをするように一気に助けを求める方向に向かうクロイツ。
「あそこか!」
街道から少々離れた小川の淵に少々斜めになっている馬車と、その馬車を守ろうとする騎士、そして襲い掛かっている狐のように見える魔獣の姿が見えた。
「お!騎士…と言う事は、やっぱり高貴なお嬢様だな!!」
ウキウキしつつも、表情は意識的に厳しくして彼らの方に向かう。
「助けは必要か?」
「おぉ!冒険者か?頼む!」
王城から出る時に敢えて使用人が着ているような服装でいた事が功を奏して、王族とは悟られる事がなかったクロイツ。
そもそも既に故郷からは相当距離が離れているので、例え王族や貴族であると認識されてもどこの国家に所属する人物かそう簡単には分かるはずがないので抜剣してそのまま狐のような魔獣の背後から襲い掛かる。
「キャンキャン……」
鳴き声は弱弱しいが狐に聞こえるし、見た目も狐だ。